白石がミスコンに出らなあかんくなってん




「ほな、次は俺やな。四方田さんどっか見たいとこある?」
「えーっと……特に、無いかな……」

私の横を歩く白石はどの角度から見ても世間一般でいうイケメンというやつで、隣を歩いているだけなのにすれ違う女子生徒からの視線が気になって緊張してしまう。テニス部にいる時も常に黄色い声が上がる人気者の彼とこうして肩を並べていいのだろうか……。急に不安になってきた。

「なんや、四方田さん浮かない顔しとるやん。どないしたん?」
「え、めっちゃ元気だよ!?」

そんな私の気持ちなんてつゆしらず、白石は肩の触れそうな距離で歩いている。人でごった返す廊下をかき分けて歩く私たちの距離はいつもより遥かに近くて尚更身体が強張ってしまう。

「……もしかして俺と回るの嫌なん?」
「っそ、そんなことないよ!!?」

不安そうに私の目線に合わせて覗き込む顔はやっぱり整っていて、平凡な私にはとても心臓に悪い。焦って盛大に仰け反れば、私のその態度が気に食わなかったのだろう、彼は珍しく美しい尊顔を歪ませた。

「俺と回るの嫌なら別行動してもええよ。無理せんといてな」
「ち、違うの!!……白石くんは、顔のこと言われるの嫌かも知れないけど、やっぱり、その……かっこよくて、心臓に悪いなって……」

事実にしても我ながら何を言ってるんだと頭を抱える。しかし、私の頓珍漢な発言にも優しい白石は困ったように眉を下げて笑ってくれた。

「なんや、俺、四方田さんに嫌われとるんかと思うて焦ったわ」
「嫌いとかないよ!!白石くんこんなに優しいのに!!」
「四方田さんが意識してくれるんやったら、この顔も悪くないかもしれんな」
「え?」
「いや、とりあえずブラブラ回って気になるとこあったらそこ見よか」
「うん!」

再び歩き出そうとした瞬間、白石を呼ぶ男の声が廊下に響き、彼は不思議そうに振り返った。私も進めようとした足を引っ込めて彼と同じ方角を見つめる。体育館の方角から走ってくる男子生徒は肩で息をしながらこちらに申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

「白石、彼女とおるとこ悪いねんけど頼みがあんねん」
「あー……なんや、頼みて」

白石は彼の発言を訂正する事なく返答した。驚いたが急用であろう彼の話の腰を折るのは違うと思った私も口を噤む。男子生徒の話した内容を要約すると、今から行う女装コンテストで白石のクラス代表が階段から落ちて怪我をしてしまったので、これから病院に行くらしい。そこで、投票の多数決をとった時に2位だった白石に白羽の矢が立ったというわけだ。

「あー……でもなぁ……」

白石は私の方をちらりと見ると人の良い彼には珍しく歯切れの悪い返事を零した。もしかして、私の事を気遣って返答に迷っているのだろうか。

「白石くん!!私のことはいいから行って来なよ!!」
「でも……」
「彼女さんも来たらええやん!!な、白石頼むわ!!」
「…………はぁ、わかったわ。四方田さん、ついて来てもろてもええか?」

もちろん、そう答えて実行委員だという彼に案内され、私たちは控室を兼ねている社会科準備室まで向かった。


***


「ほな、出番最後らへんに回してもろたさかい!また後で呼びに来るわ!」

実行委員はそう言うと急いで来た道を引き返していった。他の参加者はすでに準備をして体育館にスタンばっているらしく、この教室には二人きりだった。

「四方田さん、こんなことに巻き込んで堪忍な」

申し訳なさそうに謝る彼は派手なチャイナドレスに身を包んでいる。チャイナドレスから覗く逞しい手足は流石テニス部部長というところだが、端正な顔立ちのおかげで女性に見えないことも……いや、想像していたよりも男の子だな。

「全然気にしなくて大丈夫!!それで、私は何を手伝えばいいの?」
「なんや、化粧してからウイッグ被るらしいねんけど、俺化粧のことは全くわからへんねん」
「あー、なるほど!!私がお化粧すればいいんだね!!任せてー!!」

