make a pinky promise .
エースに担がれながら、レンはモビーへと戻って来ると顔を拭うと
『すいません、お騒がせしちゃって!!もうあたし大丈夫なんで!!』
涙で濡れた顔でそう笑った。
そして、ペコっと頭を下げると呼びかけに笑顔を返しながら船内へと走っていってしまった。
「・・・なんで。何で笑ってんだよっ!!」
エースが声を荒げた。
「あいつに、ワールドトラベラーについて故意に話さなかったのは事実だ!!何であいつ笑ってんだよ!!怒って、俺らに何で言わなかったって攻めてもいいじゃねぇか!!わけもわかんねぇで・・この世界に来たんだぞ!!それ位したっていいだろっ!!」
「あのレンと言う娘は頭がいい。事実を知った今。故意に話さなかった事情も分かっているから何も言わないんだろう」
肩を震わせるエースに諭すように話しかけるビスタ。
「それでも!いいじゃねぇか!!思ってることぶちまけたって、俺らはあいつを受け止められる!!これじゃぁ、俺らが頼りないみてぇだ!!」
そう言って、エースは船首の方へと走って行ってしまった。
「・・若いねぇ。」
「あぁ、だけど。あれがエースのいいとこだろ。オヤジ、今回の事は近くにいながら守りきれなかった俺の責任だ。この事は俺に任してくれねぇか?」
シモンが白ひげを見上げて言うと、サッチが割って入った。
「それなら俺もだ。一緒に船内まで行けばよかったのに・・完璧に油断してた。俺の責任でもある。しもんと違って俺は隊長だ。いつもそれ位の予測を頭でしながら行動しなきゃいけなかったのに・・今回はそれをしなかった。シモンじゃ役不足ってわけじゃねぇが・・俺に任せてくれ」
「サッチ・・・」
そう言った息子達を白ひげが見下ろすと、
「それなら、サッチに任せる。閉ざそうとしてるあいつの扉。かっぴらいてきやがれ」
任せたぞ?、と言って白ひげは口角をあげて笑うと、サッチはそれに大きく頷いて船内へとレンを追いかけて行った。
その頃、自室にてレンはベットに腰掛け男、アキレスの言っていた事を思い出していた。
『如何なる病も致命傷も癒して、人を殺せちゃう体・・・か』
元の世界では、何億人もいる中の1つの歯車でしかなかった自分は。
この世界では、とんでもない人物になってしまったのだとレンは自嘲的な笑みを浮かべる。
掻き消そうとしても消えることの無いアキレスの言葉はレンの心を蝕む。
得体のしれない自分を快く受け入れてくれた彼らに背負う必要のない枷を背負わせてしまったのかもしれないと思うとレンは何も出来ない自分が歯痒くてしょうがなかった。
今まで闘うなんて出来なくてもそれに見合うだけ任された仕事をこなせばいいと思っていた。
それで、彼らが助かるのなら憎まれ口を叩かれても平気だった。
万が一に、人質になっても足を引っ張る位ならとどんな覚悟も出来た。
でも、ここに来て状況は一転した。
もしも、もしも洗脳されてしまって・・・優しい彼らを傷つけてしまったら?
彼らを殺してしまったら??
きっと、正常ではいられない。
ワールドトラベラーは、結局あの男が言ってた通りなのだろう。
元の世界からも弾かれ・・そして、この世界で人以下の扱いしかされない。
ただの病気を癒す道具で、人殺しの道具でしかない。
この世界にきた時、ここでならきっと存在理由が見つけられると・・
自分と言う人間を認めてくれる人たちとただ笑って生きていけるんじゃないかとおもっていた。
ここなら、自分の居場所が見つかるかもしれないと思っていた。
でも、現実は・・・。元の世界からも弾かれ、この世界でも弾かれて・・・・
あたしの行きつく先にはきっと一遍の光もないのだろう。
そう思って、なんだか。笑えてきた。
何一つ持たない自分が場所が変わった位で、光の中にいれるだなんて・・・
なんて酔狂な夢物語を思っていたのだろう。
止まったはずの涙が、頬を伝って弾けた。
押しては返す、波のように。
その流れに逆らって生きていくなんて。
きっとあたしには許されない−−・・・。
頬を伝う涙をそのままにぼうっとしていると、室内に扉を叩く音が響いた。
慌てて、涙を拭うとレンは扉を開けながら顔だけ出した。
そこにいたのは、笑顔でレンを見下ろすサッチだった。
「今、いいか?」
笑顔で尋ねてきたサッチに頷くと室内に招き入れる。
『どうしたんですか?』
少しだけ後ろに下がり、入ってきたサッチが扉を閉めて向き直ったのを確認するとレンはサッチの顔を見上げる。
「また泣いてたのか?」
そう言って、サッチはレンの頬を優しく撫でた。
『あ、あぁ〜。平気ですって』
にっこり笑顔を見せると、何故かサッチが苦しそうな顔を見せる。
