You'll never be alone.
船内を目的の部屋へと向かって足を進めるレン。
前を見据えて進むその顔は凛としていて、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出す。
本人はただ、仕事が滞っているある3名のせいで機嫌が悪いだけなのだが。


『全く何度言っても聞かないんだから』


そうぼやきながらコツコツとブーツを鳴らして向かうのはまずはラクヨウの部屋。


ノックをし、返事を聞く前にバタンと音を響かせて扉を開け放つ。
その先では、寝ていたのか飛び起きるラクヨウ。


「げっ!!?レン!?」


『げっ!!じゃないです。ぐうたらと寝てらっしゃるようですが、書類出来てるんですよね?あ、ごめんなさい?当たり前でしたか。じゃなきゃ、仕事の出来るラクヨウさんが寝てるわけないですよね?』


にーっこり笑いながら告げられた言葉にラクヨウの顔はこれでもかと引き吊るのだった。


そして、発破と言う名の脅しを十分にかけたレンは今度はエースの部屋へと歩き出す。



『エース君・・・は、ご飯を人質にとればすぐに回収出来るから・・・』



そう言いながら、辿りついた部屋の扉を今度はノックもなしに開け放つ。



「うおっ!!」


驚いたエースが肩をビクっとはねさせて振り返る。


『エース君、書類』


言った瞬間エースの顔が青褪めるから、レンは間髪入れずに告げた。


『今日中ね?提出出来なければ、夕飯と明日の朝食抜きにするようにコックさんに話して「やるやるやる!!!だから、お願い!!それは勘弁して!!!!」はい。じゃぁ、頑張って下さい。あとで、様子見に来ます』


そう言ってエースの部屋を後にすると、今度はサッチの部屋へと歩みを進めた。
ところで、目の前に人影が立ち塞がった。


集めた書類に落としていた視線を上げれば、目の前にいるのはこの船の白衣の天使、ナースが3人。
どうしたのかと、レンが口を開こうとした時。


「あなた、隊長達に随分な口聞いてるみたいじゃない?」


『は?』


「ラクヨウ隊長はまだしも、エース隊長やサッチ隊長にあんな物の言い方。本人達が許しても隊員に示しがつかないとか考えられないのかしら?」


ここに来てやっとレンは彼女たちの言い分に気付いた。



『(ははぁ〜ん。大好きな隊長と仕事してるあたしが気に食わないわけか・・・にしても、ラクヨウさんはいいとか・・・可哀そう・・・)』


「ちょっと、聞いてるの??」


思案していたレンが言葉を返さない事に苛立ったのか、ナースの1人が苛ただしげに言葉を紡いだ。
そこから、レンが口を挟む隙を与えまいとするかのように畳み掛けられた。


「それに、隊長のみならずシモンさんとも仲がいいみたいじゃない?彼と同じ顔でも中身は随分と小汚いみたいだけど・・・」


「違う世界から来ただか何だか知らないけど・・・そんな得体も知れない女がこの船ででかい顔してのさばられても目障りなのよ」


「仕事が出来るだとか言われてるみたいだけど・・・そんなの書類だけでしょ??戦闘も出来ない、医療の知識もないただの役立たずのお荷物じゃない」


そこまで言われた所でレンは顔を俯かせる。
そして、次に上げた顔は、これまでに見ない程の満面の笑み。


『何をそんなに言うのか、わかりませんけど?そんな暇あるなら、あなた方の武器である医療の技術でも磨きかけたらどうですか?生憎、あたしは仕事をさぼったり、効率の悪い仕事をなさる殿方にはてんで興味ないんですよね?あぁ、ちなみに仕事が出来るからってマルコさんやシモンさん、その他の隊長さんにも興味はございません。あたしは、この世界で今は見たことないこと、知らないことを探す方が忙しいんですよ?ご本人達に構ってもらえないからって、それをあたしに八つ当たりする暇あるんだったら・・・・。彼らに振り向いて貰える女になる努力でもなさったらいかがでしょうか??あぁ、でもこんな女々しいばっかみたいな事してる時点で真っ直ぐな彼らの隣にはふさわしくないでしょうけど。』


