水あそび


「水やり担当、めんどくさー。」

夏休みだと言うのに、わざわざ制服まで着て学校へ。
今月の水やり担当は私達ヒーロー科1-A。

「おい、花も生きてんだぞ!面倒でもやらなきゃよ!」
「まぁそうだけどさー。」

同じく今日の水やり担当、切島。
ちなみにペアはくじで決まった。

「休日くらいゆっくり寝たかったなぁ。」
「今は毎日休日だろ。それに早起きは三文の得っていうだろ!夏の朝って気持ちいーじゃん。な?」
「切島は前向きだね〜。」

まあ確かに、気持ちがいいかも。
今日は晴れるだろうな、昼間は暑そう。


ぶつくさ言う私は切島に励まされながら学校に到着した。
まぁ、歩いて五分なんだけどね。

「寮制もいいかもね。学校まで近いし。」
「ああ、それは言えてんな。」

ホースを蛇口に突っ込みながら、切島は頷く。
私はホースの先を持ち、広い花壇に向けて構える。

「行くぜ!」
「来い!」

長いホースの中を通り、先端までやって来た水が勢いよく放出される。

「「おー。」」

声がハモって、お互い顔を見合わせて笑った。

「おぉ、虹!」
「すっげー!綺麗だな!」

なんやかんや楽しみながら、かなり広い花壇に満遍なく水を撒いていく。

「水智ー!こっち水かかってねえ!!」
「おっけー。あ、待って長さ足りない…えいっ。」
「うおっ!?」

ホースを引っ張ることに集中して、先端に意識がいかなかった。
花壇の向こう端にいる切島に、勢い余って思い切り水をかけてしまった。

「おい!これ…どうすんだこれ!」
「アハハ!切島髪の毛ぺったんこ〜。」
「お前なー!」

切島はズカズカと私の方までやって来て、ホースを奪い取った。

「仕返しだ!!」
「わ!ちょっと…!!」

至近距離で頭のてっぺんから爪先まで水をかけられた。
切島はざまーみろ!と笑う。

「切島…やったな!!」
「おおっ!?」

更にホースを奪い返し、霧状モードからジェットモードにする。

「いたたた!!お前、それは卑怯だろ!?」
「はっはっは!くらえウォータービーム!」
「必殺技みてーに言うなっ!」

逃げる切島を追いかける。
水分を含んで泥になったグラウンドも気にせず、びしょびしょのローファーで駆け回る。

「待てこらぁー!」
「やだっつの!とりあえずホース置けって!フェアじゃねーって!!」

ローファーの中の濡れた靴下が気持ち悪い。
それでも、太陽のあったかさと水の冷たさで、どこか爽快な気分になる。


「うるせーぞオメェら!!」
「「!」」

職員室のあるベランダから顔を覗かせたのは、我らが担任、イレイザーヘッドこと相澤先生。

「げ、相澤先生!」
「やっべ…!」
「切島、水智…お前らな、俺らが休日返上で働いてるってのに、何学校で遊び倒してんだ。嫌味か?おい。」
「いやその水智が水かけてきて…。」
「いやあれは事故だったのに切島が…。」

切島が水智がとキリのないやり取りに、相澤先生はため息を吐いた。
それから、グラウンドを見渡す。

「お前らいくつだよ。高校生とは思えねーぞ、この散らかしっぷり。」

私と切島は校庭を見渡す。
花壇を中心に、かなりの範囲に広がる水の跡。
地面がゆっくり、ゆっくりと水を吸っていく。

「水撒くのは花壇だけだろーが。ったく…無駄遣いすんなよ。」
「「すみません…。」」
「水が乾いた後、グラウンドがボコボコになったら綺麗に整備して貰うからな。覚悟しとけよ。」
「「はい……。」」
「水やりはもう終わったんだな?」
「「はい!」」
「じゃあ解散。"そんな格好"で校内うろつくなよ。」

そんな格好…?

