destiny-08
「よう、マルコ。何してんだ?」
「おう。こんないい日に部屋で仕事もな…気がまいっちまうからない。ちょっと休憩だよい」
「たまにはいいんじゃねぇか?そういえば、火拳の坊主はどうした?」
「火拳の野郎ならあそこだよい」
マルコの指差す方へ視線を向けると、船縁に背を預け踞るエース。
………………と、なにやら必死に話し掛けるルカがいた。
「あいつ何やってんだ?」
「さぁねぃ。さっきからずっとあの調子だよい」
『ねぇー、火拳くーん?シカトとか切ないからやめよーよー?』
「………………」
『ねーぇーーー!!火拳君あーそーぼー!!』
「………じゃねぇ。」
『ん?なに、なに?』
「火拳じゃねぇ。エースだ。てめぇ、どっか行けよ。しつけぇな」
『うーん。嫌っ!!てゆーかぁ、てめぇじゃないでしょ?アマクサ ルカ。』
「あぁ?」
『あたしの名前。忘れちゃった?もうボケてんの?』
「喧嘩売ってんのかよ?てめぇはよ…」
『だぁーからー!!ルカ!!はい、言ってごらんよ!!ルカ様っ!!っていたぁっ!!!!』
頭に激痛が走り、振り向くと。
「おい、余計なもんが追加されてるよい」
『マルコ…。痛い…。なんで、頭叩いたの…つか、書類で叩いたの?いまの…』
「痛くしてんだから、痛てーに決まってるだろい」
「で、ルカは何遊んでんだ?」
『もう、エースと遊ぼうと思って誘ってた!!』
「「……………………」」
「こいつ、どっか連れてけよ。しつこくてしょーがねぇ」
『だーからー!!ルカだってばっ!!よし、名前呼んだらどっか行く!!ほれほれー、呼びなよーー!!』
「おい、どこぞの変態親父みてぇだよい…」
『うるさーい!!ほら、エース!!』
「だーーー!!うっるせぇんだよっ!!構うな!!くそ女が!!」
怒鳴り声をあげると、エースは走り去ってしまった。
『んー、いじめすぎたか?』
そう言って腕を組みながら首を傾げていると、ルカの頭をぽんぽんと撫でる手。横を見ると、苦笑いを浮かべルカを見るサッチと無表情で去って行くエースを見るマルコ。
「まだ、自分の整理がつかねぇうちはしょうがねぇーよ。待ってやろうぜ」
『んー。わかってるんだけどさ…。エースの、笑った顔見たいな…。』
そう、ルカは紙面で何度も見た。
エースの太陽のような心がほかほかする笑顔が見たい。
そして、少しでも紙面より白ひげ加入が早くならないかと、エースを構い倒していた。
エースが白ひげに挑み怪我をすれば、医務室へ運び、海へ飛ばされれば飛んでいき海に落ちるすれすれで回収。
更には、3度の食事も全てルカが運びエースの面倒をみていた。
「笑顔?」
『うん。あたしが、本当に笑えたのはここの世界にきて。白ひげの皆があたしを認めてくれたから。エースにも早く気付いてほしい。この船にいる皆がエースの事待ってる事。早く弟を構いたくてしょうがない、ばかな兄貴達が沢山いることをさ…』
「そうだなぁー、早く気づくといいな…」
『それに、あいつが抱えてるもんも全部一緒に背負っていける親父さんとあたしらがいるってことも…ね…』
「あぁ…そうだない」
今度はルカの頭をマルコが撫でる。
どがぁーーーん
『あ、じゃあ。行ってくる』
「おう、いってこーい」
翼を出して飛び立つと、海に落ちかけたエースを拾い、甲板へ下ろす…と。
「てめぇ!!いい加減にしろよっ!!」
エースの一際大きな拒絶の声が甲板に響き渡った。
それをただエースの顔を見つめたまま聞くルカ。
「てめぇが、俺に恩を売ってんだか知らねぇが。毎回毎回お節介なんだよ!!俺は、てめぇの助けなんざいらねぇんだよ!!たかが能力で上り詰めたような何も知らねぇ女が、恩着せがましく構ってくんじゃねぇ!!」
シーンとした甲板で響き渡るエースの声。
ルカの中で、何かが弾けた。
『確かに能力のお陰であたしはここまで来れたかもしれない。でも、この力で家族を守れるのなら。あたしは化け物にだってなってみせる。この力がないと、あたしにこの船に乗る家族を守る為の術なんて何一つもってない。医学を持ち合わせてるわけじゃない。航海術に長けているわけでもない。料理が得意なわけでもない。マルコみたいに頭が早く回るわけでもない。それなら、この今ある力を駆使して何が悪いの?あたしにはこの力を使う以外愛する家族を守る方法を知らない。あんただって、あたしが今までどんな思いでこの世界に来て、この世界で生きてきたか知らないじゃない。それでもねぇ、あたしにとってこの船にあんたとあんたの仲間達が乗ってる。それだけで、あんたらもあたしにとって守る対象で、大切なの。例えあんたがそう思ってなくてもね…』
静かな声音で話終えたルカの声を遮るように見張り台から声があがった。
「敵襲ー!!敵襲ー!!3時の方角から、海軍船がきてます!!」
『あんたは。まだ白ひげじゃない。船内で仲間といな』
「よーっしゃ!!今日の先陣はどこの隊だぁ!!」
「今回はハルタ達かねい。ルカ、援護で空から頼むよい」
『りょーかい。マルコ隊長』
エースは船内へ向かう足を止め、マルコとルカのやり取りを聞いていた。
普段は隊長達を呼び捨てにし、供にさわぎふざけあっているルカ。
だが、今はマルコや隊長達をきちんと隊長と呼び、指示に従い、戦闘の準備をしている。
その横顔は初めて顔を会わせたあの島で、自分に武器を向けた時と同じ真剣な顔をして海軍船を見据えていた。
「あいつの事さ、勘違いしてやんなよ。多分この船の誰よりも失う事を恐れてる。それが、家族になるのを拒んでるお前だとしてもな。」
それを聞いていると、集まった12番隊の隊員と隊長のハルタが集まり、ルカが先陣を切るように翼を拡げ飛び立っていった。
「あぁっ!!ルカずるいよっ!!ルカは援護だろ!?」
6枚の漆黒の翼を羽ばたかせ飛び立つ姿はまさに終焉を思わせる悪魔のようで。
それでも、この船のやつらにとっては勝利を運ぶ天使なんだろう。なんて、がらにもない事を思ったりした。
思い、重い、想い。
交差する想い
(必ず、あなた達を死なせはしない。異端のあたしはその為にこの世界での存在を許されてるんだから)
(この世界って…言ったよな…どうゆう意味だよ…くそっ)
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