sentimentality.


「おいっ!!何でレンがとっつかまってんだよい!!」

「わりぃ・・油断したっ・・・」


駆けつけたマルコがサッチとシモンに声を荒げた。
言葉を返したサッチとシモンの顔は歪む。


「おい・・お前。どこのどいつだよい?俺らの家族に手出してタダですむとでも思ってんのかい?」

「・・・・承知の上さ。でも、この女。面白そうだし・・作戦へんこー!」


男が口角をにやりと上げたのが見える。
と、睨みあう彼らの目の前にその男のであろう船が隣に並ぶ。
モビーの甲板からは、その男の船はメインマストに靡く帆しか確認できないが、男達の咆哮は絶えず聞こえてくる。


「おいっ!!お前ら!!俺らを死んでも死守しろっ!!女連れて逃げるぞ!!」


男の上げた言葉に更なる咆哮が上がり、白ひげの海賊達は唖然とする。
自分たちという男がいるにも関わらず、その首を狙わずして逃げるとこの男は言ったのだ。

男は浮かべた笑みはそのままに、レンを抱えたままモビーの船縁を蹴り自分の船の甲板へと降り立つ。

そこにあと一歩及ばず、シモンとサッチ、マルコが立つと船を見下ろした。


「おいっ!!何で、レンがつかまってんだ!!」


更に遅れてエースも現れる。


「面倒くせぇ事になったよい・・」


マルコが船を見下ろしてポツリと呟く。


「あの船知ってんのか?」

「あぁ・・、ありゃ最近この辺を荒らしまわってる海賊団。ダーク海賊団。あいつはその船長・・アキレス。あいつが何より質がわりぃよい・・」


苦虫を噛み潰すマルコにサッチやシモン達は訝しげにいまだレンを抱えたままこちらを見上げる男を見る。


「あいつは悪魔の実の能力者だよい。セルセルの実。てめぇの体を自在に形を変える。超人系にして、自然系と同じ様に再生もできる。まさに細胞をあやつる・・・」

「って、さっきあいつがレンに細胞からして違うって言ってのはまさか・・」

「レンはワールドトラベラーだ。異世界の人間であるあいつを形作る細胞が俺等と違うなら・・・それに気付いてるだろうない・・」


その言葉に皆一様に顔を歪める。

彼らは知っていた。


レンの、ワールドトラベラーである人間の体について。


「悪用されたら・・最悪の事態しか思いつかねぇよい。何が何でも、あいつを連れてかれるわけにはいかねぇ・・おめぇら!!レンは必ず助けるぞ!!」


マルコが声を荒げると、姿を変えて飛び上がるそれに続くようにエースも船縁を蹴り敵船の甲板へと飛び降りる。


「くくく・・・やっぱり。知ってるみたいだなぁ。さて、女。お前は俺といくよぉ」

『降ろしてよ!!あたしの居場所はあそこなんだから!!』


暴れるレンだが、男、アキレスはものともせずモビーを背に歩き出す。
離せっ!!と力の限りに暴れるレンだが、アキレスの細い体のどこにそんな力があるのか微塵も逃げ出せる様子はない。
その時、アキレスの背後で獣の唸り声が響いた。


「置いてけっ!!!レンを!!!!」


声にレンは上体を上げ、アキレスは顔だけで振り返る。
そこにいたのは、黄金の毛を靡かせてアキレスを見下ろす大きな獣。


「どうやら・・随分と女。おめぇは大事にされてるみてぇだなぁ?」

『へ?声・・・シモン・・さん?』

「レンは連れて行かせねぇ!!」

「白ひげの守り神にして、破壊神とも言われる男。狗神(いぬかみ)シモン。参ったな。こいつらだけじゃぁ、苦戦するかな?」


そう言って振り返ると、アキレスはシモンを見上げる。
そしてシモンは、その腕を振り上げて目の前の男達を薙ぎ払うが。
アキレスに到達する前に、その腕は止められてしまう。
止めたのは。


