夕立


「う〜わ、雨やーば!ごいすー!?ごいすー!」
「ンッハ!すんげー夕立だな〜」
「色々外に出しっぱなしで来ちまった〜!」
「どうせ、すぐに止むだろう」

突然の夕立。
外で練習をしていた巨深高校アメフト部のメンバーは、慌てて校舎内の部室に避難したのだった。
濡れた髪や体を拭く男達の中で、筧は一人小さくぼやいた。

「……凪…大丈夫だろうか」



ざわめく部室が、突然感嘆の声となり、一層ざわめき出した。

「ンハッ!?凪っちびちょぬれー!!」

水町の大声が部室内にこだまする。
部室入り口には、水町の言葉通りびちょぬれの凪が、買い出しのスポーツドリンクの入ったレジ袋を両手に立っていた。

「うぅ、うるさいなぁっ!突然降ってくるんだから仕方な…」

そして消えた。

「……?……?」

部室内の皆の頭にはてなが浮かぶ。
凪がいた場所には、スポーツドリンクが数本散らばっていた。

「え、えっと……今のは……」
「筧先生……?」
「だったよな……!?」
「は、速すぎだろー!筧!!」

アイシールド21こと小早川瀬那にも匹敵しそうな速さで筧が凪を連れ去ったのだった。



筧の脇に抱えられていた凪は、ロッカールームで漸く足が地面と触れることを許された。

「な……な、なんなの?」

凪はドキドキと速く脈打つ心臓を押さえ、軽く息切れする筧を見上げた。
あの筧が一人を抱え、ほんの少しの距離を走っただけで息切れ。
相当慌てたのだろうということが予想できた。

真剣な鋭い瞳で凪を見つめる筧。
凪が後ずさると、背中にヒヤリとした感触。
筧の顔は、走った直後だからか少し頬が紅潮している。

「凪……」
「は、はい……」

凪は冷や汗を流す。
ゴクリと唾を飲み、次の言葉を待つ。

すると、筧は小さくそっぽ向いて、呟いた。


「……透けすぎ、だ」


「……へ」




ロッカールーム

「……ピンクだった」
「れ、レース……!」
「やっぱほせーよな、凪って!ピッチリ張り付いてた!」
「……ご、ごいすーだわ」

感極まる男達。




凪は、今までこんな恥ずかしい格好で部員の前に立っていたのかと気付かされ、顔を真っ赤にしてあわてふためいていた。

ぼすっ

いまだに目を逸らしたままの筧から投げられたタオルを、凪は両手で受け止めた。

「早く拭け。風邪引く」

ぶっきらぼうに吐き捨てられた言葉。
凪はうん、と小さく呟いた。

「着替えは?」
「休日だから制服ないし…着替え持ってきてない……」

なかば絶望的なような声を出す凪。
筧は小さくため息をついた。

濡れたTシャツなんか着てたら体が冷えてしまう。
体が冷えたら風邪を引いてしまう。

筧がふと顔を上げると、ロッカーの一つからはみ出た布。
水町の替えのTシャツだ。

「……!」

筧はある案を思いつき、そしてそのあと少し赤面した。




雨はすっかり上がり、少しずつ青空が面積を占めてきた。
巨深高校のアメフト部員は、待ちくたびれたかのように一斉にグラウンドに出てきた。

「それじゃ、グラウンドを整備して練習を再開しましょう」
「ん!そ、そうね!俺も思ってたソレ!!でもほらここは後輩との意思のシンクロを楽しむためにね……」
「小判鮫先輩そればっか……」

ゾロゾロとグラウンドのあちこちに器具を持って散らばっていく部員たち。


「あれ、凪っちはー?」

水町のとぼけた声が耳に入り、筧はビクッと小さく反応した。

「……あ、ああ。もうすぐ来るだろ」
「「……??」」

「す、すみません、着替えてたら遅くなって……というか出てくる勇気が出なかっただけですが……」

後半をごにょごにょと話す凪。
その場にいた者は、やっと来たか!と振り返る。

「ンハッ!遅かったじゃん、凪、っち……」

ピシリと動きを止めた。
そこにいたのは、なんとぶかぶかすぎるTシャツを必死に下に伸ばす凪。
すぐさま筧に視線を送ると、顔を真っ赤にして固まっている。

皆は合点がいった。

濡れてしまったが着替えのない凪は、筧の替えのTシャツ一枚を着てここに来たのだ。

ただでさえ小柄な凪が、ただでさえでかい筧のTシャツを着る。
何もしなくても太ももを半分覆えるが、黒いTシャツから覗く白い太ももはなんとも扇情的であった。
しかも、それを隠そうと必死にTシャツを押さえているのだ。


水町が小さく呟いた。


「…す、すんげー破壊力……!」
「やっぱ中にいろ凪っっっ!!」


部室で事務仕事をすることになりました。



おまけ

「……なぁ、大平」
「なんだよ大西」
「水瀬……下着、着てたと思うか?」
「……!!!」

大平、鼻血を出して卒倒。


fin.


公開:2016/03/16/水


[ 7/21 ]

[*prev] [next#]


[目次に戻る]
[しおりを挟む] [コメント・誤字脱字報告]





- 塀の上で逢いましょう -




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -