rode-58




目を覚ますと、そこはサニー号の医務室だった。

心地いい揺れに、スリラーバークを離れた事に気付く。
手を開いたり閉じたりと体の調子を確認する。
驚異的なスピードで回復する自分の体はすでにほぼ回復している事を確認すると体を起こして床へと足を下ろす。
と、ガチャリと音をたて扉が開く。

「ライ!!目が覚めたのか!?」

走りよってくるチョッパーへ笑みを浮かべる。

『…お陰さまで、もうすっかり大丈夫だよ』

「ライは普通の人間よりも回復スピードが早くてな!俺、診察する度にびっくりしたよ!」

話すチョッパーに笑顔を絶やさず向ける。

『あぁ。そうだな。でも、チョッパーのお陰だ。ありがとう』

告げられた礼にチョッパーは小躍りしながら喜ぶ。

『どのくらい寝てた?』

「あぁっ!大体4日位寝てたんだ!皆心配してたぞ!寝てる間にスリラーバークを出て今は魚人島に向かってるんだぞ!外、出るか?」

『…………あぁ。行こうか』

「皆、今甲板で飯食べてるからな!行こうぜ!」

急かすチョッパーに手を引かれて医務室を後にする。

開いた扉から眩しいまでの太陽の光が目に射し込む。

「あっ!!ライ!起きたのか!?大丈夫か!?」

聞こえてきたのはルフィを筆頭とした麦わら一味全員の声。

目を細めて全員の顔を順に見る。

『心配させたみたいだな…けど、もう大丈夫だよ』

笑った姿に全員が安堵すると、食事を薦めだした。

『……いや。その前に話をしたい。……聞いてくれるかな?』

困った顔で笑いかけたが、全員が了承する。

そして、それを見てから1つ息を吸い、ゆっくりと深呼吸をする。
そして決意を決めて地面へと膝を付いた。

『ゾロ、ナミ、ウソップ…サンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック……そして、ルフィ……』

顔を見回して名前を呼ぶと、全員がどうしたのかと困惑した顔を見せる。

「ちょ、ライ?どうしたのよ、突然」

ナミが声をかけ、一歩踏み出そうとした時。
ライは深く、深く頭を下げた。

『…本当にすまない。俺は、皆に嘘をついていた。嫌、今の俺の存在自体が偽りの姿なんだ…!』

その言葉に全員が目を丸くして動揺を露にする。

「ちょ!?どういう事だよ!?話してくれねぇとわかんねぇって!」

ルフィがあわてて駆け寄り声をかける。

「あぁ、それに俺らだって。お前の何が嘘かもわかんねぇんだ。取り合えず、顔あげろよ。話はそれからだ。」

ゾロの言葉に、ライは顔をゆっくりと上げるがその顔は歪み、瞳は悲しげに揺れている。

『あぁ、そうだな…。まずは何から話そうか…』

長くなる事を悟った一味全員がライの回りに腰を下ろして、ライの言葉を聞き逃すまいと耳を傾ける。
そして、ライが語ったのは信じられない言葉の数々だった。

『全てを語るには、まず………本当の俺を知ってもらわないとな…。俺の本当の名前は………アマクサ ……ルカ。皆が知ってる白ひげの……堕天使なんだ…』

そう口にしたのと同時に風に靡く紅い髪は、太陽に照らされながら色を変えて輝く銀髪へと姿を変える。
銀色の瞳も少しずつ色を変え、真っ赤な瞳へと移り行く。

そして、華奢でありながら程よく鍛え上げられた筋肉質な体は女性の体へと変わり、高かった身長も低くなる。

「…は?え?ちょっと、どういう!?」

「そんな!嘘だろ?だって…」

「…堕天使は、死んだと世界的に報じられていた筈よね!?」

驚きの声と共に全員の驚愕が伝わる。

そして、最後に左腕に付けられていたサポーターを外すとそこには白ひげ海賊団のジョリーロジャーと漆黒の翼のタトゥー。

『これが……あたしの本当の姿。驚かせてごめんね…』

「な、なぁっ!!堕天使って、エースが言ってた…姉ちゃんだよな!?何で!エース来てたのに!あんな…お前の事辛そうに話してたのに!何で、死んでる事になってんだよ!?お前、生きてるじゃねぇか!?どういう事だよ!?」

