贈り物


「ねぇもうすぐクリスマスだよ。」
『おう。こっちも、もうクリスマス一色だよ。どこもかしこもキラッキラしてるわ。』
「…そっか。」


会いたい、なんて言えなかった。



鉄朗は今、海外にいる。
海外のバレーチームに所属して、バレーに関する色々なことを学んでいるらしい。

着いていこうかと思ったけど、私にはその勇気がなかった。
そしてそれは今でもずっと後悔している。
単に寂しいからというだけではない。
そばで、鉄朗を支えて応援してあげられないことが、悔しくて仕方なかった。


日本でも盛り上がるクリスマス。
鉄朗はきっとクリスマスなんて関係なしに練習があるんだろう。
わたしは予定を入れる気にもならなくて、結局イブである今日も、明日もひとりきりだ。


外には出たくない。
クリスマスで彩られた街を歩く勇気がない。
昨日買い溜めしたから、二日間は引きこもっていられる。
気を利かせてくれた上司がわたしに休みをくれたけど、これならあくせく働いていた方がマシだった。

忙しいと、寂しさを忘れていられるから。



すると、突然ドアのチャイムが鳴った。

「なに…?」

覗き穴から見えたのは、大きな箱を抱えた宅配便業者。

「あ、お届けものですー。サインお願いします。」
「は、はい…。」

伝票は、英語で書かれていた。
まさか。

「はい、ありがとうございます。」
「お世話さまでした…。」

慌てて部屋に戻り、ゆっくりと英語の文字を読む。
差出人は、Tetsuro Kuro。

「鉄朗。」

送り主の住所欄。
そこには海外の見知らぬ土地が書きつけられていて、それを見た途端に涙が溢れた。

「鉄朗…。」

何度も何度も名前を呼ぶ。
鉄朗が暮らしている場所…。
遠い場所。


ダンボールを見つめて、思いを馳せる。

何も、いらないよ。
鉄朗がいなければ、なんの意味も…。

しかしプレゼントを選んでくれる鉄朗を思い浮かべると、やっぱり嬉しい気持ちが湧いてきて。
鉄朗なりに気を遣ってくれたのだろう。その気持ちを無下にはできない。

開けてみると現地で買ったらしい黒猫のぬいぐるみが顔を出した。
含み笑いを浮かべるような猫の表情が、どこか鉄朗を思わせる。

しかし、目に入った外国語のタグに、また泣きそうになってしまう。
気を紛らわせるように、ぬいぐるみを抱きしめてみた。
柔らかい。体が埋もれて、優しく包まれるみたいだ。

「…君が鉄朗の代わりになってくれるの?」

呟いても、勿論何も返事はなくて。
わたしはおかしくて小さく笑ってしまった。

「じゃあ今日から君はクロだね。」

なんの脈絡もないけど、何かしないと寂しさで押し潰されそうだから。

「鉄朗のこと、一緒に待ってようね、クロ。」

クロのお腹に顔を埋める。
なんとなく、眠くなってきた。


「鉄朗も一緒に連れてきてくれたらよかったのに…。」




気付いたら寝ていたようで、体の節々が少し痛んだ。
伸びをしようと体を起こすと、肩からブランケットが落ちる。

…ブランケット?
どうして、誰が?

しかも、部屋はいい匂いが充満している

そんな、まさか…。


慌てて台所へ行く。

そこには見慣れた後ろ姿。
逞しい背中には似つかわしくない赤いエプロン。


「…てつ、ろう…?」

「おう、ただいま日和。」



どうして…?だって、今日だって練習だったんじゃ…そんな簡単に帰ってこられる距離じゃないし、それに…。

「…っ。」

火を止めて両手を広げた鉄朗に、わたしは何も考えられなくなって飛びついた。
鉄朗はしっかりと受け止めてくれた。


「ごめんな、驚かせて。ぶっちゃけ厳しかったんだよ…練習終わって、間に合う便にちゃんと乗れるか。」

帰ると言っておいて間に合わなかった時のことを考えて、敢えて言わないでいたらしい。
鍛えててよかったと笑う鉄朗は、出発前に見た笑顔と変わらなくて。

「よし、起きたんなら手伝ってくれ。クリスマスにご馳走がなきゃ寂しいだろ?」
「うん!」

台所に二人並ぶのは久しぶりで、同棲していた日々を思い出す。
やっぱり、わたしには鉄朗がいなきゃ。



「「ごちそうさまでした。」」


満腹になって談笑していると、話の切れ目に鉄朗が切り出した。

「…でさ、今日はただクリスマスを一緒に過ごそうって、思っただけじゃなかったんだ。」

改まった鉄朗に、ドキドキと心臓が煩くなる。

「俺、ようやく覚悟ができたんだ。」

わたしは鉄朗が深呼吸するのを見て、手の震えを抑えるのに必死だった。
それは、いい報せ?悪い報せ?


「ずっと、一人にしててごめん。一緒にこっちで暮らさないか?日和、俺と、結婚してほしい。」


ああ、先に言われてしまった。
わたしだって、本当は着いていきたいと伝えたかったの。

「…はい、勿論!」

これからは、鉄朗の帰りを待つだけじゃいや。
ちゃんと、鉄朗の近くで支えたい。


「慣れない海外だと大変だと思うけど、今なら知り合いも増えたし、みんなよくしてくれると思うから。」
「うん。つらくても鉄朗がいれば大丈夫だよ。」

一人で日本に残るよりずっとマシなはず。

「しばらくはこっちに居られるんだ。次飛行機に乗る時は、二人一緒だな。」
「うん!」

これから忙しくなるね。
でも、鉄朗がいれば乗り越えられる。


サンタさんは来なかったけど。
鉄朗、最高のプレゼントをありがとう。



部屋の隅のぬいぐるみと目が合った。

「もしかして、君がサンタさん?」

クロは変わらず、笑ったまま。



fin.



公開:2017/12/25


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