「あんまり俺の船いじめないでくれねぇか?」


アキレスの右腕が変形して、大きな盾のようになっている。
その直後、男は左腕を変形させ突き上げれば、それを寸前でよけたシモンだがその黄金の毛がぱさりと落ちる。


『シモンさんっ!!』


いつの間にか男から落とされたレンは男に逃げられぬようにと頭を踏みつけられていた。
踏みつけられる際に余程力が強かったのか、その頭からは血が僅かに流れ出している。


「大丈夫だ。今助けてやる」

「そう簡単にはいかせねぇ・・。この女は俺にとってもどうやら有益な女だ。政府に引き渡して腐った政府の腹に潜り込む事も可能になる!!」

『いやよ!!!!あたしは・・・誰にも縛られない!!!』

「そんな事可能なわけがないだろ!!お前自分の事、何も知らないようだな?女!」


響いた声にマルコがサッチが戦っていた隊長陣が、焦りを見せる。


「レンっ!!聞くなっ!!!!」


サッチが声を上げる。
だが、アキレスは続ける。


「お前の血肉は万病の薬となり、傷を癒す!!それがどういう意味かわかるだろう??お前は、こいつらにも有益だと思われたからこの船に乗ることを許されたんだ!!」


響いた男の声にレンは呆然とする。


『え・・・・?』

「黙れ!!!!」


唸り声を上げて床を蹴ったシモンを男は腕を変化させて縛りつける。


「その様子だと、何も聞かされていないようだな?お前の体で全ての不治の病と言われる病も、手の尽くしようもない大怪我もたちどころに完治する。白ひげは随分と体が老いてるらしいじゃねぇか。そのいざと言う時の為にお前はなくちゃならねぇ薬ってわけだ。可哀そうにな?何も知らず、何も語られずにいずれこの世界からも弾き出される。くくく・・・」


アキレスの言葉にレンの頭は真っ白になっていく。


「知ってるか?もう1つ教えてやる。薬ってのはな、良薬にもなるがその逆にもなる。」


呆然としたままゆっくりと顔をあげたレンの顔を見下ろしてアキレスはにやりと笑う。


「お前の体は、どちらにもなる。細胞が変化すんだよ!!俺とは又違った風にな?まぁ、それに同意すりゃいいが。そうじゃねぇからほとんどのワールドトラベラーは洗脳されて使われてたみたいだがなぁ?」


高笑いを上げるアキレスを見上げて、レンは初めて涙を流した。


『うそ・・・』

「嘘じゃねぇんだなぁ??女ぁ。」

「レン!」


サッチがマルコがエースが目の前の男達を倒しながらレンに手を伸ばす。

おら、あいつらを手始めにその体で殺して見せてくれよ?


『うそ・・・・。だって、皆。優しく・・』

「優しさなんて嘘でも見せれる」


涙を流しそう言うレンに冷たい声音で男が告げた時。


「好き勝手言って、俺の可愛い娘にふざけたこと教えてんじゃぁねぇぞ!!小僧!!!」


モビーから声が響いた。


『オヤジさん・・・』


涙で歪む視界に映ったのは、優しげな顔を浮かべながらもその瞳には怒りの炎を宿した白ひげ。


「俺がてめぇの娘の命削って生きながらえるだとぉ?ふざけんじゃぁねぇぞ?」


そう言って、白ひげは思いのままにその拳を空中に叩きつける。
と、レンの隣に立っていたアキレスは吹き飛ぶ。


「サッチ!!」

「おうっ!!任せろっての!!闇穴道!!」


吹き飛んだ男の落ちる場所に広がる真っ黒な闇。
それは広がり、逃げるようにモビーにひいた船員以外の敵船の船員をも飲み込んだ。


「大丈夫か!??」


レンの元には、エースが駆けつける。


その直後、


「解放!!」


サッチの声と供に血だらけのアキレスがアキレスの船の船員が、その穴から飛び出し、甲板に沈んだ。


『だい・・・じょうぶ・・』


涙を流し続けるレンに静かになった船上で声をかけるものは誰もいない。

ただ1人白ひげだけが、一心にレンを見つめていた。




sentimentality.
(感傷)


大丈夫、そんな人たちじゃないって分かってる。

大丈夫、皆を信じてるから。

ただ、少しだけ。少しだけ。
びっくりしただけだから。

だから、今は少しだけ放っておいて。



title by 瑠璃







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