君が見つけてくれた


4才の時。
かくれんぼしてたら、私以外みんな帰っちゃったことがある。
どうしても私を見つけられなくて、みんな私が先に帰っちゃったと思ったんだって。

でも私はずっとすべり台の下にいたの。
でも皆には見えなかった。

その時初めて個性が発動してたの。
他人に認知されなくなる、私の個性。
そこにいるのに、いないと思われてしまう個性。

その時はまだ個性の使い方なんて分からないから、私はただ訳も分からず動けなかったの。
何故か声も出せなくて、呼吸が出来なくて、ひたすら神様に祈っていた。

みんなの足音は徐々に消えていった。


でもね、たった1人。
彼だけは違った。


「どこだよ。」

「いるんだろ?」

「お前が何も言わず、途中で帰るわけねえもん。」

「出てこいよ。今なら怒らねえから。」

「なぁ…翠。」


かっちゃん。

かっちゃん、ここだよ。
ずっとここにいたよ。

ずっとずっと、誰かが見つけてくれるの待ってたよ。


だから…お願い。
早く私を見つけて。


ーーかっちゃん…。

唇を動かす。
声にならない声が漏れた。


「見つけた。」
「!」


かっちゃんの目に、しっかりと私が映り込んでいる。


「かっちゃん。」
「おう。」


ああ、よかった。
私はちゃんと存在している。


「見つけてくれてありがとう。」



かっちゃんは、照れくさそうにそっぽ向いてしまった。

「当たり前だろ。ヒーローは困ってる奴のとこに現れるんだ。」

ヒーロー。
そうだ。かっちゃんは、私のヒーロー。





だから。



「おい、あと誰だ!?」
「翠がまだ見つかってないよ!」
「げっ、水智かぁ。」
「擬態の梅雨ちゃん見つけるのも苦労したのに、ラスボスに水智はキツいぜ…!」
「全裸の葉隠もなかなかキツかったな…色んな意味で。」

実技の授業、今回のテーマはケイヴィラ。
警察役と敵役に別れて行う隠れ鬼的なゲームである。ヒロヴィラと違って戦闘はない。
超人社会化前にはケイドロ、ドロケイなどと呼ばれたゲームだ。
今回の授業ではオリジナルルールとして、敵役最後の一人になり、且つ授業時間残り15分になったら、敵役も警察となり全員で捜索にあたることになっている。

「よしっ、元敵諸君!!心して水智くんを探そう!!」
「「おー!」」

「委員長、張り切ってるぅー。」
「どうせ今日もまた爆豪が見つけんだろ?オレら必要か?」
「待ってりゃ爆豪が連れて来そうなもんだよな!」
「だからこそ!!今日こそは我々で見つけようじゃないかっ!」

「あ…そのかっちゃんは?」
「えっ、爆豪くん?そーいや見かけんなぁ…。」
「なにっ!?」



楽しそうな喧騒が小さく聞こえる。
何度も私の前を素通りしていった皆を思い出して、小さく笑った。

「なに笑ってんだ。」
「!」

慌てて口に手を当てる。
いや、もう手遅れか。

「今日もオレの勝ちだな。翠。」

ニヤリと悪戯っ子みたいに口角を上げる幼馴染に、悔しさよりも嬉しさがこみ上げる。

「かっちゃん。」
「…おう。」
「あり」

「あー!いたぁー!」

口を開いた瞬間、峰田くんの声が聞こえた。
慌ててそちらを見れば、皆がこちらに向かって駆け寄ってきていた。

「やっぱ爆豪かぁ。」
「さすがだわ爆豪ちゃん。」
「アイツ水智の捜索いまだに負けナシじゃねー?」

皆がかっちゃんを讃えている。
私は思わず笑みがこぼれた。

「るっせぇな有象無象ども!!これで終わりだろうが散れ!散れ!!」

かっちゃんはやけくそに叫び散らす。
そこに講師のオールマイトが現れた。

「ハッハッハ!無事皆見つかったようなので、教室に戻って反省会を開催するぞ!!」

ワイワイと教室に向かって歩き出す皆の背中を見て、私も歩き出した。
まだ鼻息荒く不貞腐れてるかっちゃんに気付き、振り返る。

「かっちゃん!」

「あぁ!?」

「私を見つけてくれるのがかっちゃんで、私嬉しいよ。」


照れくさくて早足で歩く。

「かっちゃん!よく私を見つけられたね!」

隠すように大きな声を出せば、パシッと手首を掴まれ、逆にかっちゃんに追い越される。

「当然だろ。オレが翠を見落とす訳がねぇ。」

「…かっちゃん。」


やっぱりあなたは、私のヒーロー。


「でもかっちゃんも5回くらい素通りしたよ。」
「……この辺にいるなってのはわかってたんだよ!!」
「あははは!」
「おい何笑ってんだ翠……デク!!テメェまで笑ってんじゃねぇぞオラァ!!」
「ヒィ!!辛辣!!」



昔から変わらない。
あなた以上のヒーローは、私の中にはいないよ。


「かっちゃん…!」

「あぁっ!?」



「かっちゃん!…見つけてくれて、ありがとう!!!」




fin.



公開:2018/09/03


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