cry for the moon
その日も、朝からレンはまずはマルコの元を尋ね、集まっていない書類の有無を尋ねる。


「連日お前さんが頑張ってくれてたからない。今日は特に急ぎの書類もないんだよい」

『そうなんですか?じゃぁ、今日はマルコさんのお仕事手伝いますよ』


レンがそう言ったが、マルコはそれに笑って言った。


「いや、今日の仕事は俺だけでも問題ないからよい。たまにはお前もゆっくり休むといい。船乗ってからほとんど休みなく働いてただろう?今日は羽伸ばしてこいよい」


そんなマルコの計らいでレンの今日の予定はまっさらになったのだった。




『やばい・・・やることがひとつもない』


この船に乗り込んだ日に与えられたシモンの隣の部屋にある自室の扉を開けてポツリ呟く。
そのまま部屋に滑り込むとレンは流れるようにベットに倒れこむ。
ぼふっと音をたて、ベットに沈むと目についたのは窓から見える広大な青い海。


『甲板出てこようかな・・・』


呟くと直ぐに起き上がり、クローゼットを開け日差し避けの為に少し前にシモンに借りたシャツを羽織る。


『なんか、彼シャツみたい・・・まぁ、いっか』


裾をウエストで縛って、鏡で確認するとレンは早速部屋を後にしたのだった。
甲板へと向かう足取りはいつもの仕事中に比べたら幾分か軽く、早々に甲板へと通じる扉の前に辿りつく。
そして、扉を押し開ければ鼻に香る潮の香り、そして視界一杯に広がる・・・・いかつい男達の集団が目についた。


『ここは海が広がったとかじゃない辺り・・・さすが海賊船ってとこかな・・・』


甲板では、エース率いる2番隊が訓練をしているのか時折エースの声が響く。
それを聞きながらレンは船縁へと足を勧め、船縁へ手をかけて、海を見下ろす。


『こっちに来てから、ゆっくり過ごすなんて初めてかも・・・』


ボーっとしながら、海を見回すレン。
その後姿に気付いたのは、


「よっ、あんま乗り出すと落っこちちまうぞ?」

『っ!!?・・・シモンさん?ビックリさせないでくださいって・・・』


わりぃと顔の前に片手をあげて笑うシモンに、レンはもうっ!と言ったところでシモンが聞いた。


「なんだ?今日は非番か?」

『あ、そうなの。マルコさんに今日はやることないから、たまにはのんびりしとけって・・・』

「ふーん。そっか。じゃぁ、俺も非番でやることなくてよ?暇つぶし付き合えよ」


にかっと笑ったシモンに、いいですよーと返したところで2人は顔を見合わせた。


「『で、何する/します?』」


言った直後、2人の笑い声が甲板に響き渡った。
一頻り笑うとレンが言った。


『シモンさん達の冒険の話聞かせてくれません?』

「お、そんなんでいいならいくらでもしてやんぞぉ」


笑い返して、シモンは話し始めた。
船首甲板の階段に並んで座り話す二人はそれは仲睦ましい兄妹のようで、それを遠くから見ていたクルー達は笑みを浮かべる。
話の内容は聞こえないが、嬉しそうに誇らしげに話すシモンの顔、それを相槌をうって真剣に聞くレンの表情が笑顔から驚愕、脅えたり、はらはらしたりと百面相の様に変わるのだ。
その光景に笑い出す者までいた。


