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「ねぇ、もしかしてだけど…ルカちゃん?」
『ん?おじちゃん、なんでルカの名前知ってるの?』
「ハニー、黙っとけ」
「お頭、この空気でそれ言うのか…」
『ダァリン?』
不思議そうな顔を浮かべるルカをおろし、ベンと自身で隠す様に後ろへやる。
そして、青雉を見据えて口を開いた。
「ルカだとしたら、何だと言うんだ?今のルカはお前らが手配してるルカとは違う。手出しは無用で頼みたいのだが?」
『ダァリンー?おしりあいー?ねぇ!はやくおふねいこー?』
ルカがシャンクスへといい募る。
「あぁ。少し待っててな…」
「別にー、ルカちゃんをどうこうってつもりはねぇよ…俺の事まじでわかんねぇみたいだしー?まぁ、これがセンゴクさん達ならこれ幸いと連れてくだろうけど」
そう言うとしゃがみこみルカへと話しかけた。
「ルカちゃん?俺、クザンてーの。よろしくなぁー」
シャンクスとベンの間から少し顔を覗かせて青雉を見ると、出された手を握ろうとした。
「あ゙────────っ!!」
突然の雄叫びにビクっとしたルカが咄嗟に手を引っ込めるとシャンクスの足にしがみつく。
声にシャンクス達が視線を向けるとこちらを指指しながら走ってくるサッチとエース。
「なっんで、赤髪と青雉まで揃ってんだよ!ルカ大丈夫かっ!?」
『さっちゃん!!エース兄っ!!』
2人の姿にこれ以上ない笑顔を見せるとシャンクス達の背から抜け出して駆け寄ろうとした。…が大きな手にそれは塞がれた。
「ルカちゃーん?ご挨拶はちゃんとしねぇとなぁ?」
抱き上げたのは青雉。
『ふぇっ!?あ、はじめまして、ルカです』
突然の事にルカは青雉を凝視して固まる。
「青雉っ!!ルカを離せっ!」
サッチがそう叫ぶ。
「ちっちゃくても、髪と瞳は変わらないんだねぇ?」
ふるふるとしながら青雉の顔の前でゆらゆらと揺れるルカが、叫んだのは丁度青雉の背後に見えたシャンクスの事。
『だ…だ、だぁーーーりぃーーーーんーっ!!』
「なっ!?ダァリンだぁっ!?」
サッチとエースが目を見開き叫んだ。
当の本人、ルカは目についたシャンクスに助けを求めただけなのだが、自分の名ではなくシャンクスに助けを求めた事とシャンクスの事をダァリンと呼んだルカにサッチとエースは空いた口が塞がらず…
「あー、大丈夫だ。青雉、ルカをこっちに渡せ」
手をあげて青雉へルカを返せと言ったシャンクスに青雉はため息を吐きながらルカを渡す。
「怖がられたんじゃ、しょーがないよねぇ。はい。じゃあ、俺行くよー」
じゃあね?ルカちゃん。とルカの頭をポンポンと叩くと青雉は去っていった。
が、まだまだ修羅場は続く。
ぐしゅぐしゅと半べそをかいて、シャンクスに抱きつくルカを見て、エースがシャンクスを睨む。
「シャンクスっ!あんた、ルカに何教えてるんだよっ!」
それに、はっと気付いたサッチもシャンクスへ近寄りながら口を開いた。
「ダァリンとか!何教えてくれてんだっ!ルカがわからねぇ事をいい事にてめぇっ!」
「だっはっはっはっはっ!何だわ予想通りの反応だなぁ?」
「お頭、からかうのはやめろ!悪いな…」
ベンが何故か謝ると、一旦サッチ達は口をつぐむ。
と、そこに青い光を放ちながらマルコが降り立った。
「何で、赤髪がいるんだよい…」
ルカを見てからシャンクスへと視線をうつして静かにそう発した。
「1人でいるところに会ってなぁ?船へ連れてくところだったんだ」
そう言って笑顔を浮かべてこう口にした。
「マルちゃん」
その瞬間マルコの額にビキっと音をたて青筋が浮かぶ。
「赤髪、てめぇ…」
そこでルカがぐすぐすと鼻をすすりながらマルコ達に視線をうつす。
『ざっぢゃん、マルぢゃん、エーズ兄ー!』
安堵からか、シャンクスの腕から抜け出しサッチの足にすがり付いたルカをサッチが腰を下ろし抱き止め、エースが屈んでルカの顔を見る。
そして、見下ろす様にマルコがルカを見るとシャンクスに視線をうつした。
「言いてぇことは山程あるが、まぁありがとよい。さっき青雉がいたのを見ると大体の予想はつくからない」
行くぞっと声をかけたマルコにならいルカを抱き上げ立ち上がるサッチとエース。
