savior-32
thatch & marco side
「おい、おい!!お前!ライ!突っ走りすぎだってんだよ!!」
『あんた達が遅いんだろっ!!おっさんなんだから!あっちにいりゃーよかったんだ!!』
バッタバタとあいつー"紅"は海兵達や中将供を薙ぎ倒して、エースとエースの弟の元へと走るんだ。
その動きは早く目でも追えないスピードで。
こいつには只々驚かされる……。
突然、エースの弟と供にこの戦場に現れた。
そして、流星の様に一気に注目を集めた。
その強さ、闘う凛とした姿、謎ばかりの能力、更には…親父やエースの弟と同じ、覇王色の覇気。
そのこいつを作る全てでこの戦場で敵味方関係なく、エースの弟と同じ様に人を惹き付けた。
そして、何か目的があるらしい姿が…不思議でならなかった。
でも、警戒をしていても。
こいつの全てを許容してしまう不思議もあった。
俺も、惹き付けられた一人で間違いなかった。
中央をあいつが進み、左側から来る奴等をマルコが。反対を俺が…あいつを守りながら進んでいた。
まるで、これから起こる事を俺らも知っていたみてぇに。
とにかく、あいつを…ライをエースの元へと辿り着かせなきゃいけねぇと。
何故か…漠然とそう感じたんだ。
「邪魔だぜ!おめぇらっ!!サッチさんのお通りだぁっ!!」
双剣を奮い、かかってくる海兵を確実に一人、また一人と斬り倒していく。
元々、俺の剣技は対大勢の為に俺が独学で修得し作り出した戦い方だった。
敬愛する親父と大切な家族を守るため…必死でわけぇ頃から修得した。
そして、数ヵ月前。
守らなくてはと誓った愛する妹を失ってから、今のままじゃだめなんだと。
更に鍛練を積んだ。
もう、決して大事なものがこの手から溢れ落ちないようにと。
『おらおらぁ!!邪魔だぜ!どけぇーっ!』
何故か、こいつの太刀筋が俺やハルタ、ビスタ、そしてルカとよく似通っている事に気付いたのもこの時だった。
ルカの太刀筋が俺らと似てるのは当たり前だ。
なんたって、俺らがあいつに教えたんだ。
じゃぁ…こいつは?
また1つ、こいつへの謎が増えた瞬間だった。
「おい!ライ!!っで、いいよな!お前、突っ走りすぎだ!!追い付けねぇよ!」
「お前が遅いんだろい…」
横をマルコが飛んでいった。
何故。こいつはたかが船長の兄貴を助ける為にここに来たのか。
そして、何故。親父や俺たちを守るような行動をとるのか…。
あいつがいなければ、きっとあの時親父はスクアードに刺されていた。
そして、持病の悪化により更に危ない状況に陥っていただろう。
あの時もだ。オーズは今頃ここで志半ばで散っていただろうに、今は安全な場所で治療を受けている筈。
視線の先にはあいつ。
この戦場において、全く目的がわからないのが…あいつだ。
クロコダイルやあの赤っ鼻は親父の首を狙っていた。
革命軍の奴等は、ドラゴンの息子であるエースの弟の援護の為に。
そして、ジンベイも当たり前にエース救出の為。
それとも、エースの弟のクルーは皆あんなんなのか…?
だが、待てよい。
エースの弟が言ってたじゃねぇか。
「え?あぁ…ライは…もう俺のクルーじゃねぇよ…。帰る場所が見つかったからな…」
あれは、どういう意味だ?
帰る場所?
考えてる内にも、あいつはどんどんとなみいる海兵を越えていく。
そして、何よりあいつは常にこの先を知ってるみてぇに動いていた。
そう、ルカみてぇによい。
遠くを見つめて。
度々繰り出される技が、どこかルカの闘っていた面影と重なる。
その剣にサッチやハルタ、ビスタの面影が見え隠れする。
考えながら、海兵を確実に仕留めていくと視線の先に赤犬と対峙するエースが見えた。
「ちっ…何してんだよぃ。あいつは…!」
その瞬間、エースの炎と赤犬のマグマがぶつかった。
「マルコ!やべぇよ!!行け!!」
サッチの声に返事を返す間も惜しいと姿をかえて地を蹴ったのと赤犬がエースの弟の元へたどり着いたのとエースが間に入り込んだのは。
同時だった。
その瞬間、赤犬のマグマは消え失せ、赤犬の拳だけがエースもろとも弟を吹き飛ばした。
そして、俺の目の前にいた筈の燃えるようなあのバカと同じ紅い髪の男の姿が。
太陽に照らされて少しずつ変わっていくのを見た。
燃えるような紅い髪は、輝く銀髪に。
その細いながらも引き締まった男の体は、細くしなやかな女の体に…。
そして、響いた声は
『エース。あたし、あんだけ言ってたよね?カッとなるの治せってさ!!てゆーか、お前。何、人の弟ぶん殴ってくれてんのよ?覚悟出来てる?こちとら、身分偽ってたから暴れ足んないのよ…』
懐かしい…愛する妹のそれ。
後方を振り替えればサッチはこれでもかと口を開けて呆然としている。
目の前で、ライという男が。
失った、大切な妹に姿を変えた。
夢でも見てるのか?
それとも、なんかの能力者か?
渦巻く思いは俺もマルコも一緒なのか。
呆然とその姿を見つめる。
数ヵ月前、おれをかばった妹が。
目の前にいる。
友人でもなく、恋人なんて想い人なんておこがましくなる位に
誰よりも俺らの近くにいて、
どうしよもねぇー俺らを愛し、
そして俺らが愛した。
最愛の……いもうと。
動揺した俺とマルコの会話の直後。
『わかったから!ルフィ、黙ってて!!何故か海 軍だけならず、味方からも謎の殺気を浴びてんのよ!!』
この言葉で、確かにルカだと認識した。
ちょっと場を省みないずれた返答。
振り返ったあいつの苦笑いが、あいつだと確信させてくれた。
最愛の妹の帰還
(空いてしまった穴を埋めるのは君だけ)
(寂しさも喜びも怒りも楽しさも、君がいない。それだけで、何かが足りなかった)
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