atモビーディックハウス
「…はぁ」
「おいマルコォ!てめぇそのため息一体何回目だよ!」
「46」
「数えてたのかよ!」
おれはこの3日間こんな調子の親友の肩を叩いた。
「心配しなくても明日には名前もエースも帰ってくんだからよ!」
「あぁ…」
こりゃ、名前とマルコにイザコザが起こった時並の落ち込みようだな…。
うげー。
「もう3日も会ってねェよい」
「だから明日会えんだろ」
「メールも送れねェよい…」
「魚人島は電波が特殊だもんよ、つか、何度も行ってんのに今更何言ってんだ」
「はぁ…」
こいつ、キャラ崩壊してねぇか…。
おれには無理だ!名前!!早く帰って来てくれェ!
at空島
「チッ!おれも魚人島にすりゃ良かったぜ、ちゃんと名前の行き先調べておくんだったな…」
愚痴りながら森の中を歩くのは赤い髪を天に跳ねさせたユースタス・キャプテン・キッド。
「おれが思ったことを口にするな、ユースタス屋」
その後ろを長刀を肩に乗せ歩くのはトラファルガー・ローだ。
「あぁ!?なんでおれについてくんだよトラファルガー!」
「お前がこれ以上迷わねェようについてやってるだけだ」
「てめェも迷ってんだろ!」
はやいもので修学旅行も最終日となった。
わたし達は観光兼お土産選びのために魚人島のいろいろなお店を回っていた。
「お土産に魚人島のお菓子はいかがー!」
大きなお菓子工場があり、そのお店の従業員らしき人がわたしたちを呼んだ。
そういえば、魚人島のお菓子って美味しいって有名だったなぁ。テレビなんかでも特集されていることがあるし、なかなか行けないっていうのもあって通信販売なんかもされている。
その本場に来たからにはお店にも行ってみようと、わたしたちはそのお店に入った。
お店にはカラフルなお菓子がたくさん並んでいて、見ているだけでワクワクと胸が弾んだ。
「これ食べてみな!」
店員さんに勧められるがまま試食させてもらい、そのお菓子を口に入れた瞬間頬を抑えた。
「お、おいしー!」
口の中にふんわりと甘さが広がって、身も心も蕩けそうだ…!これは癖になるのがわかる気がする。
これをお土産にすることを決めて、何箱か購入した。みんなそれぞれ買って、お店の人が少しサービスしてくれた。
お菓子屋さんを出て隣のお店に入ると、またも男子一行と遭遇した。
「名前ー!これ見てみろ!」
その中からエースに呼ばれ、そちらへ向かえば、これ開けてみろ!と小さな箱をわたされた。
「なにこれ?」
「いいから開けてみろって!」
ニィと笑うエースを不思議に思いつつも、掌に収まるその小さな箱を開けてみると、そこにはもじゃもじゃのおじさんならぬネプチューン王の人形。そして……
ジャーモン♪ジャーモン♪ネープ、チュ〜ン♪
腰をくねくねさせながら陽気に歌うその姿にわたしは思わず噴き出した。
「ぷははっ!なにこれー!」
「いいだろこれ!マルコに買ってこうと思ってよォ!」
「あははっ!似合わなすぎるっ!」
マルコ先輩がこれを開けて呆然とする姿が目に浮かぶよ…!!ふふっ!
「ああぁーーー!!!」
「わっ!なにっ!」
突然大声なんてあげるもんだからびっくりしちゃったじゃん。
「サッチに頼まれてたやつ買うの忘れてたァー!」
「あっ、わたしもサッチ先輩に買ってない…!!」
「名前!行こう!」
手首を掴まれ、足早に店を出て行くエース。さっきのマルコ先輩へのオルゴールはもう既に支払いが終わっていたようで安心したけど、早足過ぎて足がもつれそうだ。それに、みんなとはぐれたら危ないんじゃ…。
「変なこと心配しなくても、おれがいるから大丈夫だって」
「そっ、そうかもしれないけど…」
エースは何度も魚人島に来てるみたいだし、土地勘はわたしなんかよりもあるんだろうけど、勝手に離れたらみんな心配するんじゃ…。あっ、ノジコにメールしておこう。
器用に片手でメールを打ちながら到着したのはすごく綺麗な外観の建物で、おそらく美容用品を扱ってるお店だ。
って、まさかサッチ先輩、そんな趣味が…?
