無事魚人島へ到着したわたし達は一度ホテルに荷物を置き、早速、自由行動となった。
「名前ちーん!」
「ケイミー!久しぶりー!」
「この子が案内してくれるっていうケイミーちゃん?」
「そうだよ!よろしくねー!」
久しぶりの再会を喜び、ケイミーをみんなに紹介した。ケイミーは人見知りしない性格だし、みんなも人魚かわいー、なんてすぐに打ち解けていて少し安心した。
「みんなはどこか行きたいところあるのー?」
「「クリミナル本店!」」
「任せてー!」
ケイミーの案内でクリミナル本店を目指すこととなったわたし達2A女子一行。
初めての魚人島にわたしはキョロキョロと辺りを見回していた。
なんだか不思議な感じだなぁ…。
シャボンディ諸島のシャボン文化がこの魚人島にもあるらしいんだけど、それが至る所に活用されていて、水の中の景色がよく見える。
「きれーい」
「ほんと不思議ね」
「シャボンってすごいなぁ」
「どうしてこんなに高いのかしら」
「え?」
わたしの言葉に共感してくれてるのかと思っていたわたしはおもわずノジコを見た。
「クリミナルの服よ。かわいいんだけど値段がねー」
「あっ、あぁ、うん、そうだね…」
そっちかい!!
パンフレットを見ながら顎に手をあて真剣に悩む姿に、美しいと思いながらも呆れが出てしまった。
「着いたよー!」
ケイミーの声にハッとして見ると、わたしたちの前に大きな建物があった。その看板には大きくCri★minと書いてあって、ここがクリミナル本店なんだとわかった。
「さすが本店!規模が違うわ!」
「ここの二階から上はあたしの師匠でペットのヒトデ、パッパグの家になってるんだよー」
ムッシュ・パッパグってクリミナルのデザイナーだよね!?その方ってヒトデだったの!?それにケイミーの師匠でペット?
わ、訳がわからない…!!
「入ろ入ろ!」
「新作あるかなぁー!」
みんな、そんなこと承知の上なのか、ケイミーの言葉を気にも留めず店の中に入って行く。
「あんた達も来てたの!?」
「なんだ!お前らもか!」
みんなについて中へ入ると、そんな会話が聞こえた。なんと2A男子一行もここへ来ていたみたい。
「丁度良かった!ついでに文化祭の写真撮らせてくれ!」
委員長が首から提げたカメラを触って言ったのに、みんな当然のように頷いた。文化祭の展示の写真、空島組のは副委員長が撮って来てくれることになったらしく、魚人島組は委員長が。なんていうか、うちの委員長って写真係になってるよなぁ…。
「これ新作!?」
「かわいいー!」
「どう?」
「すっごくいい!」
みんなが服を見ているところを委員長はバシャバシャ撮っている。いや、なんか、変態かよ…。
「……あれ?」
そういえばエースの姿か全く見えない。いたらすぐに分かるのになぁ。
とりあえず店内を見回すとそれらしい姿が見えた。
よく見ると、隅にある鏡の前でいつになく真剣な表情で服を見ているようだった。
近づいて名前を呼ぶと、エースはこちらを見て、ちょうどいいところに!と顔を明るくさせた。
「なぁ!これとこれどっちがいいと思う!?」
ズイッと前に出されたのはオレンジのシャツとブルーのシャツ、どちらもシンプルだけど、なにやら筆記体で文字が書かれている。
「んー…」
やっぱりエースに似合うのは…
「オレンジ…かな…」
「だよなー…おれもオレンジのが好きなんだけど、ナミュールは青の方がいいかなーって」
「あ、ナミュール先輩に買ってくの?」
「おぅ!頼まれたんだ」
ナミュール先輩とはこれまた白ひげグループの3年生で、魚人の隊長さん。えーっと…、8…番隊…だった気がする…。人数多すぎてちゃんと覚えられてないから合ってるかはわかんないけど…。
そのナミュール先輩もクリミナルの服を着ていたんだ。なんて驚いてしまった。
「あいつ結構服に気つかってんだよ」
「そうなんだ。ナミュール先輩なら青の方がいいんじゃないかな」
「だよな!じゃあそうする!」
決まったのが嬉しいのかニッと笑顔を向けてくれたエースは、すぐにそれを持ってレジへ向かおうとする。
その腕を咄嗟に掴んでさっきのオレンジのシャツを指した。
「あのシャツ、オレンジはエースのにすればいいんじゃない?」
「そうか?」
「うん!きっと似合うよ」
わたしの提案に、一瞬だけ、んー。と迷う素振りを見せたエースだけど、最後には笑みを向けてくれて、じゃあこれも買う!とそのシャツを手に取った。わたしが笑うと、今度はエースが、あ!と別の場所を指した。
「名前にはあれが似合うぜ!」
「え?わっ」
腕を掴まれ、エースに引っ張られて向かうと、そこにはチュニックが一着掛けられていた。
そのチュニック、ベースは白で胸元に茶色のボタンが三つほどついている、シンプルでかなり自分好みのものだった。
「かわいい…」
「これ!絶対名前に似あうぜ!」
「ほんとかなぁ」
「ほんとだって!」
なんでそんなに自信満々に言うの!恥ずかしいじゃん…!
