third contact
『(………な、何故こうなったっっ!?)』
レンは、白ひげの部屋へとマルコ、サッチ、シモンに囲まれて船内を進んでいた。
筈だったのだが…道中1人の人間に遭遇した事で今現在、レンを囲む人数が増えていた。
「うっわぁーー!ホントにシモンそっくりじゃねぇかっ!?」
「そっくりってゆうか、シモンがそのままちっさくなったみたいだよね」
「シモンが女顔だからねぇ…小さくて女でも違和感はあんまりないな」
「うむ。シモンと同じ顔だが。女性というだけで雰囲気が柔らかくなるな…」
「でもよぉー?何だ?シモン、双子の妹かなんかかってくれぇ似てるよなぁっ!!」
エース、ハルタ、イゾウ、ビスタ、ラクヨウが続けざまに口を開く。
そう、今現在レンは廊下のど真ん中で隊長陣に囲まれていた。
「おい、お前ら。そいつを親父のとこに連れてく途中だよい。野次馬なら後にしろ!」
「そうなのか?じゃあ、俺も行こうっと!」
ニッとレンに笑いかけたのはエース。
「おいおい、エース。見せ物じゃねぇんだぞ?」
「別にいいじゃねぇか。どうせ、隊長は集めるつもりだったんだろ?あ、おい!」
そう咎めるサッチにエースが拗ねた顔をしながら言い返すとどうやら誰か通りかかったのか呼び止めた。
レンからは隊長達という壁により見えてはいないが…。
「他の隊長を全員探して来てくれるか?親父の部屋に来いってのも言っといてくれ!!」
「わかったっす!!」
『…………………………え?』
バッと思わず声のする方へと視線を向けるも目の前には大きな背中とその背中の白ひげのマークがあるだけ。
それと、遠ざかっていく足音。
『(ちょいちょいちょい!?)』
「まぁ、いいか。後で集める手間がはぶけるよい」
「なぁ、俺もいていいよな?何か、離れるのかわいそうなんだけど…見ろよ、マルコ」
そうシモンが指差す先をマルコが見ると、呆然としながら隊長陣に囲まれた一際小さなレン。
「…………確かに借りてきた猫なんてもんじゃねぇな…」
「だろ?何かさ、顔が一緒なもんだからか…あそこでおろおろしてるのが俺に見えてかわいそうでしょうがねぇよ…」
「レンちゃーん?おーい!!」
呆然と何故こんな男ばかりに囲まれにゃならんのだ!!しかも、更に増えるだとぅっ!!とぐるぐると考え込むレンに苦笑いを浮かべて話し掛けるサッチ。
「…行くよい」
ハッとしてレンはサッチに手をあげて答えると歩き出したマルコへと続くが、その後ろをゾロゾロと隊長達が続いていたのだった。
船内の1番奥。大きな扉の前でマルコが立ち止まるとノックをして扉を開ける。
「さっきから、なぁに騒いでたんだぁ?」
低く響いた声にレンはビクリと肩を震わせて足を止める。
目の前にいたマルコがサッと横にどきながらレンの背を押す。
その間に隊長達が左右に別れて白ひげの横に立つ。
知らず知らずに俯いていた事に気づいたレンは
『(別に、あたしは何も悪い事してないじゃん!!よしっ!!)』
決意すると、顔をあげてキッと白ひげを見据えた。
その視線の先の白ひげの顔は僅かに目を見開き驚きを露にしていた。
「……こりゃあ。シモン、おめぇ生き別れの兄弟でもいたのか?」
「いや、覚えてる限りじゃいなかったぜ」
「おい、どういう事か説明しろぉ」
白ひげの言葉にサッチが話し出した。
「さっきの島で見つけたんだけどさ。俺、てっきりシモンだと思って連れて来ちまったんだ…!」
「船でサッチを見かけて声をかけたら一緒にいてよい。話を聞けば、どうやらworld travelerみたいだったからよい」
『……?ワールド…トラベラー?』
マルコの言葉にその言葉を反復して呟く。
「そ。world traveler。俺らの世界にたまたま迷いこんでしまった異世界の住人をそう呼んでる」
レンの呟いた言葉に反応して説明してくれるシモンへと視線を向ける。
「書物や歴史書の類いには必ずと言ってworld travelerの事が書いてある。だが、俺らも実際に会うのは初めてだよい」
「それなら俺も読んだ事あるなぁ」
マルコの言葉にサッチが呟く。
「グラララララっ!!面白れぇじゃねぇか!!俺自身も初めて会うぜぇ?滅多にお目にかかれねぇ希少人種な上に息子と同じ顔たあなぁ!随分長くこの海を旅してきたが、こんな面白れぇ事はねぇ!!おい、女!お前名前はぁ?」
豪快に笑っていた白ひげが話し掛ける。
『え、?あ、はい。レンです』
呆然と話を聞いていたレンが慌てて顔を白ひげへ向けて答える。
「そうか。レン、俺が知りうる限りじゃあ、ここ数十年world travelerは姿を見せちゃいねぇ。世界政府の定めた決まりじゃworld travelerの手厚い保護が決められてる…が。その先にあるのは度重なる人体実験だと噂で聞いた事がある。そこで、だ。おめぇ、俺らとこの危険の蔓延る海を海賊として生きるか…安全かもしれねぇが人体実験されるかもしれねぇ政府に身を委ねるか…てめぇで決めろ」
