芸術作品みたいな恋だった



白森日和は芸術作品だと思った。
確かに彼女は美人の部類だと思うけど、そんな安直な理由だけではない。
雰囲気、佇まい、仕草。
声も、表情も、心の中も。
何もかもが美しいと思った。

だから、彼女に惹かれてどうしようもなくなった時、この思いの丈をぶつけるのは容易だった。
それ程に、耐えられなくなっていたんだと思う。
彼女が俺のものでないという事実が。


絵画のオークションなんかで、どんどん額を上乗せしていく富豪の気持ちが解るような気がした。
どんな手を使ってでも自分のものにしたい。
そんな気持ちだ。


実際、彼女が俺のために笑ってくれている日々は幸せだと思えた。
賢二郎君、と俺の名前を呼び、俺に向かって微笑みかける。

こんなにも満たされる瞬間が、
バレーにおける勝利の瞬間以外にあるのかと。




でも。
幸せは長く続かなかった。



「牛島君に、告白されたの。」


彼女が敬愛していて、俺も憧れている牛島さん。
その時俺は、不思議と悔しいという感情は湧かなかった。

寧ろ、感動すら覚えた。

彼女と牛島さんが恋人になる。
その姿を想像しただけで、震えが止まらない程だった。

彼女の隣に牛島さんという人が居座るという光景が、恐ろしい程美しいと思ったのだ。

きっと、いや絶対にお似合いの恋人になる。
そんな確信を抱けた。



さらさらと風が流れていく。

放課後、夕暮れの中。
紅葉が生い茂る校庭の隅っこで、2人向かい合う。
ああ、なんて美しいんだろう。
やっぱり彼女の思考回路は美しい。

彼女が俺との関係を終わらせるのに、この場所を選んだことも芸術的だと思う。

彼女の頭に紅葉が1枚舞い落ちる。
全てをとっても美しい。


こんなにも素晴らしい演出を見せられたら、別れさえも美しく思えてしまうじゃないか。


目を伏せている彼女。

今日俺達は、まだ一度も目が合わない。

まるで絵画だ。
ぼんやりと絵画を見ているような、ふわふわと覚束無い感じ。

目眩がするような、気が遠くなるような。
そんな感じ。



…あれ。
どうして俺、泣いているんだろう。
どうして胸がズキズキと痛むんだろう。


ああ、そうか。
俺は日和さんを愛していた。

「…すみ、ませ、…」
「賢二郎君。」

凛とした声。
今後その声は、牛島さんに注がれるのか。
そんなの、やっぱり。
ああ、俺は…。

「賢二郎君と恋人として過ごせた日々…キラキラして、特別で。…本当に楽しかったよ。」


なんて美しい目だろう。
そのガラス玉の表面に、俺が情けない顔で写っている。


嗚呼。

日和さん…。


「ありがとう。」


…その言葉を選ぶのも、やっぱり美しいんだ。

大好きだった。
何よりも。誰よりも。

ああ、俺は、これからまた日和さんにとってのその他大勢に戻るのか。



こんなに美しいお別れをプレゼントしてくれたあなたに、感謝を込めて。
あなたが俺といた時よりも幸せになれますように。


こんな言葉を送れば、あなたの人生において、俺にも芸術的価値をつけてもらえるだろうか。


「幸せに、なってください。」

俺といた時よりも、ずっと…。


ねぇ、日和さん。
大好きでした。


さようなら。
あなたの幸せを願っています。



愛していた。
誰よりも、何よりも。

何もかもが、作り物みたいに美しくて。
超現実のように非日常的で。
それでも、現実で。
全て真実だった。


あなたとの日々は、まるで、

芸術作品みたいな恋だった。





fin.



あとがき。


この話においてちょっと気にしてほしいのが、白布くんのヒロインに対する呼び方です。
彼女→名前→あなた というふうに変わっています。
呼び方に心情を被せようと思ってやってみました。

…それだけです。笑



『別れさえも美しく思えてしまう』
というのは、歌詞の一部です。
W:a:y o:f D:i:f:f:e:r:e:n:c:e/G:L:A:Y の一部です。
(気持ち悪いんですが、:で検索避けしてます汗)

本当に綺麗な曲なので、ぜひ聴いてみてください!



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。



公開:2018/02/09


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