「あっ、じゃあおれが買ってやるよ!」
「ええっ!?いいよ!自分で買うよ!」
「いいっていいって、今日起こしてくれたお礼だって」
「でっ、でも…」
クリミナルの服ってすっごく高いんだよ!高校生が3着も買えるなんて到底思えないよ!!
わたしの手からさっきのチュニックを奪ってレジへ向かうエースを、わたしは必死に止めるも全く聞き入れてもらえない。
その時、ふと、レジ周りが騒がしいことに気付いた。
「だぁかぁらぁ!高いって言ってんのよ!そりゃ服はかわいいけど、まけなさいよ!」
「ノッ…ノジコ……!!」
威圧感たっぷりのノジコに胸ぐらを掴まれブンブン振られていたのは、小さな…いや、ヒトデにすれば大きなヒトデ。
たぶんパッパグさんだ
「うぅっ…なっ、なんだ、前にもこんなことあったぞ…」
「ちょっとノジコ!やめなよー!」
わたしが慌てて止めに入ると、ノジコはパッパグさんを睨みつけながらも手を離した。
「だってこれ3万ベリーよ!?高すぎ!ナミは全部タダでもらったって言ってたのに!せめてまけるくらいしなさいよ!!」
クリミナルの服をタダで!?
そっ、そんなことあるの!?
いや、ナミちゃんのことだしきっと今のノジコのように脅したのかも…!!
「そういや、ルフィもそんなこと言ってたなぁ」
隣にいたエースがボソッと呟いた。
いや、エースまで何言ってんのよー!
「ルフィちん知ってるのー!?」
ケイミーも乗り出して来るし完全にゴタゴタし始めた。
「おぅ!おれの弟だ!」
「ルフィちんのお兄さんー!?それにノジコちん、ナミちんって…」
「妹よ」
「妹ォー!?」
ケイミー驚きすぎで顎外れてない!?それに、ここまで似てる姉妹もそうそういないよ。
「何ィー!?おめーらムギの兄貴とナミの姉貴か!?」
「おぅ」「そうよ」
パッパグさんもない顎を外す勢いで驚いているみたい。
そのあと暫く頭を抱えると決意したように顔を上げた。
「あいつらには大恩がある!その兄弟であるお前らも一緒だ!ここの服全部タダだ!好きなだけ持ってけー!」
「「ほんと(か)!?」」
大きな荷物を抱えて、みんなで頭を下げる。
「「「ありがとうございました!」」」
「ムッシュ!お店空です!」
「おめーら容赦ねェなァ!!」
さっきまでの勢いはどこへやら、パッパグさんはケイミーにしがみついて泣きはじめてしまった。
ごめんねパッパグさん…。
「元気だしてパッパグ、ハマグリ持ってきたから」
「わーい!ケイミーのおいしいハマグリ!」
単純だなぁ…。
そんな様子もカメラにおさめている委員長、カメラの持ち方とかいろいろ様になってきてるなぁ。
そんなことをぼんやり思いながら、エースにこれからどうするのか聞いてみた。
「おれらは今から竜宮城に行くんだ」
……。
「「「えっ!えぇぇーー!?」」」
女子一同、あまりの驚きにみんなで叫んでしまった。それに、あたし達も一度しか入ったことないのにー!と、ケイミーとパッパグさんもびっくりしてる。
「あそこって王族しか入れないんじゃ…」
「オヤジにさ、もじゃもじゃのおっさん宛に手紙頼まれてよ、渡しに行くっつったら、こいつらもついて来るって言うから」
「も…、もじゃもじゃのおっさん…?」
もじゃもじゃのおじさんが竜宮城にいるの…?一体何者なんだろう…。
そのもじゃもじゃのおっさんがだれかわかったらしいケイミーとパッパグさんは、えええぇぇーーー!!?とさらに叫んだ。
「それってネプチューン王だよね!!?」
「おめーのオヤジ友達なのかー!!?」
「おぅ!おれも会ったことあるぜ」
しれっと言うエースだけど、ネプチューン王…、この間、ロビンに教わった。
この魚人島を治める王様で海神って呼ばれていたんだって。とにかくすっごい人!
