私はその日も京治くんの作ったおいしい夜ご飯を食べ、癒しの空間であるお風呂に入っていた。お気に入りのアロマオイルと防滴スピーカーでゆったりと楽しんでいると、急に電気が落ちる。

「わ」

京治くんのイタズラか、とも思ったけれどどうやら違うらしい。ブレーカー落ちたかなあ、京治くん大丈夫かなあ。考えながら、とりあえずいったんお風呂から出ようと立ち上がる。

「京治くーん」
「なまえさん、大丈夫ですか?」
「平気ー」

ドアの向こうから少し焦ったような声が聞こえる。ブレーカーをあげる前よりも先にこちらに来たらしく、暗闇で彼がガンガンとどこかにぶつかる音がした。

「京治くん大丈夫?落ち着いて」珍しく慌てる彼にそう声をかけながらお風呂場のドアを開け・・・・あれ。

「そういえば鍵かけてたんだった」

えーっと、・・・鍵、鍵。浴室の内側についている上下式のそれを手探りで探すけれどなかなか見つからない。京治くんはドアの向こうで「なんで出てこないんですか、なまえさん大丈夫ですか」ととっても慌てているようだ。

「えーっと京治くん、とりあえずブレーカーあげてもらっても」

なんも見えない、と伝えると俺もなんも見えないんですよ!とのこと。

「・・・落ち着いてー」
「早く出てきてくださいって!」

あれ、もしかして暗いとこ嫌い?

初めて知った京治くんの弱点に若干ニヤニヤしつつ、言われた通りに鍵を探す。「あ、これか」やっと手にあたったそれを上にあげて、ドアを開けるとぼんやり人型が見えた。

「京治くん?」
「タオルかぶってください」
「はいはい」
「ブレーカー・・・」
「私があげてくる、京治くん待ってて」

彼からタオルを受け取って体に巻きつけ、玄関にあるブレーカーへと向かう。うーん、あれはちょっと届かない。お行儀悪いけれど、と玄関掃除用の箒の柄でグイと押し上げた。

「お、点いた」
「なまえさん」
「んー?」
「すんません」
「いーえ」
「風邪ひくんで、お風呂戻ってください」
「はーい」

言われた通りに浴室に戻る。脱衣所から覗く京治くんに「なあに」と問うと、「鍵かけないでくださいね」と返ってきた。

「暗いとこ怖いの〜?」
「なまえさんを心配しただけです」
「強がんなって〜」
「うるさいです」
「わ、やめてっ」

言葉と共に今度は京治くんの手によって浴室の電気が落とされる。拗ねてしまったようで、彼は部屋に戻っていってしまった。

「かーわいーなー」

同棲して1年半。彼の新たな一面ににまにましつつ、大好きなアロマの香りに包まれて。・・・その後すねてしまった京治くんのご機嫌取りがなかなか大変だったことも、でも珍しすぎてにやにやしてまた怒られたことも、全然気にならなかった。



 バスルームの鍵

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