「さっ、サッチ先輩に、何を頼まれたの…?」
「ワックス!魚人島のは水に強いから良いんだってさ!」
な、なんだ…ワックスか。あのリーゼントのセットのためかな。危うくサッチ先輩の趣味を疑うところだった。
エースはわたしの腕を掴んだまま自動扉を通り店内へ入って行く。店の中はとってもシンプルな空間で、普段美容用品を買うお店となんら変わりない。
「ワックスってどこだ?」
「ご案内します」
美人な人魚の店員さんについて店内を進む。こちらになります。と店員さんが止まったところがワックス売り場のようなんだけど…、あまりの種類の多さに、わたしもエースも目と口を開いて固まってしまった。
「どれがいいんだ?」
「たくさんありすぎてわかんない」
ワックスってひとことに言っても、たくさん種類があるんだなぁ…。
棚にズラァーッと並んでいるワックスの一つを手にとって蓋を開けてみた。
「あ、これ良い匂いがするよ」
「ほんとだ!甘ェ!」
ラベンダー?よくわからないけどとにかくお花の香りがする。もし、サッチ先輩の髪からこんな香りがしたら……。
「ぷぷっ!」
マルコ先輩とあのオルゴール並に面白い…!!
「こちら新商品となっておりまして、他にもローズ、パイナップル、フランスパンなどございます」
店員さんが丁寧に説明してくれた。
だけどちょっと待って、最後の何!
「フランスパンなんてサッチにピッタリじゃねェか!しかもパイナップルはマルコだ…!」
エースは嬉しそうに香りを確かめているんだけど、こんなにふざけていいのか…?
「サッチにこれ買ってってやろう!名前は?」
「どうしよう…」
「だったら名前もこれでいいじゃん!同じの渡してやろうぜ」
ニシシッと笑って言うエースには悪意しか感じられないけど、他にあてもないしなぁ…。
「そうしようかな」
「よしっ!このパイナップルも買ってこう!マルコにやる」
シシシッと笑うエース
きっと他の人達もお土産もこんな感じで選んだんだろうなぁ。ほんと、怒られても知らないんだから。
「まだ何か買うものある?」
「んー…あ!イゾウに口紅頼まれてた!」
さっきのワックスと違ってがっつり化粧品だけど、渡す相手がイゾウ先輩と聞いて納得。あの美しい口紅も魚人島のものだったんだ!
今度はズラーッと口紅が並んでいるところまで店員さんが案内してくれた。
「おれこういうのわかんねェ…」
何度も瞬きしながら一つずつの色を見ていくエースだけど、きっと、全部同じ色に見えているに違いない。
「うーん、たぶんイゾウ先輩が使ってるのは普通の赤だと思うんだけど…」
赤と言っても、ここに並んでいるものには普通のからラメ入りまである。イゾウ先輩は無難なものだと思うから…これかな。
赤の口紅を一つ取り出してエースに見せてみた。
「こんな感じじゃないかな?」
「ふんふん、じゃーこれにすっか」
「えっ、いいの?」
あまりの即決に驚いたけど、これ以上考えてもわからないからいいんだって。エースはわたしから受け取った口紅を黒色のカゴに入れ、鼻歌混じりにレジへと向かう。
エースってなんだか主婦っぽいところあるよね…、ほら、カゴの持ち方とかスーパーでよく見る主婦だし、夏休みに海に行った日もママチャリだったし…。
そんなことをぼんやりと考えていると、急にエースが立ち止まり、わたしの方を見た。
「名前は何も買わねェの?」
「え?あぁ、うん」
「ここの化粧品全部、水に強いし良いんじゃね?おれ買ってやるよ」
「え!いいよいいよ!」
「気にすんなって!ほら!これとかいいじゃん!」
エースが持って来たのはピンクのグロス。
ずいっと目の前に突き出された。
「試供していただいて構いませんよ」
店員さんの笑顔に引くにひけなくなり、渡された試供品を付けてみた。
「……どう?」
「すっげェいいよ!似合ってる!」
「あ、ありがとう…」
素直に褒めてくれるエースに、なんだか恥ずかしくなった。
「やっぱこれ買おう!」
エースは、わたしの手からグロスを奪うと、今度は歌い出しそうなくらい楽しそうにレジへ向かっていった。
あまりの早さに呆然としていると、いい彼氏さんですね。なんて、店員さんが微笑んでくれた。
彼氏じゃないんだけど……。
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