こりゃ、失敬。

にこっと綺麗に笑みを浮かべたレンにナースの1人が怒りその手をレンの頬を引っ叩いた。


甲板から響く船員達の声しか聞こえない船内の廊下に、ぱぁんと乾いた音が響いた。



『満足ですか?それでしたら、あたしまだ仕事があるので行かせて頂きますね』


笑みを崩さずに入ってナース達の横を通り過ぎようとしたレンだったが、あ、そうだ。と言って彼女達を振り返る。



『戦闘も出来ない、戦う彼らを癒す術もない。何もないあたしだから、出来る事をしてあたしを受け入れてくれたオヤジさんや隊長さん達、シモンさんに恩返しがしたいんです。居場所は自分で作れとか言っておきながら、あたしがここにいていいんだと思わせてくれた彼らの為にあたしが出来るのはこんな些細な事だけなんです。それに全力を尽くすことがせめてものあたしの恩返しです。それも気に入らないなら。また来て下さい。あたしは、貴方たちが納得するまでいくらでもお話致しますよ』


それじゃ。そう言って、レンは今度こそその場を後にした。




『いった・・・。まさかの不意打ちに油断してた。女だからと思ってたけど、さすが。この船のナースだわ。力つよっ・・・』


口の中に広がる鉄の味に眉間に皺を寄せる。
頬はじんわりと熱を持っている。


『(こりゃ、赤くなってるかなぁ・・・)』


まぁ、いっか。と改めてサッチの部屋へと足を進めたのだった。


「くっくっくっ・・・ほんとに肝の据わった姉ちゃんだなぁ・・・」

「イゾウ、趣味悪いよ?助けてあげたらレンぶたれなかったのに」


レンの立ち去った道にイゾウとハルタが姿を見せる。
船内を歩いていた2人が廊下を曲がろうとした先でこの騒動が起きていたのか、一部始終を見ていたらしい。


「あそこで止めても、どうせまたあいつが何か言われるのは目に見えてるだろ?これでいいのさ」

「そうゆうもん?」


少し不服そうなハルタにイゾウがそう説いて、2人はレンとは違う方向へと足を踏み出したのだった。

その頃、最後の問題児。サッチの部屋に辿りついたレンは当たり前のようにノックもせずに扉を開け放つ。

「お、来たかぁ??」


そう言って、レンに背をむけたまま話し出す。


『サッチさん。余裕ですね?書類はあがったんですか?』


「おう!!あと、これにサインすりゃ終わりだぜ??」


ちょっと休憩〜なんて言って立ち上がったサッチがレンに振り返った瞬間に慌てだす。


「って、おい。その顔どうしたんだよ!?」


『あぁ、来る途中で階段で転んじゃって』


告げられた言葉が明らかに嘘だと気付きながらサッチは深くは追求しない。


「お前ねぇ、女の子なんだから気をつけなさいよ??」


『以後気をつけまーす!!』


軽く返された言葉にサッチは苦笑いする。
補佐として、書類仕事を任されているレンを面白く思わない者がいる事には気付いていたが、この数日の間一緒に過ごしたサッチは口を出さないと決めていた。

レンならきっと大丈夫だろうと、だが、さすがに頬を赤くさせるとは思っていなかったのか、なんだかざわつく胸にサッチは自嘲的な笑みを溢すと


「ほれ、冷やしておけよ。手当てしてやっから、ここ座れ」


今まで自分が座っていた椅子を指差すと、備え付けの救急箱からサッチはシップを取り出す。


『あ、ありがとう』


少し照れくさそうに言ったレンは言われた通りに腰を下ろす。
そんなレンの頬にシップを貼りながらサッチが聞いた。


「やっていけそうか?」


『大丈夫だと思いますよ?あたし、根性と性格の悪さは誰にも負けない自信あるんで』


「くくく・・・そうか。でも、しんどくなったら俺でもシモンでも、エースでもいい。他の隊長でもいい。ちゃんと話せよ?この船に乗ってんだ。俺たちは家族なんだからよ!」



サッチの言葉に目を丸くした直後、レンは優しく微笑んだ。



You'll never be alone.

(君は1人じゃない)


title by 瑠璃




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