15分のクリスマス


世間はクリスマス。
わたしはアルバイト。


「…ありがとうございますー。」

「ありがとぉ!あたしこれ食べたかったぁ。」
「いいよぉ、クリスマスだろ?」
「うんっクリスマスさいこぉ!」


くっそ…くっそなんなんだよっ…!!
なんでクリスマスにお菓子をコンビニで買うんだよこのカップルはっ…!




『ごめん、好きな子いたんだ。クリスマスはその子に告白するから…別れよう。』


いやいやいやいやいやいや…。

色々おかしいだろ。

自分より好きな女がいたということは百歩譲ってよしとする。
でもせめてもっと早く言って欲しかった。
より虚しい思いをさせる元彼に心底幻滅し、怒る気も失せてしまった。



『ごめんなさいっ、海外にいる彼が急遽帰ってくることになって…シフト代わってもらえませんか…?』



彼氏と過ごす予定のなかった後輩の代わりに、彼氏と過ごす予定だったわたしが仕事をすることになった。




「…神を、呪う。」
「えっ。」
「!し、失礼しました!いい、いらっしゃい、ませ…?」


レジにケーキを置いたお客さんは、見覚えのある顔で…。


「えっ、白森?」
「夜久くん!」

隣の席の夜久くんだった。


「え、お前クリスマスの夜にバイトかよ?彼氏…あ、なんでもねえ。」
「言っちゃってるし!お察しの通りいないよ!ふられたわ23日に。」
「はっ?」
「ちょー虚しい話聞かせてあげよっか?」

自分で言っておいて悲しくなり、目にじわりと涙が浮かぶ。
それを隠すように酷い顔で笑って見せたけど、夜久くんは笑わなかった。

スベったのか私は?聖なる夜に雪も氷もない室内で?暖房が急に勢いを増したような気がしました。
わたしは更に虚し街道を直進しようとしたところ…。


「お前が、話したいならいくらでも聞くぜ。」


真面目な返答に、レジを打つ手が止まる。
顔を上げると、夜久くんは真剣な顔でわたしを見ていた。

わたしが返答に困っていると、夜久君が袖口から腕時計を出した。

「白森、何時上がりだ?」
「え、えと…23時45分。」
「なんだよその微妙な時間!?」
「いや、店長が気を利かせてくれて…独り身だからいいっていったのに…。」

15分とか帰宅してるうちに日付越すわ、と思ったけど優しい店長の心遣いを無下には出来ないので了承したけど…。

「…あと10分か…じゃ待ってるわ。」
「は?え?え?だってこれ、このケーキは?」
「それ、母ちゃんが急に食べたくなったとか言ってたやつだから!」

彼女じゃないんだ。

私は、少しずつ体温が上がっていくのが分かった。


「せっかくのクリスマスだろ?残り15分くらい満喫しよーぜ!」


夜久くんは、普段教室で見る三割増の笑顔を向けた。
わたしは三割増脈拍を速くして頷く。


「…うん!」




縁石の上で食べるケーキは格別に美味しくて。
寒さなんて全然感じなかったのは、隣に特別な人がいるからなのかもしれない。







「駐車場でたむろしてんの注意して来ます。」
「コラコラ野暮なことはするんじゃないよ…。」
「えぇ…いくら従業員だからって許すんすか店長…。」
「いいじゃないか…ふふ、青春だねぇ…。」
「まぁそッスねぇ…店長はいいんすか?クリスマスに仕事で。」
「俺は仕事が恋人なんだよ…。」
「…。」



fin.





公開:2017/12/25


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