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白ひげ達がトレス島へ着いたのは、前回の島を出てから3日後の事だった。
「頼むぜ、息子達!」
白ひげの言葉の後に、任せろ!と意気揚々と我先に船を降りていく息子達を見て、白ひげは目を細める。
そうして、自身も隊長数名を従えて船を後にするのだった。
だが、トレス島での手懸かり探しは難航を極めていた。
まずは街に出て、この島で生活をしていないかを確認する。
が、案の定#がこの島で生活をしているという情報は入らず、また港での出入りする船と航路と行き先の確認作業。
前回の様に目撃した者がいればよかったが、トレス島はそこそこに大きな島であり乗客一人一人の確認など一切してなかったらしく、どの船に乗ったのか、どこに向かったのか…一切の手懸かりがなく、#の足取りは途絶えてしまっていた。
その夜、トレス島の入り江に停泊したモビー・ディックでは甲板で話し合いが開かれていた。
「一切の目撃情報も、手懸かりもない…親父、どうするんだ?」
「…………傘下の奴等は今どの辺にいやがる?」
「離れちゃいるが、大体の船がこの海域に向かってきてるぜ?」
「………なら、この島から出る全ての航路の先にある島へ向かわせろ。こうなったら、手当たり次第に探すしか術はねぇ…すぐに指示をしろ!俺らも出港するぞ!!」
「よし、来たぁっ!!」
そうして、また慌ただしく船上は動き出す。
白ひげは一人甲板で海を見据える。
「おめぇ、今どこにいる……」
それからの白ひげ海賊団と傘下の海賊達の動きは素早く。
常に並行して海を進んでいたモビーと子モビー2隻とパドルシップもそれぞれの船に隊を振り分けてそれぞれの航路を取った。
そして、傘下の海賊達も密に連絡を取り合いながらしらみ潰しに島を巡る。
そうして、#の捜索が始まってからすでに3ヶ月という月日がたっていた。
「……見つかりませんね…#」
朝の診察をしながら、エレンがぽつりと呟く。
この3ヶ月であり得ないスピードで新世界を進んでいる。
それでも、#の情報は何一つとして入らないのだ。
一時は海軍に捕まったのではと懸念したが、新聞で#の名も上がっていない現状を見れば、その可能性は0に等しくなる。
仮にもこの白ひげ海賊団の隊長を務めていたのだ。
そんな高額首を捉えて、新聞で報じないわけがないのだ。
「大丈夫だ…エレン。すぐに見つかるさ…」
「…親父様。そうですね!早く見つけないと、お腹の子出てきちゃいますよ!」
そう、あれから3ヶ月。
腹の子も6ヶ月、#のお腹も随分と目立ってきている筈。
一刻も早く、その無事な姿を確認したいのは誰もが思う事だった。
と、ノックもなしにマルコとサッチが白ひげの部屋へと飛び込んできた。
「「親父っ!!!!」」
「どうしたぁ?んな血相変えてぇ…」
「#さんの…#さんの居場所わかったんだ!!」
「!?そうか…で?あのバカ女、どこにいやがる」
「傘下の奴が、寄った島で情報集めてる時に商船の船乗りから聞いたらしいよい。そいつらのたまたま立ち寄った新世界の端にある島でユリシスにそっくりな妊婦に会ったと…」
「その島は?」
「ホエールランド…船乗り達はその海に浮かぶ島影から鯨島って呼ぶんだってよ!!」
「…グラララララ!!そうか!!直ぐに子モビーとパドルシップ、傘下の奴等へ連絡を取れ!!傘下の奴等は元の航海へ戻るように、子モビーとパドルシップにはすぐにその鯨島へ向かえとなっ!!」
それに返事をしたサッチとマルコは嬉々として走り出す。
「ちょ!!私、ジェットさんとか皆に知らせて来ます!!」
そう言ってばたばたとエレンも部屋を後にした。
静かになった部屋で白ひげは笑みを浮かべた。
「今、迎えに行く…待ってやがれよ…バカ女が…グラララララ」
船内を駆け巡った#発見の報せに、クルー達は沸き立つ。
甲板へと出てきた白ひげは、笑顔でワクワクとした顔で自身を見つめる息子達にニヤリ笑みを見せると声をあげた。
「進路は鯨島!!俺らの再会にはピッタリじゃねぇか!!行くぞ!息子達!!」
咆哮と共に白鯨は大海原を進む。
愛する家族を迎えに。
白ひげの見つめる先で白鯨の船首が笑った気配がする。
「……モビー…おめぇも嬉しいか?」
驚く顔が、動揺する姿が目に浮かぶ。
だが、その後に見せてくれるのは
とびっきりの笑顔である事を願う。
どれだけでも罵られよう。
おれぁ、おめぇの全てを受け止めたい。
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