そう言ってレンを見下ろす白ひげの瞳は厳しさの中に暖かさを感じさせるもので…レンはその瞳を見つめ返す。
『あたし、闘えません。これと言って得意な事もありません。でも!!政府に身を委ねて、せっかく自由な海を前にしてその自由を奪われるなんてされたくない。何で、急にこの世界に来たのかもわからないし。この先帰れるかもわからない。でも、あたしはせっかくこんな未知の世界で未知の体験を出来るなら!!この海で自分の好きなようにこの世界を見たい!!白ひげさんっ!!あたしをこの船へ置いて頂けますか!?雑用だって何だってします!!あたしにこの世界を見せてくれませんか!?』
白ひげを見据えてそう必死に声を張り上げて伝えるレンに全員が視線を向ける。
一拍置くと白ひげが盛大に笑いだした。
「グラララララ…!!いい根性してるじゃねぇか!いいねぇ…その瞳。気に入った!!いいか、レン。この船に乗るってぇ事は…」
『家族になるって事でしょ!?』
「!?あ、あぁ。そうだが…」
「親父!いい忘れてたけど、レンちゃんの世界には俺らの世界の本があるらしいぜ!知っててもおかしくねぇと思う!!」
「サッチ、そう言う事は先に言いやがれ。じゃあ、レン。おめぇは、俺の娘になる覚悟はあるかぁ?」
『はいっ!!度胸と根性だけは自信ありますっ!!』
「グラララララ…!!そうか、それじゃあ。今日、今からここはお前の家で帰る場所だ。だがな、てめぇの居場所はてめぇで作れ。わかったな!!」
白ひげの言葉に大きく頷き、周りを見渡せばいつのまに集まったのか隊長が全員勢揃いしていた。
そして、ドアに背を預けるように立つのは同じ顔をしたシモン。
彼らを見回すと真剣な表情で話し出した。
『驚かせてしまってごめんなさい!!レンと申します!この世界の知識はそこそこありますが知らない事だらけです!あなた方に認めてもらえるように精進します!!』
勢いよく頭を下げるとすぐに起こすとニッと悪い笑みを浮かべてこう言った。
『よろしく、お兄ちゃん達?』
その様子を見ていた隊長達とシモンは目を丸くする。
「ぶっ、アハハハハハ」
笑いだしたのはハルタ。
涙を拭いながらレンに近寄る。
「よろしくね!僕、レンの事気に入ったよ!陸の女みたいに面倒な奴だったらどうしようかと思ってたんだ…!僕はハルタ!12番隊の隊長を任されてるんだ!よろしくね!」
「結構、いい性格してるみたいだねぇ?俺は16番隊隊長のイゾウだ」
続いてイゾウも話し掛けると割り込む様にエースが混ざる。
「俺、2番隊隊長のポートガス・D・エース!エースって呼んでくれなっ!!」
笑顔で頷くレンに面白がった隊長陣が群がるのをマルコとシモンが見守る。
「何だろうな…おんなじ顔だからかな」
「どうしたよい」
「いやさ、兄貴も弟も妹も沢山いんのにさ…俺の足りなかった片割れを見つけたみてぇに感じるんだよな…俺、あいつ可愛くてしょうがねぇや…」
「何だよい、そりゃあ…まぁ、いいんじゃねぇかい?だが、よく見てねぇとダメそうだぞい?」
指差したマルコを見て、それを辿ると視線の先にはサッチがレンの方へと腕を廻している。
「レンちゃん見つけたのは俺だかんな!!俺が手取り足取り腰取りめんど…!?」
『へぁっれ?サッチさん!?』
話の途中で消えたサッチにキョロキョロとしながら目を見開くレン。
と、突如抱き寄せられた。顔をあげれば眉間にシワをよせた同じ顔。
「サッチ、てめぇは女と見りゃあ鼻の下伸ばしやがって!!」
シモンの視線の先にはピクピクと痙攣しているサッチだったがすぐに体を起こすとシモンに噛みつく。
「てめぇ!!何しやがる!!だいちなぁ!レンちゃんは俺がっ!!見つけたんだぞ!?俺が面倒見て何がわりぃんだよ!」
「うるせぇよっ!見つけたも何も、こんな体格がちげぇのに俺と間違えたってどういうわけだよ!?お前目も悪いとは、救いようがねぇなっ!!」
「ぬぁーーんだとぉ!!てめぇ、シモン!!その喧嘩買ってやらぁ!かかってこいよ!!このへたれ男がぁっ!!」
「んだと!?へたれはてめぇだろっ!!この時代遅れのくそリーゼント!!てめぇの減らず口黙らせてやらぁっ!!」
シモンに抱き寄せられたまま、開始された喧嘩にレンはおろおろしていたが、抱き寄せているシモンの腕からは先程までの強い力は感じない。
試しにするりと抜けてみると抜け出す事に成功。
よしと呟くと、手招きしているジョズの元へ行く。
「大丈夫か?あいつら普段は仲いいんだが、1度ああなると盛大に殴りあわないと納まらないんだ。ほっといていいからな。さて、じゃあ船内を案内しよう。」
そう言って各々が部屋を後にする。
なんと、白ひげまでがシモンとサッチを放って自室を後にするようだ…。
「部屋壊したら直しとけよぉ。グラララララ」
そうして、ジョズとエースに連れられて船内を見て回る事になったレンは他の隊長達にぺこりと頭をさげて歩き出した。
転職致しました、職業は海賊です!