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ルカが子供になってしまってから3日。
一向に元に戻る気配のない様子に心配をしながらも、その幼い姿に顔を綻ばせる者多数。
だが、相変わらず白ひげとサッチにしかなついておらず夜寝る時は白ひげと寝ている。
そして寝てるルカを白ひげの部屋から起こして連れてくるのはサッチの役目。
「ほら、ルカ。皆におはようは?」
『…お、おはようございます…』
サッチの足に隠れながら紡がれた挨拶にその場にいた全員の顔が綻ぶ。
「顔がだらしないねぇ…」
「天下の白ひげが呆れるよい」
少し離れた位置でそれを見ていたマルコとイゾウが呟く。
少しすると自分の分とルカの分の朝食を持ったサッチがイゾウとマルコの元へやってきた。
「おはよーさん。ってまた寝てんのか?エースは」
ため息をつきながら、皿に突っ伏して眠るエースをみやるサッチ。
テーブルに皿を置くと椅子を引いてルカを抱き上げ座らせる。
「ほれ、ルカ。マルコとイゾウにおはようは?」
ピシィッと固まったルカはまるで人形の様に顔をギギギっと上げるとマルコとイゾウをその視界に納める。
『お、おは…おはよう…ございます…』
「おはよう」
「おはようさん」
それにイゾウはにっこりと笑顔で答え、マルコは微笑みを浮かべて答える。
それに安心したのか、サッチの腕を掴んでいた手を離すとここで初めて2人にぎこちない笑みを返した。
それに目を真ん丸くして固まるイゾウとマルコ。
それには気付かずに手を合わせて食事を始めたルカ。
「うまいかぁ?ルカ?」
頬をパンパンにしてリスの様にもぐもぐと食べながらサッチを見て頷くルカ。
と、突如ルカの目の前で寝ていたエースが前触れもなくガバッと起き上がる。
『…っ!?』
「やべ…寝てた…」
それに驚いたルカは盛大に…
『ぶっーーーーー』
口の中の物を吹き出した。
『ひっぐ…えぐ…ひっく』
「ルカ、大丈夫だから?なっ!」
現在、口から大噴射してしまったルカをなだめているサッチ。
その2人の前で、タオルを握り締めてエースを殴り飛ばしたイゾウとマルコがぷるぷるとしながら苦笑いを向けていた。
『だ、だっで…。だっで…』
「びっくりしたんだよな?大丈夫だぞー。マルコ達も怒ってねぇから。なっ!」
その声に半べそをかきながら2人に視線を向けるルカ。
だが、イゾウは殴られ気を失ったエースの珍しく来ているシャツの胸ぐらを掴んでいるし。
マルコはタオル片手に握り締めて気を失ったエースを起こすために拳を振り上げていた。
「(………あー。バットタイミング…)」
『うっ…うあーーーんっ!!』
その声に漸くタイミング悪く己を見ていたルカに気付いた2人が慌てる。
「ルカ!俺は怒ってねぇよい!びっくりしたんだよなっ!大丈夫だから、泣き止めよい」
頭を撫でるマルコ。
ここでイゾウが何も発しない事に気付いたマルコがイゾウをちらっと見ると。
イゾウは泣くルカを見て、何やら悪い笑みを浮かべたのを見てしまった。
「ルカ…」
イゾウの声に泣きながらも気付いたルカが嗚咽を堪えながらイゾウを涙でぐしゃぐしゃの顔を向ける。
「ルカ、俺も怒ってはいないんだがねぇ。1つお願い、聞いてくれるかい?」
にこり笑いながら静かに紡がれた言葉に、ルカがしゃくりあげながら頷く。
それを見て満足げに頷くと
「サッチもこの後仕事があってねぇ?」
「…?俺仕事ねぇけ……ナンデモアリマセン」
サッチを一睨みして黙らせると、笑いかけながら次の言葉を紡いだ。