それに気付いたエースは、2人の名前を呼びながら手を振る。
声に気付いた2人も手を振り返すとエースは満足げに笑って、隊員達の下へと戻っていった。

それから、また話を始めて少しした時2人に影がかかった。


「よぉ。仲いいこったな」


飲み物と軽食を乗せたトレンチを持ったサッチが2人の前に立って笑いかける。


「おぉ、サッチ。どうしたんだ?」

『こんにちは、サッチさん』


2人もサッチに笑いかける。
そんな光景にサッチは更に笑みを深くする。


「なんだよ、サッチ」

「いやよ、ただでさえおんなじ顔してんのに表情まで一緒となると・・・なぁ」

『まぁ、同じ顔なんでね』


フフ・・・とレンが笑う。


「そんな事よか、それ何だよ?」


シモンがサッチの持つトレンチを指差す。


「あぁ、オヤジから仲のいい兄妹が話し込んでるから冷たいモンでも持ってってやってくれって電伝虫で連絡入ってな?丁度俺も休憩だったからよ、混ぜてもらおうかとな?」


そう言ってサッチが2人にウインクして笑う。


「しょーがねぇなぁ・・・混ぜてやりますか?レン」

『じゃないと、サッチさん泣いちゃうかもだし??』


顔を合わせて、ねぇー?と首をかしげる2人に、泣かねぇよ!?と突っ込みをいれながらサッチはその場に座り込み持ってきた飲み物を手に取る。


「で?何の話してたんだ?」

「ん?あぁ、少し前に寄った無人島の話してたんだよ」


サッチの持ってきたクリームチーズとジャムを載せたクラッカーを口に放りこみながらシモンが答えると、サッチはひどくげんなりとしながら返す。


「あぁ・・・あそこか・・・」

『?どうしたの、サッチさん』

「その島でこいつサーベルタイガーにすっげー気に入られて・・・追い掛け回されてたんだよ」

『何で?』

「さぁ?わかんねぇけど・・・いいオスだったんじゃね?」


思い出したのかシモンはゲラゲラと笑い出す。


「おっめぇ!!あん時俺はほんとに必死だったんだぞ!!?」

「半泣きで逃げてたもんな」

『そうなんだ・・・サッチさん。あたしは貴方を甘くみてました・・・』

「え?何?それどういう事??」

『あたしはてっきりサッチさんは、誰にもモテはい…すっごく可哀そうな勘違い野郎だと思ってたんだけど・・・モテたんですね!獣に・・・』


ぷふっと口に手を添えてほくそえむレンにサッチがちょっと!!?と必死に否定を試みるが、自他共に認める鬼畜女であるレンにとってはそんなのもういじるネタでしかない。


『いいと思うよ!!サッチさん!あたし応援しますよ、禁断の愛!!』

「待って!!ほんと待って!!俺人間の女の子が大好きだからぁ!!動物は可愛いとは思うけどねっ!!恋愛の対象とかで見たことないから!!」


ニヤニヤとしながらサッチで遊ぶレンを見て、シモンは笑う。


「あーほんと、お前らおっもしれーわ!」

「シモン!!お前のせいだろ!!俺変態みてぇじゃねーか!」

「『いや、変態だろ』」


サッチの言葉に声を合わせて返した2人にサッチはズーンと落ち込む。
そんなサッチを見てレンは満足したのか、アイスティーを手にとって飲む。
騒いで話して、からからになった喉に冷たいアイスティーが染み渡る。
そして、落ち着いた頃。
サッチが何気なく、レンに聞いた。


「そう言えば、レンちゃんの家族ってどんなんだったんだ??」

『え・・・?あたしの家族ですか?』

「おう!!兄弟とかは??」

『一人っ子だったんで、兄弟はいなかったですよ?』

「へ〜、そうなんだ。じゃぁさ!親御さんは??レンちゃんみたいな子、育てたんだ。すっげーいい人たちなんだろーな!!」

『どうですかね?親と深い話とかした事とかないので知らないです』

「そうなのか?」


レンの言葉にシモンが訝しげに尋ねる。


『はい、うちの親はなんと言うか・・・仕事が忙しくて2人ともあまり家にいなかったから。あんまり思い出ってないんです』


遠くを見るような瞳でそう語ったレンに2人が詳しく話を聞こうと口を開いた時だった。



「敵襲ー!!3時の方角っす!!見たことねぇ海賊船きてます!!」


見張り台から響いた気の抜けた報告にサッチが苦笑いを見せる。


「おいおい、もうちっとやる気の出る声かけしろって」

「ほんとだぜ・・ったく。レン、この話は後だ。船内行ってろ」


そう言ってシモンがレンを見る。


『はい。あれ?そう言えば、あたし乗ってから敵襲って初めてですよね?』

「ん?あぁ、海戦ってこんだけでけぇモビーでもかなり揺れんだよ。で、海に慣れてねぇところころ転がってあぶねぇからさ。近づいて来たらいつもマルコだとかナミュール、あとは・・・イゾウあたりが早々に沈めてたんだよ。新しい妹が転がって怪我しちゃあぶねぇからさ」

「そうそう、女の子が傷作っちゃよくねぇだろ?」


ニコっと笑った2人にレンはなんだかむず痒くなる。


『そうだったんだ・・・』


その反面、レンは自分の無力さを痛感する。


「ほれほれ、早く行け」


レンの頭をシモンが撫でる。


『はい、怪我しないでくださいね』


2人にそう声を掛けてレンは船内へと入る扉に駆けて行く。
そんなレンにあちこちから声がかかる。


「おい!早くいけぇ!巻き込まれちまうぞぉ」

「ダッシュだ、ダッシュ!!」

「転ぶなよ!!」


これから自分たちは戦闘に突入するのに、船内へ走る自分を心配する彼らにレンはテレ臭くなる。
そうして扉へ向かって更に進める足を速めながら


『そんな事言って、自分達が怪我しないでよね!!』


ベーと舌を出して言う。
それに彼らがおうっ!!と声を返すのを笑顔で聞く、

そうして、扉の前に辿りついたレンが船内へ入ろうとノブに手をかけた時。
背後から声を掛けられ、腕を掴まれる。


「おやおや・・・これはまた・・・毛色の変わった女じゃねぇか・・・」


え?っと振り返った先にいたのは、顔の半分を仮面で隠した長身の男がレンを見下ろしていた。
そして、声を出す間もなく抱え上げられ、男は飛ぶように船縁へ舞い降りた。


「レンっ!!?」


サッチとシモンが駆け寄ろうとするが、刀をレンへと向けた男が笑う。


「駄目だろ??あんま寄ってこないでよ。この女殺したくないだろ??」


それに従い足を止めた2人が男を睨みつける。


「くくく・・・それでいい。それにしても、おもしれぇ女囲ってんな?細胞レベルでこの女はちげぇぞ?お前どこから来たんだ??」


男の言葉に全員が眉間に皺を寄せた。




cry for the moon.
(無いものねだり)


せめてこの優しい人たちの足を引っ張らずに済むだけの力欲しい。
せめてこの人たちの助けになれる人になりたい。

それが無いものねだりでも。

あたしはこの人たちの足枷にだけはなりたくなかった。
なのに・・・・結局あたしは能無し。


title by 瑠璃





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