休日の昼下がり、目を覚ますと隣になまえさんがいなかった。
「・・・・!?」
あまりに珍しい事態に思わずガバリと起き上がってしまう。時計を見ると12時半。とくに約束もしていないのに13時前になまえさんが起きるなんて何事だろうか。
寝起きの少しぼんやりした視界で部屋を見渡すと、ベランダに通じる窓のカーテンが少し開いているのが目についた。
「なまえさん・・・?」
声をかけながら窓をそっと開けると彼女がうずくまっていた。
「なまえさん何してるんですか」
「あ、京治くん」
おはよう、と振り返ったなまえさんは笑顔だった。ひとりでベランダで、この人は何にニヤニヤしているんだろう。疑問に思いながら一歩外に出るとおのずと理由が分かった。
「・・・ねこ?」
「うん。さっき起きて、窓開けたらちょうどいたから」
構ってたの、とへらへら笑いながら。なまえさんの言う通りその膝にはネコがいて、かしかしと顎の下をかかれて気持ちよさそうにしていた。
「京治くんはお寝坊さんだね〜」そうネコに話しかけているなまえさんの隣にしゃがみ、わしゃわしゃと頭を撫でる。
「こいつどうしたんですか」
「野良かな?首輪してないし」
「その割に綺麗ですね」
「デブだしね」
その黒い毛並みはつややかで、彼女の言う通り確かに少しでっぷりしている。表情はどこかふてぶてしくて、高校時代お世話になった他校の先輩をなんとなく思い出した。
「(・・・黒尾さん元気かな)」
「お腹すいてるかな?」
牛乳持ってくる、となまえさんはネコを俺に預けてぱたぱたと台所に行ってしまった。「おまえどこからきたの?」問いかけながらおでこをさすってやるとにゃあと鳴く。人懐っこいネコだ。
しかしよく寝た。もうほぼ真上にある太陽を見上げる。いい天気だなあ、洗濯回したかったけどしょうがないか。
なまえさんが戻ってきた。その手にある小さめの皿には薄めた牛乳。はい、と差し出すとぺろぺろ舐め始めた。
「かわいい〜」
「なんかこいつなまえさんに似てますね」
「デブって言いたいの?」
「違いますよ、うまそうに食べるとことか」
俺が作った夕飯をおいしそうにぱくつくなまえさんを思い浮かべる。頬をゆるませて幸せそうに食べているのを眺めるのが日々の癒しだったりするのだ。
「あ、もう行っちゃうの?」
牛乳を舐め終えたそいつはにゃあとひと鳴きしてベランダをつたい行ってしまった。ばいばい、と手を振るなまえさんを横目に俺も猫を見送る。
「ネコ飼いたい」
「言うと思った」
「ダメ?」
「ダメじゃないですけど」
ベランダで2人で並んで座りながらぼんやり話す。別にこのアパートはペット禁止じゃないし、俺もネコは好きだし、別にいいんだけど。
「なまえさん構いすぎて殴られてそうですね」
「・・・確かに」
「そろそろ部屋入りましょう」
ぐいとなまえさんの手をとり立ち上がらせる。少しよろめいた彼女を受け止めて、頭にあごを乗せた。どうせ子ども作るんだし、結婚までは2人でゆっくりしたいなあ、なんて考えながらぐりぐりと彼女の頭を顎で攻撃してみる。
「(ま、オーケーもらえたらだけど)」
「まーでも、京治くんともうしばらく2人きりでいたいしペットはいいか」
痛いよ、と俺の顎を押しのけながら言うなまえさん。その言葉に少し驚く。なんだか頭の中身を覗かれた気分だ。
「どうしたの、入らないの?」首をかしげ見上げてくる彼女のおでこにキスをした。
昼 ベランダデート
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