「ルカと一緒にいられないんだ。それで、俺はこの後暇なんでねぇ、ルカ俺と遊んでくれるかい?」
きれいな笑みを浮かべて言ったその言葉にルカが目をぱちぱちとさせる。
と、直前まで泣いていたのにイゾウの笑みに安堵したのか…
にっこりと笑いながらルカは頷いた。
「そうかい。じゃぁ、食べたら書庫で本を探して甲板でも行こうかねぇ」
『うん!ルカね、ごほんだいすきー!えーっと…』
「…?あぁ。イゾウ、イゾウにいに」
その言葉に溢れんばかりの笑顔を浮かべたルカは
『イゾウにいに!すぐたべるからねっ!まっててね!』
そう言って、残りのご飯を食べ始めた。
それを見たマルコは不服そうな顔を隠しもせずにイゾウへ向ける。
「お前だけ、抜け駆けかよい」
「抜け駆け?作戦勝ちと言ってくれないかねぇ」
にやり悪い笑みを浮かべる。
「あ、サッチ。お前は夜までルカの前に来るなよ」
ルカに聴こえないようにサッチの耳元へ口を寄せてそう伝えると、食べ終わったよ!と笑いながらイゾウに話しかけたルカと手を繋いで食堂を出ていってしまった。
「お、おれ。あいつがおっかねぇ…」
「…くそっ!おい、こら!エース!起きろよいっ!!」
今だ気絶していたエースに当たり散らすように拳をおとすマルコ。
「っ!?いって、マルコ!?」
「お前のせいだよいっ!!」
その後、甲板でイゾウの胡座の上に座り仲良く絵本を読んでいたルカのもとに現れたエースとハルタはうまいことルカに取り入り、遊ぶ事に成功。
その日の午後は4人で、鬼ごっこやかくれんぼ、影ふみをして遊んでいた。
それを少し離れた位置でむすっとして見ているのはマルコ。
その隣で苦笑いを浮かべるビスタとジョズ。
「マルコ。そうムスっとしていたら…余計に寄ってこないぞ」
「わかってらい」
「なら、その顔やめないか。大人げないぞ…」
それにため息をつくマルコ。
「にしても、マルコが実は子供好きとは驚いたな?」
ビスタが髭を撫でながら言った。
「別に…好きじゃねぇよい…」
「なら、そんな怒る事でもないだろ?」
ジョズの言葉にマルコがジョズを見る。
その顔は酷くふてくされた様子でビスタとジョズは内心苦笑いを浮かべる。
「子供は嫌いだが。家族なら、別だよい」
その返答にビスタとジョズは目を合わせるとふっと笑った。
と、そこでエースのマルコを呼ぶ声が甲板に響き渡った。
そちらに視線を向けると、エースがぶんぶんと手を振りながら叫んでいる。
「マルコもこっちこいよー!」
その声に少し不安げに揺れるマルコの瞳を見た2人は笑ってマルコの背を押した。
「お呼びだ。行ってこい」
まだ不安げなマルコが歩いてエース達の元へ行くと、その中心にいたのはやはりルカ。
イゾウの背に隠れながら、ちらちらと顔を覗かせる。
「ほら、マルコに言いたい事。あるんだろ?」
そう言って、イゾウの後ろからエースに引っ張り出されたルカ。
もじもじとしながら、マルコを見上げると意を決したように声をあげた。
『ま、マルコおにいちゃんも一緒にあそんでくれる?』
その言葉に目を見開くと、その場にいたイゾウ達に視線を向けた。
うんと頷くその顔は少し黒い笑みも紛れていたが、ルカに視線を向けると泣きそうな顔をしてマルコを見上げている。
ルカと同じ視線にする為に腰を屈めるとにこり笑った。
「もちろん。俺も混ざりたかったんだ。誘ってくれてありがとよい」
それから、陽がくれるまで甲板では5人の笑い声が響き。
それを見守る白ひげと船員がいた。
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