きみのともだち



若利くんとは、だれよりも近くにいた。
ずっとずっといっしょにいた。
若利くんが小さな時から。
ずっとずっと、いっしょにいた。


覚えているのは、若利くんのお父さんがぼくを若利くんにプレゼントした時。
若利くんはとっても喜んでくれた。
顔はそんなに変わらなかったけど、きっと喜んでくれたんだと思う。


それから毎日いっしょに過ごした。
いつもいっしょだった。
ご飯を食べる時も、宿題してる時も、夜寝る時も。
いつもいっしょだった。

若利くんはいつもぼくと二人きりで遊んでくれた。
でも、お父さんを交えて三人で遊ぶ時が、一番楽しそうだった。

若利くんは、お父さんが大好きだったんだと思う。
ぼくも若利くんのお父さんが大好きだった。
だって、大好きな若利くんとの出会いをもたらせてくれた人だから。



でも若利くんのお父さんは遠くへ行ってしまった。
どこへ行ったのかはわからない。
多分遠くへ行ってしまったんだと思う。


ぼくたちはふたりぼっちになってしまった。

でも若利くんは変わらずぼくと遊んでくれた。
来る日も来る日も、ぼくと遊んでくれた。

いつか若利くんはぼくに語ってくれた。

『とうさんのような"ぷれーやー"になりたい。』

ぷれーやー?

『とうさんのようになるんだ。』

そっか。
それなら、ぼくはそんな若利くんの夢の手助けをするんだ。
若利くんが嬉しいと、ぼくも嬉しいから。

若利くんはきっとお父さんみたいになる。
ぼくは信じてる。

だから、ぼくたちずっと二人で頑張ろうね。
だってぼくたちは、ずっとずっといっしょにいたんだから。



でも。
若利くんは次第にぼくと遊んでくれなくなった。
若利くんには、外に仲間ができたんだ。




若利くんはすごい人だ。
きっとたくさんの人に期待されて、必要とされて、頑張っているんだろう。

それってどんなにつらいことなんだろう。
ぼくには到底わからない。
だから若利くんには、そのつらいことをぼくに教えてほしかった。

でも若利くんは教えてくれなかった。
一人で抱えて、一人で成長して、一人で強くなって。

ぼくにはつらいことを分けてくれなかった。


若利くんはどんどん大きくなっていく。
心も体も。
だけどぼくは変わらない。
ぼくは少しずつ小さくなっていった。



でも、そんなある日。
若利くんがとても疲れた顔で帰ってきた。
多分、みんな気付かないほど小さな変化だったと思う。
ぼくだから気付けたんだと思う。


若利くんは荷物を置いて畳の上に座って。
壁にもたれかかるぼくを見上げた。


「…俺は。」

うん。

「牛島若利だ。」

うん。

「白鳥沢学園高校でエースとして活躍した。」

うん、そうだね。

「全日本ユースに招集されてる。」

うん、知ってるよ。

「色々な人から期待されている。」

そうだね。

「だが、負けた。」

…うん。

「俺は、負けたんだ。」

……うん。

「最後の春高。俺は全国大会出場を逃した。」


若利くん。

君はいつも頑張ってる。

どんなに苦しくても、つらくても、
頑張ってる。

きっとそれは、これからもずっと続くんだろう。

若利くんのバレー人生はまだ終わらない。
若利くんはきっともっと強くなって、たくさんの強い人達と戦うんだ。
たくさんの人達の希望を背負って、戦っていくんだ。


ぼくは、そんな若利くんをずっと見守るよ。
きっとお父さんが君を見つけてくれるまで。
ずっとずっと、君を見守るよ。


きっと若利くんのことだから、明日にはいつものように堂々としているんだろう。
今日のことは、みんなには秘密にしていてあげる。
だから、思いっきり吐き出していいんだよ。
ずっとずっと、ここにいるからね。



ああ、もしもぼくに力があれば。
うんと、うんと抱きしめるのに。
もしもぼくが話せるなら。
勇気づけることができたのに。



君はいつも頑張ってる。

今日くらいゆっくり休んでね。
また明日から頑張れるように。
また明日から、前を向けるように。
もっと強くなれるように。



ぼくは、君の友達。
それが、いつか君の幸せに繋がりますように。



君は、ぼくの友達。
それは、ぼくの幸せ。




fin.


あとがき。


きlみlのlとlもlだlち / 谷l山l浩l子
が元ネタです。
一部歌詞を引用しています。


公開:2018/02/09


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