「あ、なんなら名前たちも来るか?」
「え、いいの?」
すぐにみんなの顔を見れば、行きたい!とひしひしと伝わってくる。
でも、ノジコだけが、ちょっと待って。と声を上げた。
「そりゃあ行きたいけど、この大荷物どうする?」
両腕いっぱいに抱えられた荷物を軽く持ち直したノジコに、確かに…。とみんなの気分は落胆。
ここにいる全員が持ってる紙袋、ノジコのだけ大きさが異常だけど、その中身はもちろんクリミナルの商品たち。
こんな大荷物、きっと邪魔になるよね…。
「それならパッパグのお店からホテルに送ってもらえばいいよ!」
ケイミーの提案が神様の言葉に聞こえたのはわたしだけじゃないはず。
すぐに全員分お願いして、竜宮城へ向かった。
みんなでおさかなバスに乗って訪れた竜宮城。外観があまりにも綺麗で、忘れずに写真は撮っておいた。
あとでマルコ先輩に送ってあげようっと…って、あ、マルコ先輩は何度も来てるのか…。じゃあお母さんでいいや。
もうすぐ中に入れるということでみんなそわそわしているのにエースは慣れた手付きで入り口のボタンを押した。
「おれ白ひげんとこのエースだけど、親父からもじゃもじゃのおっさんに手紙預かってきた!開けてくれ!」
「ネプチューン王のこと、もじゃもじゃのおっさんなんて言っちゃダメだよ!」
「さすがムギの兄貴だな…!」
ケイミーとパッパグさんが小声で言ってるけど、たぶんエースには聞こえていない。
入口が開いたのでお魚バスから降りて徒歩で進む。エースが先頭で、わたしたちはその陰に隠れようとしながら進むけど、もちろん全然隠れられてない。
開けた場所に出たかと思うと、そこにはたくさんの人魚や魚人の兵士さんがいて、その中心に、そりゃあもう大きな大きなもじゃもじゃのおじさんの人魚さんがいらしゃった。
「よく来たんじゃもん!」
「おっさん、久しぶりだなーっ!」
「「ネプチューン王にタメ口ィ〜!」」
ケイミーとパッパグさんは気絶しそうな程驚き、ガチリと固まった。
「これオヤジから、また顔出すってさ」
「そうか、白ひげグループならいつでももてなすんじゃもん」
いつも通りって感じに話すエースが、まるで遠い世界の人のように見えた。
「エースくんすごいね…」
「や、なんか、初めてエースの凄さに気づいた…」
「ネプチューン王とタメ口…」
わたしたちは、少し離れたところで一箇所に集まり、エースとネプチューン王の会話を呆然と眺めていた。
「せっかく来てくれたんじゃもん!宴会じゃ!右大臣、宴会の準備をするんじゃもん」
「かしこまりました」
「いいのか!?肉あるか!?」
「海獣の肉ならあるんじゃもん!」
急に宴会をすることになったようで、お城の方たちが慌ただしく準備を始めた。
「え!え!え?おっ、おれたちも参加していいの!?」
「い、いいんじゃないの…?」
みんな狼狽えだしているのにエースは、おーい!コッチ来いよー!と呑気に手なんか振ってわたしたちを呼んだ。
そしてエースの横にはシャボンに覆われた大きなヒラメのようなお魚さんが二匹。
何がなんだかわからず、緊張でわたしたち全員の歩調が同じになった。群れの大移動のように一つの固まりになってエースの所へ向かう。
「半分はあっちな」
エースは隣でふよふよしているお魚さんの片方を指してそう言った。
「乗れってこと!?」
「おぉ!さすがに一匹じゃ乗り切らねぇだろ」
わたしたちは今までの塊を解放し、適当に二匹のお魚さんに散らばった。しかし、わたしはエースに腕を掴まれてるから、一緒に乗れってことなんだろう。
次々と運ばれてくる料理に、うわぁ!と感嘆の声が出る。なにこれ、本当に食べていいの…!?初めて見たようなお料理がたくさんあって、見た目もおいしそうなものばかり。
そしてなにより…!
ここの人魚さん達の美しさ…!!
ケイミーが言ってたけど、マーメイドカフェの子達も駆けつけてくれたらしくて、何人もの人魚さんたちが水の中を踊っている。
「みんな可愛いねェ」
「うわ!マジやっべ!」
男子達を見れば、情けなくも目をハートにさせて人魚さん達をガン見。そして明日暇?とか誘ってるやつもいるし…。人魚さんたちは手慣れたようにそれを躱していくんだけど。
そして、隣にいるエースは人魚さんたちには見向きもせず、次々と食べ物をかきこんでいく…、
…と思っていたら。
ガン!
「ぐぅーー」
「やっぱ寝るんだ…」
相変わらずの器用な癖に苦笑していると、突然、「「うおぉぉーー!」」という男子達の声が響いた。
一体何ごとかと、その声の方へ視線を向けると、その声の主である男子たちは石化していた。
彼らの視線の先には大きな人魚さんがいて、確かにその姿は石化してしまうほど美しく、だけど、ネプチューン王のそばにくっついて縮こまっていた。
「わしの娘のしらほしじゃもん」
「み、皆様っ!……よろしく、お願いします」
恥ずかしがりやさんなのかな。大きな体とは正反対のか細い声でしらほし姫さんは挨拶をした。
とっても可愛い…。
わたしは彼女の近くに行き、ニッコリ微笑んだ。
「わたし名前です、よろしくね」
「名前様…、よろしくお願いしますっ」
嬉しそうに綺麗な笑みを浮かべてくれたしらほし姫を見て、わたしも石化しそうになる。
男子…、気持ちわかるよ…!
よれっと倒れそうになった所を後ろから支えられる。
見ればそれはエースで、おい名前ッ!と声を掛けられたが、今のわたしはそれどころではない。
「もうわたしダメだ…、なんであんなに可愛いの…!?」
「はぁ?何言ってんだ、お前もかわいいだろうが」
驚いてエースを見つめ返せば結構な真顔で、慌てて視線を逸らした。
そっ、そんな風に言われたら照れ臭いじゃん…!!
「ふふっ、わたくしも名前様はかわいいと思います」
またしらほし姫はニコッと微笑んでくれた。
「しらほし姫にそんなこと言われたら、わたし…」
「おい名前!死ぬなぁー!!」
宴会は終わりホテルまでの帰り道、わたし達はまたまたお魚さんバスに揺られていた。
みんな食べ過ぎはしゃぎすぎで疲れたのか多くはバスの中で眠ってしまっている。
わたしも眠いけど、そろそろお母さんに報告でもしようかとケータイを開きメールを打った。竜宮城の写真を添付してと。
《楽しんでるよー》
送信っと。
「あ、あれ?送れない…」
「んぁ?」
その時、隣に座っていたエースが画面を覗いてきた。
「あー、ここの電波な?なんか特殊で魚人島内では通じるけど魚人島外とは受信も送信もできねェんだ」
「え、そうなの?」
「おぅ、だからおれにはできるぜ、やってみ?」
そう言われ、隣にいるエースにメールを送信してみた。
ブーブー
エースは受信した画面を、ほら、と見せてくる。
「ほんとだ」
なるほど…、だから今日は一日何のメールも受信してなかったんだ。
いつも来るインフォメールとかマルコ先輩からとか全く来ていない。
3日間は魚人島にい人以外と連絡取れないんだぁ…。
「って!バーカってなんだよ!」
「へへっ」
「へへっじゃねェー」
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