そして、その場を後にしようとすると
『あ!ダァリンもいっしょにいくの!』
その言葉に空気がピシリと固まる。
「なに?」
「だーはっはっはっはっ!俺もか、じゃあうめぇ酒を持ってこさせるから行くか!おい、ベン。ヤソップに連絡を取れ!」
「…あぁ」
そう言うと呆然とするマルコ達をよそにモビーへの道を歩き出してしまったシャンクス達。
そして、モビーに着くとルカの行方不明を案じた船員と白ひげ、さらに連絡をうけ戻ったイゾウとハルタが何故か酒を運んできたヤソップと話し込んでいた。
「いや、俺もよ。白ひげのとこに酒運べとしか言われてねぇんだよ」
「おっ!ヤソップー!」
酒を運んできたヤソップを見て、シャンクスが声をかけた。
それに全員が気付き、怪訝な顔を見せた。
それもその筈、険しい顔をしたマルコ達とサッチに抱かれ上機嫌のルカ。
更に、シャンクス達が共に船へと上がってきたのだ。
「小僧、なんのつもりだぁ?」
白ひげが眉間に皺を寄せて言う。
それに答えようとしたシャンクスを遮ったのはルカだった。
『おじいちゃん!』
叫んで、サッチから飛び降りると白ひげの足へ抱きつき、白ひげの顔を見上げてこう言った。
『だぁりんがねっ!さっちゃん達と会わせてくれたの!でね、だぁりんがルカをよめさんにもらうからね!ずっといっしょだから、いっしょにおふねきたのー!』
その言葉にまたも空気が凍った。
「ダァリン?」
「嫁?」
「ずっと…一緒?」
白ひげがイゾウがハルタが一気に顔を険しいものへと変えて、シャンクスを見てルカへと視線を向ける。
それをにこにこと笑顔を浮かべるルカに、意味があまりわかってないと認識すると大きくため息を漏らす。
「おめぇ、あんま余計なことこいつに吹き込むんじゃねぇ」
「余計な事とは、心外だ。売却は完了してるぜ?ルカも了承したからなぁ?なぁ?ルカ」
にやにやとしてルカに話しかけたシャンクスにわけもわからず頷いたルカ。
「ルカ、サッチとあっちで遊んでろ。俺ぁ、この小僧と話があんだ」
『?はーい!』
不思議がりながらもサッチの手を取り船尾へと駆けていったルカを見送ると白ひげはシャンクスへと向き直った。
「まぁ、色々言いてぇことはあるがなぁ。あいつが元に戻った時に記憶があるかどうかなんざ、わからねぇが。記憶があれば、次会った時に怪我すんのはおめぇだ。勝手にしやがれってんだ。」
「親父っ!!」
納得いかないマルコがいい募るが視線でいなすと言葉を続けた。
「何でも、青雉から守ってくれたらしいじゃねぇか?それは礼を言わせてもらうぞ。悪かったな」
「いや、どうって事ないさ。たまたま一緒にいたのが俺だっただけさ。それに、俺の未来の嫁さんだからなっ!だっはっはっはっはっ」
「やらねぇよいっ!」
「そうだぞっ!ルカは嫁にはいかねぇって言ってたからな!」
いつまでも続いた押し問答もルカがサッチと戻ってきて、お腹すいたの一言で終わりを告げると、一気に宴の準備が始まり宴が始まった。
白ひげのひざに座り、食事を進めるルカを見たシャンクスがぽつり呟く。
「にしても、何だ。あの食べ方は…小動物みてぇだな…」
「ちっせぇ時に人見知りとはあいたにも可愛い時があったんだなぁ!」
ヤソップが隣で言う。
「だが、俺らにはほとんどそんな素振り見せなかったが?」
「ほういやぁ、おこえルカに会っはんば?」
「エース、食ってから話してくれ…」
「ルカが、走ってきてお頭にぶつかったんだ」
「あぁ。だからか!」
「?」
「あいつには、ごめんなさいとかお礼、挨拶なんかはきちんといえと言って聞かせたからない。そこに精神年齢があまりかわんねぇ赤髪だから気にならなかったんだろい」
酒を煽りながら言ったマルコに、シャンクスがひどいなっ!と笑いながら返す。
白ひげのひざでは、サッチに嫁の意味を教え直され、シャンクスのダァリン呼びをやめろと言われるルカ。
『んー。わかったぁ!』
生返事を返しながら、サッチの持ってきたデザートを食べる。
そうして宴の夜は更けていった。
なお、ルカが戻るまでシャンクス率いる赤髪海賊団がモビーと並走する事になったのは、初めてのルカのわがままで決まったのだった…。
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