特別になった日


クリスマスとか縁のないイベントだと思ってた。
両親は小さい頃からイベント事に無頓着だったし、その影響もあるのかおれも同じくだった。
イベントは、友達が少ないおれにとっていつも以上に教室の居心地が悪くなるから寧ろ嫌いだった。


だから、クリスマスといえばなんかクロがプレゼントくれるなぁ、くらいの認識。
クリスマスだろうが、と笑われて漸く気付く、そんな程度。




「お待たせ!」
「…え、あ…。」

だから今年も例年通り、朝から部活に出て、夕方に帰宅して、ご飯を食べ、お風呂に入ってゲームして寝るはずだった。

「研磨、寒くない?」
「あ…うん。」

なのに、おれは今騒がしい外にいる。
日和と出掛けるために。

『研磨、25日暇?』

暇ではない。朝から部活だ。
でもそんなことは日和も知っていて、部活の後暇かを聞きたかったらしい。
別に何も無かった。帰ってゲームするくらい。
だからそう伝えたら、彼女の口からは思いもよらない言葉が出てきた。

『じゃあちょっと出掛けよっか。』


断ればよかった。
こんな騒がしい場所は落ち着かないし、窮屈だし好きじゃない。
でも、そんな思いも日和に会ったら吹っ飛んでしまった。

久しぶりに見た日和の私服は大人びていて、ただの幼馴染に少しだけ心臓が速くなった。
俺達は高校も別々で、家は近いからたまにお互い制服でばったり会う程度だった。
昔はよく遊んだけど、最近はお互いのことに追われていて、ゆっくり話すこともなかった。


「で。どこ行くの。」
「んーとね、お菓子買いにいく。」

着いたのは駅近くのデパート。
外でさえあんな混み具合なのに、建物内となるともう息苦しさに目眩がする。
鼻までマスクを押し上げると、日和は少し申し訳なさそうにした。


「あ、これこれ。クリスマス限定なの。」

地下で目当てのものを見つけた日和は、綺麗にラッピングされた箱を3つ手に取った。

…誰にあげるんだろう。

「おまたせー。」

嬉しそうに袋を振りながら歩いてきた日和。
おれはなんとなく心がモヤモヤした。

「近くにパン屋さんがあるから、そこで休憩しよ。」

日和の提案にわざわざ反対する理由もなかったから、てきぱきと歩く彼女の後ろを着いていった。
コーヒーを1杯ずつ頼んで、日和がパンを買いたいからと行っておれは席取りに駆り出された。

椅子に座ると、薄暗い店内もあって少し気持ちが落ち着いた。
席にやって来た日和は、トレーを持っている。

「なに買ったの。」
「うん、はいこれ。」
「?」

テーブルに置かれたトレーには、ほかほかのアップルパイが2つ乗っていた。

「え、これ、」
「うん。1個は研磨に。付き合ってもらっちゃったからね。そのお礼。ここのアップルパイ美味しいんだよ〜。」

言われるがまま、その香ばしいおやつを口に運ぶ。
サク、と小気味いい音。
そして広がるカスタードとリンゴの味。

「おいしい。」

その言葉は無意識に発せられた。
今まで食べたアップルパイで1・2を争う美味しさだ。

「よかった。研磨昔からアップルパイ好きだったもんね。」

覚えてたんだ、そんな些細なこと。

「ありがと。」

日和は、ふふ、と笑った。
笑った顔は変わらないけど、やっぱり少し大人びた気がする。


それからクリスマスで彩られた街並みを眺めながら、並んでぶらぶらと歩いた。
郊外だから都心ほどの賑わいはないんだろうけど、やっぱりそこそこの混みようで。


でも久しぶりに、人混みにいても楽しいと思った。



電車に揺られ、おれ達の住む町に帰る。
急激に眠くなって、おれはうつらうつら始める。
ああダメだ、我慢出来ない。そういえばおれ、部活終わりだった。
せっかくのチャンスなんだから…家に着く前に、ちゃんと伝えなきゃ………。




「ふふ、寝顔も昔と変わらないや…。」

昔より逞しくなった研磨。
でもやっぱりこういうところは可愛いままだ。

家に着く前に、研磨に伝えられるかな。
ずっとあたためておいた気持ち。


寄りかかる研磨に同じように寄りかかって、肩に頭をこつんとぶつける。


降車駅まで、あと少し。





「クロ、おれ、クリスマスが好きになった。」
「え!?どうした!?」

日和に貰った、クリスマス限定のお菓子を食べながら電車に乗り込む。
クロも同じものの包み紙を開けて、口の中に放り込んだ。

「研磨がゲーム以外のイベントを好きになるとはね。」
「…これ美味しい。」
「だな。」

やっぱり、全部日和のおかげだ。




fin.




もう一個は家族用。


公開:2017/12/25


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