「それもそうだな…堕天使は確かに死んで。白ひげ海賊団が水葬をした事やなんかも全部記事として新聞で報じられてたんだぜ?」

「……えぇ。それに、その姿が本当の姿ならさっきまでの私たちの知っていたライの姿は何だったの」


『うん。白ひげの堕天使。あたしは一度確かにこの世界から消えたよ。力を蓄えるために。その為にあたしは姿を変える術を手に入れた。あたしをこの世界に堕とした世界と世界の狭間に生きる番人に悪魔の実を操作してもらって。生きて必ず、あいつを討つ為に……』

ナミが口を開いた。

「……あいつって、あんたを殺して逃げてるって言う、ルフィのお兄さん…エースが追っている男の事?」

それにこくりと頷いて肯定をする。

「で、でもよ?一度は死んだ事にしてまで離れなきゃならねぇ相手って事はライ……あー、君より強いって事だろう?」

困惑しながらサンジが話し出す。

『あの時はまだ、完全に自分の力を扱いきれなかったから……家族を危険にさらしてしまう可能性があったんだ。それに、本当はあたしじゃない人間が殺されてしまう筈だった。あの時は、その運命を変える事を優先させたの…。』

「扱いきれなかったってのぁ、悪魔の実の事か?それに、悪魔の実を操作だなんて、出来るのかよ?」

告げたゾロにうなずく。

『…あたしが食べたのは…、ハネハネの実 モデル ルシフェル。伝説上でしか存在しない筈の実を番人があたしの為に創り出したの。だから、多少の操作なら出来るらしいけど。そこのところはあたしもよくわからないの。ごめんね。』

そう言って、ゾロを見つめると先を話しても?と聞くとゾロが頷いて先を促す。

『それで、ハネハネの実の能力の1つに悪魔の実の能力事態を抑え込む事が出来る力があるんだけど…。でも、そいつが食べたのも同じような力を持つ実で。食べたばかりでも、あいつはその実に関する知識をよく知っていたから…確実に勝てるっていう確信が…なかった。』

「それで、姿を変えて。旅をしていたわけですか?」

『…うん。』

「………今までの話を聞いて、いくつか聞きたいのだけど、いい?」

ロビンの言葉に頷く。

「私の知る限りの事だけれど、あなた確か異界の旅人よね?そして、異界の旅人は何らかの形で未来を知り得ていると記憶してるわ。あなたも…知ってるの?」

『うん。知ってるよ。正確に言えば、この世界で生きる一部の人達の過去と未来かな。でも、あたしの知り得てる事は部分的にすぎないのも確か。その中でルフィが海賊として島を出た辺りからの大部分の事は把握してるつもり。ゾロの事も、サンジやウソップの事、ナミの事チョッパーやロビン、フランキー、ブルックの事。そして、ルフィ。貴方の事も。皆の生きてきた過去の一部をあたしは知ってた。でも、そのあたしの知っている過去や未来の中であたしはどうしても変えたいと願った運命がある。』

「その運命って何なんだよ」

ウソップが険しい顔をしてルカを見る。

『……………それは、あたしの問題だよ。皆にとっても悪い運命じゃない筈。』

「今になって、そんな話して。全部が嘘でした。こういうわけがあるんです。でも、その根っこの部分は話せませんってぇ、それで納得すると思ってんのか?」

ゾロの鋭い視線と殺気を帯びた声が静かな甲板に響く。

『そうは思わないよ。変えようと思えば…変えられた運命もあった。でも、あたしは………。それをしなかった。軽蔑されても、罵られてもそれは仕方のないこと。この話をして同情をしてほしいわけじゃない。あたしの知る事でこれからも必ず変えられる未来があるのも承知してる。それを見てみぬふりすることで悲しむ人や苦しむ人がいる事も。全部知ってる。それでも、あたしはその全てを背負ってでも。それがどんなに人の道を外れてるとしても…!!どれだけの人に蔑まれようと…あたしは成し遂げたい。変えた運命の先で幸せそうに笑う合う人がいるって思えるから。それに、話せないんじゃない。話さないの。あなた達を巻き込んでる今。話すのが筋かもしれないけど。知らなくてもいい未来を知る必要はないでしょう?だって、あたしが必ず変えてしまうんだもん。この命に変えてもね。』