私達は顔を見合わせ、お互い視線を下げる。



「「!?」」


「ばっ!!おま、服…!透け…!!」
「え?あっ!」

真っ白なワイシャツはびっしょりと濡れ、下着が完全に透けていた。
切島だけじゃなく相澤先生にまでも見られていたと思うと急に恥ずかしくなってしまった。

相澤先生は「さっさと帰れよ」と職員室に引っ込んでしまう。
グラウンドには、びしょ濡れの生徒二人が残された。

「お、お前ジャケットは?」
「持ってるわけないじゃん!とっくに衣替えしたし!」
「だ、だよなぁ…。」

慌てて背中を向けたけど、完全に見られた…。

「ほんとどーすんのさ…あー、もう!」

髪の毛や服の裾を絞り、水気をとっていく。
とりあえず目立たない所に行き、軽く乾かしてから帰ろうということになった。

「これじゃ寮の床も濡らしちゃうし…皆滑っちゃったら大変だし…掃除させられるし…。」

私がブツブツと呟いていると、切島は申し訳なさそうに俯いた。

「水智、ごめんな…。」
「ん…まあ私も悪ノリしちゃったし、切島だけのせいじゃないよ。」

正義感の強さからか、切島はまだ悔しそう。

「いや、でも女子に水かけるとか男として最低だった!ほんと申し訳ねえ!」
「い、いいよそういうの…なんか…恥ずいじゃん…逆に…。」
「え…あ…。」
「…。」
「…。」

お互いだまりこんでしまい、空気がどんどん重くなっていく。


「…と、とにかく早く乾かそ!」
「そ、そうだな!おう、そうだ!」
「…。」
「…。」

それから無言になり、水が地面にポタポタと落ちる音だけになった。

大分水気はとれたけど、やっぱり服は透けている。
寮まで近いとはいえ、この時間なら早起きの人達が共有スペースにいるだろうし、その人達に見られるというのも色々ヤバい気がする。


「こっち見ないでね!」
「わかってるって!」

私達は、中庭の刈り揃えられた芝生の上に少し間隔を開けて、並んで寝転んだ。
ぽかぽかというよりギンギンの太陽に照らされ、じわりと汗が滲む。
仕方ない。制服が乾くまでの我慢だ。


目を閉じると、さっき見た光景が思い浮かぶ。

切島…なんていうか、結構いい体してたな。
個性も相まって肉体派だろうし、やっぱ筋トレとかめちゃくちゃやってんのかな。
……男らしいといえば、それに尽きる。

って、何考えてんだ!?私!!

「あのさ、水智。」
「な、なに!?」

変なこと考えてたの、気取られたか!?
あぁ、ダサいよ私……!

「お前ってさ……ちゃんと鍛えてるのか?」
「……は?」
「いや、さっきちらっと見えたんだけどよ…筋トレしてるって言ってたわりには、筋肉ついてな……って、おい?どうした?」
「……私先帰るわ!!」

「へ!?なんだよ突然!?おーい、水智!?おぉーいぃい!?」


何か始まるかも、とか思った私が馬鹿だったわ。

「おい、待てよ!俺なんかしたかぁ!?」
「うるさいっ、時間差で来てよ!変な噂たてられるでしょ!?」
「え……噂?」


どっちにしろ、異様な私達にみんながざわざわするのを避けられなかったんだけど、ね。




おまけ


「あっ、水やり担当おかえり……あれ、翠だけ?」
「切島はどうしたぁ?」
「ケロ…水やり当番は二人のはずよね。」
「つーか、なんでお前そんなびしょ濡れなわけ?」
「オォッ!濡れっぬれ!!」
「ちょーとぉ!二人で何かあったのー!?」
「エッ、恋バナ?恋バナ!?」

「!」

うっ……確かに。
二人で帰ってこなきゃ、逆に怪しかった……!
しかもこんなに濡れて…怪しすぎたか!

「おーう、今帰っ……あれ?」
「き、切島ァァ!!てめぇまで濡れて……おい、何があったんだ!?おい、オイ!?」
「お前だけは仲間だと思っていたが……まさかお前…水智と……?」
「はぁ!?何の話だよ!?」

「明らかに異様だよなぁその濡れ方?なぁ?切島さんよ?水智はなんであんなヌレヌレなんだ?お?」
「ぬ、ぬれっ……!」
「峰田くん変な言い方しないでくれる!?切島に水ぶっかけられただけだから!」
「ブッカケ……。」
「ぶっかけ……。」
「ぶっかけ。」

「おい水智語弊!語弊!!」
「ちが、ちょっ……やめてよみんな、そんな目で見ないで!?」
「何もねーって、ちょっとその、遊んじまって……、いや違うって!そーゆー意味じゃなくって!!」

「みんな待ってよ、話聞いてよぉおー!!」
「おい黙って部屋に行こうとすんなっつーの!!」


その後、みんなの誤解を解くために、相澤先生の証言までも必要となったのは言うまでもない……。



fin.


公開:2019/08/11/日


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