通学カバンからお気に入りの化粧ポーチを取り出してその中に入っている化粧品たちを次々と机上に並べた。白石は化粧品の種類の多さに驚いているようだ。

「女の子は大変やなぁ。どれをどこに使うか検討もつかんわ」
「ふふ、男の子からしたら未知の世界だよね」
「せやねん。俺は何してたらええやろか」
「前髪ピンでとめてもいい?」
「ええで、ほな、四方田さんに任せて俺は大人しくしとくわ」

さらさらとした象牙色の髪の毛をヘアクリップで止めると端正な尊顔がより一層露わになる。化粧水を含ませたコットンをキメの細かい肌に滑らせ、下地を塗って、粉を叩いて……と順に化粧を施していけば、美男子が女性に近づいていく様を見られてとても楽しかった。

大して化粧もしていないのにがっつり化粧をした私より綺麗な顔立ちは嫌味なほどだ。用意されていたウイッグを被せればその辺の女の子なんて目じゃないほど綺麗な女の子がそこにいた。
後は仕上げにグロスを塗れば完成だ。少し名残惜しく思うのは気のせいだろうか。

「白石くん、少し唇の力緩めて」
「あ、ああ、すまん……」
「ちょっとべたべたするかもだけど……」
「ん」

長いまつ毛が頬に影を落とし、薄く唇を開く彼は所謂キス待ち顔である。なんだかグロスを塗るだけなのに悪いことをしているような気分になってしまった。煩い心臓を無視して彼の唇に光を宿せば、ため息が出るほど可憐な美少女が出来上がる。

「できたよ!」
「い、今の口紅って……四方田さんの……?」
「そうだけど……あ、そっかごめん!嫌だったよね」
「いや、その、気にせんでええよ」

チークは控えめにしたはずなのに白石の頬に赤みがさす。照れている彼はすごくレアな気がして尚更可愛いと思ってしまった。

「それにしても、白石くんめっちゃくちゃ可愛いね!女としての自信なくしちゃうなぁ……なんて」

自分で言ってて悲しくなるが、目の前にいる白石は完全に美少女だ。彼は少し真剣に考える素振りを見せると、椅子から立ち上がり私を窓際に追い詰めた。唇が触れそうなほどの至近距離に思考回路は停止してしまう。

「し、白石くん……?」
「四方田さんのがかわええよ」
「!?」

前言撤回、美少女だと揶揄した彼はすごくかっこよくて心臓が煩いくらいに脈打ってしまう。冗談にしてはタチが悪い。
何か言おうと口を開けば前触れもなく教室のドアが開いた。

「白石そろそろ__ってめっちゃ美人になっとるやんか!!あと、イチャつくんはコンテスト終わってからしいや」

「……ほな、いこか。優勝してくるさかい、客席から見とってや」

イチャつくという表現は不適切なのだが、白石のカッコ良さに充てられた私は何も言えず彼について行くことしか出来なかった。


体育館の入り口から彼の登場を待つ。トリとして出てきた彼は客席の歓声をかっさらい見事優勝していた。優勝者の冠とローブを翻して舞台上でいつものセリフを叫ぶ彼に苦笑いが零れた。

その後、表彰式のようなものを終え、舞台から降りて私の元へまっすぐ向かってくる白石は少し誇らしげだ。

「四方田さん、見とってくれておおきに」
「流石白石くんだね!」
「あんな、俺優勝のご褒美が欲しいねん」
「えっと……なに?」

相変わらず美少女の風貌をした男はこちらを不安そうに見つめてくる。なんだか感じるデジャブに笑いそうになりつつも彼の言葉を待った。

「一氏に先越されてもうたけど、蔵って呼んでくれへん?」
「もちろん!……く、蔵も私のこと名前で呼んで欲しいな」
「あ、ああ……!天ちゃん、おおきに!!」

最初は隣を歩くのも緊張したのに、この短時間で二人の距離は一気に縮まった気がした。


To be continued...

prev / next
[contents]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -