magical power of words.
thatch side



確かに、確かに最初は物珍しいなと。
そう思ってたんだ。

とある島で、海兵から逃げ回っていて。
漸く撒いたと歩いてモビーに向かう途中で、俺はあいつをレンを見つけた。

一瞬、あれ?ってシモンじゃんかって思ったけど違う事にすぐ気付いたさ。

まるっきり同じ顔をしてるけどよ。
この百戦錬磨のサッチさんが、男と女を見間違えるわけがねぇもんよ。
だから最初は、そういう実を喰った奴が変装してオヤジや家族を狙ってんのかと思って。
すげぇ警戒してたんだ。
でも、そこで過ぎったのは幾ら何でも変装が陳腐すぎるって事。
悪魔の実の能力なら、きっと顔だけを似せるなんて物には留まる筈がねぇし。
何より、そんな能力を持った奴がいると風の噂で聞いた。
それなら、俺の視線の先にいるあいつは?
何者なんだろう、そう興味を抱いてキョロキョロと街を進むあいつを追い掛けた。

そして、あいつはある店の前で手配書見つめて固まったと思ったら、顔面蒼白で海へと早足で歩き出した。

その様子があまりにも切羽詰っていて、早く早くと足を前へ進めるあいつは今にも走り出しそうな程で、市場を抜けて海を見つめて呆然としている姿を見たら、何でだろうな。

あいつがそんな顔をして海を見てる理由を知りたくなった。

でも、生憎出航の時間は迫ってる。

もう一度そんなあいつに視線を向けて。
俺は足を踏み出した。


小憎たらしい兄弟とは似ても似つかない、今にも消えてしまいそうな儚さを持ったあいつをモビーに連れていこうと決めて。


あたふたとするあいつを見るのはホント面白かったぜ?

マルコの目かっぴらく瞬間も早々見れねぇし?
シモンとあいつのお互いを見合って、びっくりしてる表情も。
シモンのくっそ間抜けな怯えた顔も見れたしな。

で、その後は予想外だった。

まさか、あいつがワールドトラベラーだったってぇのは。
連れて来た事を後悔したのは内緒だぜ?

だってよ、ワールドトラベラーに関する事で政府や海軍が目の色変えるのは周知の事実。
厄介だな。そう思ったのは一瞬だった。


俺達を見上げた瞳に惹き寄せられた。


多分、マルコも…シモンも同じだったんだと思う。
だから、すんなりオヤジのとこに連れて行ったんだと。


そして、自分の仕事を許可を貰いにイゾウと食堂を後にしたあいつを見送ってから、言った。


「なぁ、頼みがある」

「何だよ、畏まって気持ちわりぃ」

「ほっとけ!そんな事よりよ、レンちゃんがこの世界の事きちんと把握出来るまで。ワールドトラベラーに関する事を一切教えるのはやめよう」


俺の言葉にマルコは眉を顰めた。


「何言ってんだよい。あいつには知る権利あるだろうよい」

「あぁ、承知の上だ」

「サッチ、お前はあの娘を籠の鳥にでもする気か?」


ジョズが珍しく機嫌が悪そうに告げてきた。


「そんなつもりはねぇ。俺だってあいつにこの世界を見せてやりてぇもんよ」


おちゃらけて返す俺に全員からなら何故だと視線が集まる。


「今は頭に入る情報が多過ぎるだろ?冷静になれるってぇ話を出来る機会を待とうってぇ話だ。今あいつがそれを聞いたら。あいつはこの船を意地でも降りる。よく知らねぇ俺らに負担かけるってな?で、辿るのは今までの奴等と同じ道?納得できねぇよ。俺はな」


サッチの言葉に全員がしんとする。


「俺も、よくわかんねぇけど。サッチに賛成だ」


言ったのはエース。


「あいつ、俺好きだ!!あいつが苦しむのも悲しむのも、政府とか海軍に取られんのも嫌だ」


幼い、言葉足らずのそれ。
それでも、マルコやジョズ達は微笑みを浮かべる。

それから、彼女が書類仕事をこなす様になってから。
俺達があいつに怯えながらも楽しい日々を送った。

あいつらはどうもレンにやたらと構うし、レンもあまり頼る事をしない。

それでもあいつなりに、家族となった奴等と不器用なりにあいつらしく向き合おうとしていた。

そんなレンを俺尊重してやりたいと思った。

だから、心配で内心ハラハラする気持ちを押し隠して、俺はあいつの背を押す。


そんな日々が続いた、あの日まで俺達はレンにワールドトラベラーの実態を話す事はなかった。

今でもそれを後悔はしてない。
時期尚早だとは思ったが、本人が乗り越えられたなら、それでいいと思う。

あの日初めて見たあいつの涙に張り裂けそうな叫びに。
柄にも無くこいつを守るのが俺でありたいなんて思った。

闘えない弱い癖に、誰にも負けない強い心を持っていて、泣かせてやらなれば、叫ばせてやらなければ、それも出来ない強がりで意地っ張りなこいつに。

そうさせてやれるのが、俺だけだったらと。



冷笑を浮かべてラクヨウを罵るレンに苦笑いが浮かぶ。
あの日の事であいつの中でどんな心境があったのか分からない。
でも、前々からのその光景に何故だか愛が篭っている様な、そんな気がするのは気の所為ではないと思う。

あいつが一線引いていた何かがとっぱらえたなら。
あの日の俺を褒めてやりたい。


『ちょっと、サッチさん。笑ってますけど貴方もですよ?2日前の書類まだ出てません』


「へ………。はぁっ?!忘れてた!!」

『早くやって出して……さい……』


それに……………


「ん?レンちゃん、何?」

『さっさと済ませて、美味しい紅茶とケーキ作ってくださいー!!』


ふいっとそっぽを向いたレンの顔が赤く染まってるのを俺は知ってる。

慣れない、人を頼る事、甘える事。

それが少しだけ出来る様になったこいつに書類を出したら、飛び切り旨い紅茶と頬が蕩けるようなケーキを作ってやろう。

足取り軽く俺はキッチンを後にした。


magical power of words.
(言葉の魔法)


「あいつ、気持ちわりぃよい」
「なぁ、マルコ。最近レンがサッチばっか構うんだが」
「そう言えばそうだねい…ってお前背後がどす黒いよい、シモン」
「俺も書類止めようかな」
「そうまでして構われたいのかよい」
「あいつは俺の片割れなのー!!くそっ!パンの癖に!ぶん殴って来る」
「あ、待て…よい……」




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