second contact

「…よっと。おい!!全員揃ってるか!?」

甲板へ上がるとレンを降ろしながらサッチは確認を取ると出港準備の指示の為に人混みの中へ行ってしまった。

『…………てゆうか……行かないでよ…』

慌ただしく出港の為に駆け回る男達の中ぽつんと立ち竦み辺りをキョロキョロと見回す。

『誰もあたしに気付かないの?まぁ…いっか』

船縁に寄り掛かり腕を組んで動き回る男達を観察する。

暫くすると

「しゅっこぉぉぉー!!!!」

大きな声と咆哮と共に船は大海原へと動き出した。
船縁に背を預けていたレンは振り返り島を眺める。

『(どんどん島が小さくなるな…ってゆーか…もしかして、あたしと間違えた人置いてきぼりになってたりしないよね?そ、そしたらどうしたらいんだ!?なんか、あたし悪くないのにフラグが立ってる気がすんだけどっ!?)』

島を無表情で眺めていた筈だったが、レンの顔はコロコロと表情を変え、今は顔を青くさせている。
と、肩にポンと手がのる。
それに振り替えればサッチがニッと笑うと少し眉間に皺を寄せて話し出した。

「お前、あんなとこでボーっとしてたらダメだろー?俺が担がなかったら今ごろ檻の中だぜ?あ!!てか、お前底上げいれねぇと!!皆にばれちまうぞ!!今ならまだ大丈夫だ!!いれちまえっ!!」

注意してきたサッチが今度は得意気に身長がばれるからシークレットブーツにしろと言ってくる。
が、生憎んなもの履いてないし。
履く必要のないレンは勘違いをしてるということを話そうと口を開いた。

『…あのですね?「何してんだよい?」え?』

サッチの後ろから響いた声に遮られる。
それにサッチが反応して振り替える。

「お!マルコー!!シモンがよ?船番さぼって上陸しててよ?俺が見つけたんだけどよ!こいつ、海兵きてんのにボーっとしててよー!俺、担いで走って頑張っちゃったぜぇ!!なぁ!シモン!!」

ニカッと笑い見下ろしてくるサッチにはぁと溜め息を溢す。

『(だから、シモンって誰っ!?)』

「……はぁ?シモンなら、俺と進路の相談してたから今日は俺とずっといた………よ…い…」

誰に話かけてんだみたいな感じでひょいとサッチの脇から覗きこんだマルコとレンの視線がバチっと合わさると、マルコは眠たげな目が大きく見開かれて止まった。

「はぁ?一緒って…え?じゃあ、これ……」

サッチも振り返り、無言で3人が見詰めあう。

『え、えーっと…(どっ!?どうしよう!完璧色んなフラグが乱立ちしてらっしゃるっ!!)』

突然の事に、ぶわぁっと大量の汗が流れるレン。

「おめぇ…「おーい!!マルコ!サッチ!何やって…ん…だ…………」シモン」

何か話だそうとしたマルコの声を遮ったのは、よく通るテノールの落ち着いた声音。
それに視線を向けたところでマルコによってそれが勘違いされていた"シモン"であると認識したレンは顔を上げてその男の顔を確認したところでシモンとレンは動きが止まった。

