1日の仕事を終えた金曜日。週末の開放感と脱力感を胸に、なまえさんの番号に電話をかけた。

「・・・はい」まだ会社にいるのだろうか。いつものふやけた声とは違う、少しだけぱりっとした声になつかしさを感じた。

「いま大丈夫ですか?」
「あ、ちょっと待って」

トイレかどこかに移動したのか、次に聞こえてきたのはいつものふにゃふにゃしたなまえさんの声で。やっぱこっちの方がいいなあ、なんて思いながら用件を切り出す。

「今日飲み会入っちゃって。行ってきてもいいですか?」
「ああうん、大丈夫だよ。会社の?」
「高校の部活で集まるっぽいです」
「そうなんだ!珍しいね」

楽しんでおいで、と言う彼女に返事をして電話を切った。待ち合わせの場所に向かうべく電車に乗り込む。

木兎さんから電話がきたのは今日の昼休みのことだった。この人からの連絡はいつも急で、まあ別に特に予定もないからいいんだけど。

もう少しで着きますとラインをした。木葉と飲むんだけどおまえ来れる?とのことらしいので多分今日は3人か、猿杙さんがいるかだろうか。改札を抜けていつもの待ち合わせ場所に向かえばすでに木兎さんと木葉さんがいた。


***


「お前まだ彼女と続いてんの?」

ビールを一口飲む。喉から冷たさが浸透して心地いい。枝豆をつまみながら、木葉さんが言う。

「まあ、おかげさまで」
「結構長いよなあ」
「木葉さんは彼女できましたか」

少しからかうつもりで言えば隣の木兎さんがげらげら笑い出した。木兎うるせえ、と怒っているあたりまた振られてしまったんだろうか。「同棲楽しい?」気が済むまで笑ったのか、木兎さんが聞いてくる。

「まあ」
「家事は相変わらずお前?」
「そっすね」
「赤葦は本当世話好きだよな〜」

木兎然り。ニヤニヤする木葉さんを見、なんだと、とそれに食らいつく木兎さんを眺め、この人たちは本当に変わらないなあと思った。

世話好き。確かにそうかもしれない。木兎さんは別として、なまえさんはなんというかこう、放っておけないのだ。ちょっと目を離したら干からびていそうというか、生活できなさそう感がすごくて。

「でもさ、彼女の飯食いたくね?」
「確かにな〜」
「家事はやっぱ女の子にやってほしいよなあ」
「赤葦の彼女全然料理できねーの?」

全然できないっすね、と正直に答えると2人に目を丸くされた。なんだ、俺の彼女に文句でもあるのか。

「なんすか」
「よく同棲続けてられるなあ」
「・・・なんでですか」
「いやだってさ、男ならやっぱ彼女の手料理食いたいとかないの?」
「まあちょっとは思いますけど」

でも任せたら大惨事になりかねない。一度包丁を持たせたところ、案の定指に傷をつけたなまえさんを思い出した。

「分業っすよ」料理のできない女なんてありえない。別にそういう意図で言っているんではないと分かっているけれど、少しむっとする。

「料理はできないですけど掃除とか皿洗いとかやってくれますよ」
「仕事も俺よりできるし、忙しそうだけどそのぶん甘えてくれるし」
「そもそも俺が支えたくて同棲始めたんですから」

つらつらと言葉を連ねる。別になまえさんはぐーたらしているだけじゃない。

「別に俺は、彼女が俺のこと好きだって思ってくれてるだけでじゅうぶ・・・」

ハッとした。

ハッとして口を塞ぎ、木兎さんと木葉さんを見るとニヤニヤといやらしい笑い方をしている。

「いや〜赤葦くんの彼女は愛されてますな〜」
「お前彼女大好きだな〜」

くそ、言わされた。まんまと挑発に乗ってしまったことに気づいて、悔しくて恥ずかしくて一気にビールを煽った。

「今夜は帰さねーぞリア充しね」真顔で木葉さんが迫ってくる。たまったもんじゃないと、木葉さんの空いたグラスに気づいた俺は店員に焼酎を頼んだ。早くこの人たちを酔い潰してしまいたいからだ。

なまえさん、ちゃんと夕飯食べてるかな。



その後1軒目で見事2人を酔わせ店にそのまま置いていった。帰宅するとなまえさんは1人で宅飲みしていたらしく、べろんべろんになって俺に抱きついてきた。まったくこの人は、と思いつつゆるむ頬を抑えられなかったのは俺のせいじゃない。





 ただいまが言えるということ


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