『外回りでなまえさんの会社の近くにいます』

お昼休憩に入る直前、そんなラインが京治くんから飛んできた。課長に見えないようそれを開いて、こそこそと返信する。『あと10分なんだけど、お昼一緒に食べれる?』


「京治くん!」お待たせ、そう言って駆け寄ると、普段あまりゆるまない彼の顔が一瞬柔らかくなった。

「お疲れさまです」
「うん、お疲れ。お昼行こう!」
「元気っすね」
「ふふ、京治くんの顔見たらいつでも元気出る」

どこ行こうか、とこのあたりのランチのお店と京治くんの好みを頭の中で照らし合わせていると京治くんの手が私の髪に触れる。ん?と首をかしげ見上げれば優しく笑う京治くんがいて、私もちょっとだけ笑ってみせた。

「ここでいい?」
「はい」

結局、この前先輩に連れてきてもらったおしゃれなカフェに入った。少し路地裏にいったところで、静かで落ち着いた雰囲気のそこは、ご飯がおいしくて値段もお手頃でとても気に入って。いつか京治くんと来たいな、なんて考えたことを思い出したからだ。

課長のグチをちょっとだけ聞いてもらい、京治くんの午前中の仕事の話も聞いて。そろそろ戻らないと、と腰を上げた。お昼休みに会えるのは嬉しいけれど会える時間はやっぱり少ししかなくて、ちょっと寂しい。

「だめ?」
「だめじゃないです」

そこの大きい通りに出るまで。京治くんの左手を握ると力を返してくれて、それにきゅんとしながらてくてくと歩く。このまま家に帰りたいなあ、なんてふざければ京治くんはちょっと立ち止まって私を引き寄せた。

「わ」
「ちょっとだけ」

人通りの少ない道だからそうしたんだろうけれど。京治くんが外で、しかもお昼に、こんなことをしたのは初めてじゃないだろうか。きゅ、と背中にまわった腕に力が入るのが分かる。

「また夜会えるよ」
「・・・はい」
「お仕事がんばって」
「・・・なまえさんも」

寂しい、って考えたことが伝わって、それで慰めてくれたのか。それとも京治くんも同じように考えてくれたのか。

それは分からないけれど、私も素直に彼の腕におさまる。京治くんがこんな風になってしまうのが珍しくて、微笑ましくて、可愛くて、好きだなあ、と思った。



 腕の中でシエスタ

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