「タイムセール」
「そういえば先生、来る途中にも怪人が出ましたね。今日はやけに怪人に遭遇する気がします。」
わたしたちは3人並んでわたしの家に向かって歩いていた。
わざわざ護衛のように送ってもらうのだから、家に着いたらお茶くらい出そう、そんなふうにぼんやり考える。
「あー確かに。それはアレじゃね?ソヨカゼのせいだろ。」
「ええ!?……否定出来ないのがつらい。」
「なるほど…!」
「ジェノスさんも納得しないでください!」
わたしは思わず項垂れた。
「まあでもよかったな。」
サイタマさんが明るい声で言う。
「ソヨカゼといれば怪人が出ても大きな被害が出る前に退治できるしな。」
「サイタマさん…。」
「先生…。」
ジェノスさんがどこからかノートとペンを出し、何かを書き出した。
すると、ドシーン!という地響きがした。
「ぎゃははは!俺はゴイリョクナッシー!アレだ!えーと…なんか怪人だ!!」
「また出たー!」
「設定テキトーだな。」
「先生、ここは俺に任せてください!」
有無を言わさずジェノスさんが猛ダッシュした。
「俺はちょーやべえヤツだぜ!てめーら!今からこの辺をアレするから覚悟しろ!!」
「黙れ怪人!」
「なんだおめーは!」
ジェノスさんは怪人に攻撃を仕掛ける。
住宅地であり市民も多くいるので、いつもの焼却は使わないみたいだ。
凄まじい戦闘。
しかし圧倒的にジェノスさんが優勢。
「見て!ジェノスだ!」「S級ヒーローだ!」「かっけー!」
わらわらとギャラリーが集まる。
わたしも少し離れたところでサイタマさんと観戦する。
「やるなぁジェノス。」
「でも…怪人もなかなか倒れませんね。」
「まぁジェノスなら大丈夫だろ。」
「うおっ!いてぇなおい!なんだその…やべえソレは!お前もアレしてやろうか!?」
(…こいつ…ふざけた設定だがなかなかタフだ。)
激しい攻防が続き、わたしははらはらとその光景を見ていた。
というのも、怪人が現れた場所は、わたしの住むマンションの近くだったのだ。
怪人が動く度に地面のコンクリートにヒビが入る。
「ど、どうしよう…。」
「あ。」
「?」
観戦していたサイタマさんが、突如動きを止めた。
「…やべえ!」
そしてサイタマさんは怪人に向かってジャンプした。
「!?先生…?」
「あと五分でタイムセール終わっちまう!!ジェノス急ぐぞ!!!」
怪人は上半分が消滅していた。
「え…?あ、そうでしたね…はい…。」
ジェノスさんは気の抜けた顔で返事した(サイボーグだからあまり顔に感情は伺えないが)。
しかし、問題はそこではない。
サイタマさんの打った強烈なパンチ。
そのパンチは背後の建物に当たり…。
わたしの家が……。
「……なくなった。」
わたしは膝から崩れ落ちた。
続く
公開:2016/12/29/木
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