「『……………え?』」

見詰めあったまま、思考回路も停止した4人。
いち早く意識が戻ったのは…

「ぎ、ぎゃぁあぁぁぁぁあっ!!ドッペル!?俺っ?!どっ!!どべっ!!マルコっ!!お、おれっ!!死んじまうっ!!」

シモンだった。
当のレンは驚きすぎて、声もあげられずにシモンを凝視している。

「お、落ち着けよい!おいっ!!お前!!」

『…へ?あたし?』

「あたしって、女かよいっ!!?おい!!サッチ!?」

「……へ?なんだ?」

「連れてきたてめぇまで、びっくりしてんじゃねぇよいっ!おい、女っ!てめぇ、能力者かよいっ!?」

騒ぎだした一角に他のクルーが不思議そうに視線を向ける。

『いや、あの…能力者とかじゃ、ない、ですけど…あの、そちらのフランスパンさんに突如話しかけられて、否定をする間もなく拉致、されてきた、のでですね?』

レンの言葉にじろっとサッチを見やるマルコと落ち着いたシモン。

「え?おれ?」

「どう考えてもお前だよ。サッチ」

「悪かったない?で?お前さん、名前は?」

『あ…レン。レンです』

「…レン。お前、ナニモンだよい?」

『…え、いや。あたしも、よくわからなくて…1つ言えるのは…あたし……』

黙りこんでしまったレンを厳しい視線で見詰める3人。
その視線に気付いたレンは。

『(てゆうか、あたし悪くないのに。何でこんなガン見されなきゃなんないの!?元はと言えば!!)』

ぎろりとサッチを睨み付けると、キッとマルコを見上げる。
それに少し目を丸くしたマルコを見据えて再度口を開いた。

『気付いたらあの島にいた、この世界の人間じゃない女ですけどっ!!何か文句あります!?まぁ?あたしはそこのフランスパン頭につけたおっさんのせいで文句しかありませんけどねっ!!』

どうだっ!と鼻で笑いながら腕を組んで3人を見る。
唖然としていたマルコとシモンが話し出す。

「この世界ってどういう事?レンちゃんだっけ?」

「俺も、気になるよい」

『そのまんまですよ。この世界はあたしが今まで生きてきた世界じゃないんです。所轄、異世界から来たってとこですか?』

「……異世界?」

シモンが顎に手を添えて考える。
その様を見ていたレンはふと考える。

『(ホント…顔まるっきり一緒だわ…どういう事?)』

「……なぁ、マルコ。もしかして、だけど…」

「…あぁ。俺も考えてたとこだよい。レン」

2人が何かを確かめあった所でマルコがレンを見据える。

「とりあえず、お前。闘えたりは…『できませんけどっ!?』だよない…」

「なぁ?お前ら、俺の事忘れてねぇ?」

「サッチは黙っててよ。問題持ってきた張本人だし、正座でもしてろよ」

寂しげに言ったサッチにシモンが床を指差しながら言う。

「えっ!?ちょ、俺一応隊長なんですけど!??」

「いいから黙って正座してろい。話が進まねぇ」

マルコまでが冷たく床をさしてそう言うとサッチは正座して遠くを見詰めながら何かをぶつぶつと言っていた。

『……サッチ、想像通りすぎて笑える…』

ポツリ呟いた言葉にマルコが訊ねる。

「想像通りってのは、どういう事だい?」

『…いやね、信じられないと思うけど。実は、あたしのいた世界にはこの世界を題材にした物語があったんですよねぇ…で、それに出てたサッチさんが想像通りのキャラすぎて…思わず?』

「ほぉ…そうなんだぁ?で、レンちゃん?」

『何ですか?』

「何で、俺と同じ顔してんの?」

………………………………………………………

『……そっくりそのままお返ししても?』

「まぁ、そうだよね?あははははは」

『シモンさんっ!!?笑い事じゃないですよ!?あたし、あの島で少し元の世界に戻る為の手懸かり探そうと思ってたのにっ!!そこの腐れフランスパンのせいでっ!とにかく!!島に戻ってくださいよっー!!』

「わりぃが…それは無理だよい。島に戻れば海軍の奴等がうようよいやがる。無駄な戦闘は避けたいんでな。それに、そんなところにシモンと丸きり同じ顔のあんたがいたらすぐに捕まるだろうない?」

『別にっ!!捕まったところですぐに違うってわかるじゃないですか!』

「だが、丸きり同じ顔じゃお咎めなしとはいかないだろうない?」

『…………っ!?』

「てぇわけだ。とりあえず親父に指示を仰ぐよい。おい、腐れフランスパン。お前も来いよい」

マルコがサッチに声をかけてから、ふとレンを見ると

「何、ぼさっとしてる?行くぞい」

そう言って歩き出したが、何故かレンを囲む様に歩いている彼らにレンは顔をしかめる。

『別に、逃げませんよ?』

「違うよ。突然シモンと同じ顔のレンちゃんがいたら、他の奴等がびっくりするだろ?とりあえず、親父の指示を聞くまでは…ね?」

そう言ってウインクしたサッチに、そうですか。と返して前を歩くマルコの背を見詰める。

『(てゆーか。これじゃあたし……囚われた宇宙人みたいじゃん…)』

そう思いながら左右にいるサッチとシモン、そして前を行くマルコを見てはぁと溜め息をつく。

自分よりも頭1個半も大きな男3人に囲まれた事なんてないレンはこれからどうなるのだろうと不安を感じながら、船内へと足を進めたのだった。


宇宙人の気分なんて味わいたくない




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