「レンさ・・、もう少し俺らを頼れよ。俺らは今更お前1人増えた位で潰れちまう程柔にできてねぇんだ。」
優しく、落ち着いた声音で紡がれるサッチの声音に、ざわざわとしていた胸の中がなんだか落ち着いていく気がしてくる。
でもすぐにまた、比じゃない程に心の中がざわつきだす。
『何言ってるんですか??あたし今でも十分抱っこにおんぶされてますよ??』
にっこりと、レンはわざと笑って見せた。
こう言えば、今までもサッチは深く関わっては来なかったから。
サッチは、いつも自分の思うようにしたらいいと余程の事じゃない限り口を出してきたりしなかった。
それは、他の隊長陣も同じ事を言えたが。
なんだかんだで、彼らは自分に手を貸してくれていた。
その中でも、サッチは群を抜いて自分の思うままにさせてくれていたと思う。
きつかったら、ちゃんと言えと言って。見守ってくれていた。
きっと、今日もそれで終わると。レンは思っていた。
「これのどこが抱っこにおんぶなんだよ!!全然重くねぇんだよ!!」
突然上げられた声にレンは肩をビクッと揺らした。
『え?サッチさん??』
「お前、何言ってんの?こんな重くねぇおんぶにだっこで俺らが満足すっとでも思ってんのか?」
サッチは静かにその透き通るような淡いグリーンの瞳でレンを見据える。
「言ったよな?初めに。俺らは家族なんだよ。嫌なことも嬉しい事も、楽しいことも悲しいことも、むかつくことも全部全部分け合って生きていくんだ!!お前が抱えきれない荷物くれぇ、俺たちが一緒に持ってやれる!!」
「俺たちは海賊で世の中の弾かれもんだけどよ・・。それでも、俺らにとっての家族は何にも変えられねぇ大事な宝なんだよ!!その家族にお前も入ってんだ。急にあんな事聞かされてよ、1人で抱えきれるわけねぇだろうが!!だったら、俺らを頼れ!!何で教えてくれなかったんだ、とか。何でそんなことになってんだとかよ。理不尽な事でもいい!!俺らに当り散らしたっていいんだよ!!俺達は・・俺はそれを受け止められねぇような人間じゃねぇ!!泣いて喚き散らしたっていいんだ!!一緒にこの世界を見て回るんだろう?俺らだって、お前に見せてやりてぇもんがいっぺぇあんだよ!!だから、頼むから。1人でそんな顔してんなよ・・。お前は1人じゃねぇんだからよ?」
一気に告げられた言葉にレンの瞳から涙が零れだす。
『知らないよ。何?あたしの体、どうなってんのよっ!!どんな病気も治せるし、殺せるとか・・・意味わかんない!!』
静かだった部屋の中にレンの声が響く。
『あたしの体はそんなんじゃなかったのに・・・風が吹いて目開けたらこの世界にいて。しかも体も変化してるとか、どうゆうことよ!!勘弁してよ!!特別になりたかったわけじゃない!!ただ、皆の役に立って・・・皆と笑ってこの世界を旅したかったのに・・何さ・・。こんな、あたし本当の足手まといじゃない!!!!』
ぼろぼろと涙をながすレンの肩に手を置いてサッチが目線を合わせるために屈みこむ。
「足手まといだなんて、誰も思っちゃいねぇよ。レンは自分のできる事を一生懸命やってくれてんだろ?それでいいんだ。適材適所って言葉があんだろ?人によって得意なことは違うし、だからこの船にもいろんな奴が乗ってんだ。それを補ってこその家族なんだ。だからよ?そんなこと言うんじゃねぇ。レンに出来ない事は俺がやってやるし、手伝ってやる。俺にできねぇ事はレン手伝ってくれりゃぁいいんだ。な?ギブ&テイクってあんだろ?それでいいんだよ!なっ!!」
最後にサッチはそう言ってレンの涙を拭って笑いかける。
それにレンは目を丸くすると、小さく微笑んだ。
『・・・・うん。サッチさん。ありがと・・』
「うしっ。じゃぁよ、皆に笑って会いに行こうぜ。今度はよ!!さっきのじゃぎこちなさすぎて全員そわそわしてて気持ち悪くって・・・」
うえぇっと顔をしかめたサッチにレンが声をあげて笑った。
「そうそう、やっぱレンは笑って人を罵ってねぇとなぁ?」
『・・・それどういう意味?』
「ごめん、何でもないから、その絶対零度の視線はやめて。ほんと・・・」
そんな言い合いをして、目を合わせた2人は笑い出した。
一頻り笑うと、真面目な顔をしてサッチがレンを見下ろした。
「これから、どこでお前の事が海軍やら政府に漏れるかわかんねぇ。でも、どんな事があっても俺が守ってやっから。お前はいつも笑っててくれよ。ばかみたいによ!!約束」
そう言って、サッチは小指をレンの顔の前に出す。
それにレンは笑って小指を絡める。
『ふふふ・・・お願いしますね』
meke a pinky promise.(指切りしましょう)
その時彼らの中で何かが変わり始めた。
title by 瑠璃