失業忍者


「失業したってほんと?」


わたしは畳の上に思い切り手を付いた。
ちょっと痛かった。


「人聞き悪いぞソヨカゼ。俺は鍛練のためにしばらく依頼を受けないことにしただけだ。」


それってつまり仕事しないわけだから失業みたいなものじゃん。

と言おうとしたけど、ストイックな彼のことだから何を言っても無駄だろう。

それにいつまでも理想を追い求めるソニックは嫌いじゃない。
むしろ頑張ってほしいと思うから、わたしはこれ以上何も言わないことにした。


「じゃあさ。」
「ん?」


わたしは気付く。


「これから毎日家にいるの?」
「ああ、まあ鍛練以外の時間は基本いるだろうな。」
「ほんとに!?」


わたしが突然大きな声を上げたものだから、ソニックは驚いて少し身を引いた。


「あ、あぁ。ほんとだ。」
「やった!じゃあ帰ったら毎日ソニックがいるんだ。」
「毎日かはわからんぞ。」
「それでもいいよ。」

契約期間の何ヶ月も会えないよりは。


「ふん。可愛いやつだ。」

ソニックがわたしの体を引き寄せ、わたしは彼の腕の中に収まる。
無駄のない、鍛えられた腕。
これ以上に鍛練が必要なのか。彼の目指すものは、どこまで高みにあるのだろう。


「俺が家に居るのがそんなに嬉しいか。」

耳元で囁かれ、なんだかたちまち恥ずかしくなる。

「…嬉しいよ。だって帰って1人だと寒いもん。こたつも暖房もついてないし、暗いから。」

それもあるけど、もちろん一番はそれじゃない。
ソニックはふっと笑った。


「素直じゃないな。」
「…うるさっ。」
「ふん。」

ソニックはさっきから、顔こそ見えないがやけに楽しそうだ。


「ようやく同棲らしくなるな。」

「…!」

さらりとそういうことを言うソニックはすごいというか、特に何も考えてないというか。


でも本当にその通りだ。
わたしの家に勝手にあがりこんでいた恋人であるソニックに、同棲という口約束をしたのは窓から入ってくる様に不法侵入感が否めなかったからだった。
恋人ならドアから入ればいい。
だから同じ鍵を持って、活動拠点を同じにした。

それでも不規則な生活を送るソニックとは、家で顔を合わせない日も多くて。


「同棲感なくしてたのはソニックの方だよ。」
「…ああ、否定できん。」

ソニックは少し低い声で呟いた。
自覚はあったのか。
そりゃあそうだよね。
わたしが寂しい時に電話口で文句を言ったりもしちゃったし。
ソニック忙しいのに、悪かったなぁ…。


ぼんやり考えていると、ソニックは唐突に体からわたしを離した。
そして向き合うと肩をぎゅっと掴んだ。

あれ、どうしたんだろう。
というか、ちょっと痛いな。

なんて考えていると、いつになく真剣な顔で見られていることに気づいた。


「ソヨカゼ、これを機にそろそろ夫婦にならないか。」

「!!…め…っめおと…!!」


わたしは思わず叫んだ。


ふうふじゃなく、めおと。


「?」


突っ込むところそこかよ自分、と何故か冷静になるわたしを、ソニックは不思議そうに見ている。


夫婦にならないか、か。
なんかソニックらしいな。


「ソヨカゼ?」
「あ、うん。よろしくお願いします。」
「…なんか軽いな。真面目に考えているのか?俺はだいぶ真剣だぞ。」

ソニックは眉根を寄せる。
わたしは慌てて両手を振る。

「ご、ごめん。だってあまりに突然だったからさ…。」
「そうか?同棲の話から結婚に飛ぶのはおかしいか…?」

まあ、突然も何も無いか。
恋人になってから何年経つんだ。
そろそろそんな話があってもおかしくはない。
むしろ、話を切り出してくれたソニックに感謝すべきだ。

「…ありがと、ソニック。」
「ん?ああ。礼を言われる程ではない。」


いつもとそんなに変わらないソニックに、わたしはなんだか笑いそうになった。

プロポーズってこんなもんなのかな。
まあなんでもいいや。

わたしは真顔のソニックに思い切り抱き着いた。
ソニックは少しふらついたけど、ちゃんとわたしを受け止めてくれた。


「嬉しいな。」
「嬉しいか。よかった。俺も嬉しいぞ。」

ソニックがわたしの髪を指で梳く。
くすぐったくてちょっと気持ちいい。

…あ。

「でもソニック失業中だよね?」
「だから、人聞きが悪いぞ…。まあ安心しろ。鍛練期間に備えてちゃんと蓄えてある。」

さ、さすがだ。
忍者って結構稼ぎいいのか?
それとも、ソニックがすごいだけなのか。

「お前をしばらく食わしてやれるくらいには蓄えてあるから、心配いらん。」
「ソニック…。」
「お前が突然大食いにならん限りな。」

ソニックは喉を鳴らして笑った。
わたしはソニックの鍛えられた胸に顔を押し付ける。


「毎日ご飯作ってあげるね。」
「それは嬉しいな。」
「だからちゃんと帰ってきてね。」
「ああ。飯が無くてもちゃんと帰ってくるぞ。」

ソニックが腕に力を込めたのがわかった。



これからは夫婦か。
考えたこともなかった。

「どうなるんだろう。」
「わからん。だがこれで確約できたな。」
「?」

「俺とソヨカゼ、死ぬまで一緒だとな。」


ああ、なるほど。

契を交わすってそういうことか。



「ソニック。」
「なんだ。」
「長生きしてよね。」
「ああ、そうだな。」



一秒でも長く一緒にいるために。




fin.



タイトルが恐ろしい。



公開:2016/12/13/火


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