「命って……」

チョッパーが悲しげに呟く。
と、ルフィがここでとうとう口を開いた。

「………お前の事情はなんとなくわかった。お前が帰る場所がある事もわかった!でも、まだそこに帰れないなら。俺らと行こうぜ!!俺らと強くなってそいつぶっ飛ばしてよ!胸張って帰りゃあいいじゃねぇか!!俺はこれから先の事なんてわかんねぇしよ。お前がこれから何をするのかなんて検討もつかねぇ。でも、それでお前が幸せならいいんじゃねぇ?」

ルフィが笑いながら告げる。

『ルフィ………………。ぷっ…アハハハハハ!ルフィは…やっぱりルフィだね』

「…ん?何だよ?当たり前じゃねぇか。何いってんだ?」

「…たく。あんなシリアスな感じだったのにな…」

「たまーに、あいつ。確信というか、なんとゆうか…」

「えぇ、そうね」

「いいんじゃねぇか?キャプテンがあぁ言ってんだしよ…」

「それも、そうか…」

「んだよ?お前ら、なんとなくだけどけなされてるっぽいのはわかったぞ?失敬だぞ!お前ら」

そんなやり取りをする彼らを見て、にこりと笑いながら、ルカは地を蹴り舞い上がるとバサリ大きな音を羽ばたかせて漆黒の6枚の翼を拡げサニー号の上空を旋回すると船首へとおりる。

翼は隠されておらず、初めて見るルカの翼に全員が目を奪われる。

『これが、あたしの本当の姿。これから先、皆の進む道で起こる事。確かにあたしは全てでなくても知ってる事もある。それを変えないあたしを軽蔑するかもしれない…。でも、これだけは知っててほしい。あたしが愛する家族と同じくらいにあたしは皆の事も大切なの!!先にこんな事言うなんて、卑怯だけどさ。皆なら、必ず乗り越えていけると思ってるから。こんなずるいあたしだけど…もう少し皆と進む事を許してほしい。』

そう言ったルカに全員が笑みを溢すと船首へと集まる。

「当たり前じゃねぇか!!行こうぜ!!俺らと!!楽しく、おもしろく!!それが海賊だ!!」

ルフィが笑いながら言う。

「たく…しょうがねぇか…。それに…まだまだ、俺の相手…してもらわねぇといけねぇからな」

ニヤリと笑いながら言うゾロ。

「女が増えるなら、今よりもっと楽しくなるわ!!」

ナミがウインクしながら告げる。

「まだまだ話してねぇ俺の武勇伝もあるんだぜ!聞かせてやるからな!」

ふふんと鼻を鳴らしてウソップが笑う。

「ライが………ライがまさか!!実はこんなに美しいレディーだったなんてぇ!!俺が守ってあげるからねぇーー!!ルカちゅわぁーーん!!」

ハリケーンを撒き散らすサンジ。

「俺、もっと沢山ルカと話したいぞ!!」

意気込んで告げるチョッパー。

「私も、ルカとお話したいわね?あなたの見てきた事、知ってること聞かせてくれる?」

微笑むロビン。

「あーう!まだまだ!!俺のスーパーな腕前、見せてやらねぇとなっ!!」

ポーズを決めるフランキー。

「ヨホホホホホ…出会ったばかりですが、私もルカさんと沢山お話したいですねぇー!あ、その前に皆さん。一曲いかがですか?」

楽器を奏で出したブルックに全員が賛同して騒ぎ出す。
奏でる歌は海を越えて、響く。
ルカは大切な、大切なものが増えていく喜びに包まれる。
そして、願うのだ。
笑う彼等が、悲しまぬ未来を守り抜事が出来るようにと。



真実を告げた堕天使は更なる高みへと昇る

(あ、皆の前ではこの格好でいるつもりだけど。一味以外の人間がいる時はライの姿に戻るから、名前!気を付けてよね!)
(おう!わかった!!)
(返事はいいけど、ルフィ、あんたは心配だわ…)
(なんだと!?失敬だぞ!お前!!)
(………ほんと、エースとそっくりだよね…)
(ルカちゅわぁーーん!!これを…)
(あ、ありがとう)
(おい、それ食ったら鍛練付き合え)
(おい!くそ剣士!!ルカちゃんに何さす気だ!?)
(お前変わり身早すぎだろ…)

prev next


main


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -