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「#ちゃん!配達だよ!!」
『おじさん、ありがとうございます。奥にお願いできますか?って、にやにやしてどうしたんですか?』
「いやね、さっき家内とも話してたんだけど。出産して落ち着くまででもいいから家に住まないかい?こんな山の麓で産気ついたら、危ないだろう?#ちゃんは娘みたいなもんだしね!!俺たち心配でよ?どうかねぇ?」
笑顔で告げた店主の言葉に#の心はぽかぽかと暖かくなる。
『いいんですか?ご迷惑じゃ…ないでしょうか??』
「迷惑なわけあるかいっ!!むしろ、そのままずっと住んでてほしい位だよ!!」
そう言った店主に自然と笑顔になる#は何だかむず痒く感じる胸を感じながら
『…それでは。お邪魔させてもらおうかな…?私も、やっぱり不安だったので…』
此島の人々はとても…とても優しかった。
ある日訪れた#が身重とわかれば、住む家に家具、日常品を整え笑顔で受け入れてくれた。
何一つ、素性の話せない#を疑う事もしないで。
その優しい心で、親の愛を知らなかった#にそれと代わる愛を与えてくれたのだ。
『(与えられてばかりだ。ここでも…。それなら、あたしは此島でこの人達の為に……)』
そうして、店主はベットを乗せてきた荷台に#ととりあえずの荷物をのせて来た道を戻っていった。
店の裏手につくと、手を借りて#は荷台から降りる。
「母ちゃんが喜ぶなっ!!今日はご馳走にするかっ!!たくさん食べろよ!#ちゃん!!」
『はい、それじゃあ。遠慮なく頂く事にします』
「おーい!!母ちゃーん!?」
『………?(何だ?海の匂い?)』
「あれ?もう店は閉めてる時間なんだが……客でも来てるかな?#ちゃん。待っててくれるか?」
『え?あ、悪いですから。あたしも手伝わせてください』
話ながら店へと出る扉を店主が開ける。
ゆっくりとあげた視線の先にいたのは。
今なお愛してやまない…ニューゲートの姿。
持っていたバックを床へと落とすと、#はくるりと向きを変えて早歩きで家を飛び出した。
「#っ!!」
「「「「#さんっ!!」」」」
その様子を見ていた店主夫妻は、呆然とする。
「こりゃぁ…どういう事だ?」
白ひげは#を追って、店を出る。
「おめぇら、店主達に説明しとけ!俺も戻ったら話するがよ!!」
それに返事をしたマルコとサッチ達は店主へと話を始める。
彼女が、白ひげ海賊団で2番隊隊長を務める程の実力者であった事。
今現在身籠っている子の父は白ひげである事。
勘違いから船を降りてしまった事。
そして、自分達はそんな彼女を迎えに来た事。
店主夫妻は驚き目を丸くしていたが、快く彼らを受け入れた。
彼女が望むなら、寂しいが連れていく事を了承した。
一方、#と白ひげは。
「#!!おめぇ、落ち着かねぇか!!そんなじゃ腹の子に響くだろうが!?」
体の大きな白ひげ相手では、すぐに追い付かれてしまい、#の前へと白ひげは立ちふさがる。
声をかけるが#は下を向いたまま、口を開こうとはしない。
暫くの静寂の後に口を開いたのは#だった。
『………なんで?………何でここにいる!?ニューゲート!!』
「何でたぁ、随分だな?探しに来たんだ。お前をな…」
『……エレンか』
ため息を溢すも、まだ白ひげからは彼女の表情は伺えない。
「あぁ。確かに、あいつから聞いたぜ?」
『で、何で探してたんだ?別にお前に……ニューゲートに迷惑をかけるつもりはないから大丈夫だ。わかったらすぐに帰ってくれ』
「そりゃあ、出来ねぇ相談だな」
『お前は海に帰れよ!!お前は困るだろう!?あたしとの子供なんて!!お前には……ニューゲートには海に生きるのがよく似合う。枷を自ら背負う必要はないんだーー頼むから……帰ってくれ…』
声は震え、情けない声が出る。
「そうか?だが、そりゃぁ。無理だぜ?俺が海へ…家族の待つ船に帰る時はおめぇも…#も一緒にだ。確かに、お前にしちまった態度は謝っても謝りきれねぇ。悪かった。あんな態度とらなけりゃ、こんな事にもなんなかったからなぁ…。#、よく聞けよ?」
静かな山道に白ひげの声が響く。
「俺もこう言っちゃわりぃが。勘違いしてたんだ。あの日お前を抱いたのは夢だと思ってた。それで気まずくてな…あんな接し方に……なっちまった。あの日、おめぇが船を降りてから。おめぇの事を考えねぇ日なんてなかった。そこにエレンから聞いたんだ。おめぇの腹には俺の子がいるってな。その時おれぁ、心の底から嬉しかったんだぜ?」
一気に話した白ひげの言葉に少しずつ顔をあげると、かがんだ白ひげが優しい眼差しで#を見つめていた。
「おれぁ、こうでもならなけりゃ。おめぇへの気持ちに気づけなかったかもしれねぇ。そのせいでとんだ苦労と心配をかけちまったな……悪かった。」
白ひげの言葉に#は1つまた1つ涙を流す。
その涙を指ですくう白ひげは#の頬を撫でながら
「こんなどうしようもねぇ俺だけどよ。おめぇを世界で一番愛してる。なぁ、俺の元に帰ってきちゃくれねぇか?戻ってきてくれるってぇなら、俺は今度こそおまぇを手放さねぇ。俺の子を俺の側で産んでくれ。一緒に、息子達も一緒に育てていこうじゃねぇか」
『ニュー…ゲート…。いいのか?あたしは…』
「おめぇがなんと言おうと、俺はおめぇじゃなきゃ駄目なんだ。おめぇの全てを俺は受け止める覚悟がある。なぁ、帰ろうぜ?」
笑った白ひげに#は抱き付いた。その瞳からは次から次へときらきらと涙が溢れる。
『もう、もう二度と会えないと!!』
泣きじゃくる#の頭を撫でながら、二人は離れていた時間を埋めるように話をする。
それを木陰から覗くのは彼らの愛する息子達。
「これで一件落着…ってか?」
「よかったよなぁー」
「収まる所に納まったねぇ…」
「二人とも幸せそうだな…」
「そうだねぃ…」
もうすぐ沈む太陽が今日一番の光を放ち二人を優しく照らす。
二度と二人が離れぬように…
二人が永久に幸せであるようにと…
すれ違っていた二人の想いは
やっと交わり、1つの道となる。
永久に供にその道を進む。
手を繋ぎ、二度とその手が離れぬように
しっかりと互いの手を握りしめる。
遠回りをしながらの
少し大人の不器用な恋物語。
幸せは見えないものだけど、
意外と近くに眠っている。
近すぎて見えなかった幸せは
今は形へと変化していく。
これはそんな二人の物語。
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