「ふあ〜ぁ」


さすがに修学旅行明けの学校はきついなぁ…。


「欠伸ばっかりしてないでさっさと学校いきなさい!」
「はーい、いってきま〜す」


覇気のないいってきますね。なんて後ろから聞こえたけれど気にしない。だって本当に疲れてるんだもん。
家を出てバス亭まで向かう道でもわたしの欠伸は止まらなかった。


「おはよう」
「あぁ、おはようございま…、えっ!?マルコ先輩!?」


なんと道の端の塀に凭れて立っていたのはマルコ先輩。
どうしてこんなところにいるんだろう?モビーから学校までの道とは全然違う方向なのに…。


「どうしてこんなところに?」
「あぁ…、いや、まぁ、偶然だよい」


少し目を逸らしてそう言うものだから、何かあるのかと先輩の顔を覗こうとするけど、片手で阻止されて、行くぞ。と手を引かれた。


「修学旅行はどうだったよい?」
「楽しかったですよ、すっごーく!」
「そりゃ良かったよい」


バスに乗り込むと、今日は人が少ない日なのか席がひとつ空いていた。疲れてるだろい。って先輩は当然のようにわたしを座らせてくれたのだけど、わたしの横に立ったかと思うとじろーっとわたしを見下ろしてくる。なんですか?と言えば、いや。と嬉しそうに笑顔を向けられた。


「すげぇ久しぶりな気がするからよい」
「修学旅行の前日から会ってないですもんね」
「だろい」


また嬉しそうに笑ったマルコ先輩を見ていると、ふいにあのフルーツが頭に浮かび、マルコ先輩へのお土産があったことを思い出した。


「ふふっ、お土産あるんですよ」
「嬉しいねぇ、だがその笑顔はなんなんだよい」


変なもんだったら怒るぞい。ブニッとわたしの頬をつまむものだからわたしは笑いながらもやめてーと抵抗、すぐに離してくれてマルコ先輩も可笑しそうに笑った。


「エースと一緒に選んだんですよー、だから怒るんならエースを怒ってくださいね!」
「エースと……」
「マルコ先輩…?」


途端に黙った先輩を下から覗き込むが何も反応が返ってこない。かと思えば手首を掴まれ、グイッと引かれた。
そのまま昇降口に向かおうとする先輩を慌てて止める。


「先輩!学校は次ですよ!」
「知ってる」


振り返りもせずにそう返されたことでわたしに少し怖いという感情が浮かんだ。
なにか、怒らせるようなこと言ったかな…。そのままバスを降りてしまった先輩にわたしは抵抗できず、手を引かれるままに付いて行った。


バスを降りてもマルコ先輩は一言も話さずグイグイとわたしの腕を引いていく。途中うちの学校の制服を見かけて、ここから徒歩でも行けるんだと少し安心した。
人気のない公園に入ると、マルコ先輩は途端にわたしを抱きしめた。


「マッ、マルコ先輩…!?」


こんなところいつ人が来てもおかしくないのに…!!
抵抗しようにもギュウギュウと苦しいくらいに締め付けられた。


「名前…」


切なげに名前を呼ばれ、一瞬力が抜ける。
何が何だか状況は全く理解できていないけれど、とりあえず先輩の背中に腕を回してポンポンと数回叩いてみた。


「名前……」
「はい…」
「…好きだ」
「うん…」


ん!!?


「えっ!?今…なんと…!!?」


グイッと少し緩まっていた先輩の腕を押すと簡単に離れられた。だけど、すぐに肩を掴まれた。
先輩の真剣な眼差しにドキリとしてしまう。


「名前、好きだよい、ずっと前から好きだった」
「……う…っそ…」


嘘…じゃないよね…。うん、先輩はこんな嘘つく人じゃない。それはわかるんだけど、そうなると本当ってことだ。
でも、そんなことってあり得るの!?あの先輩がわたしを!?信じられない…!


「あぁっ、そのっ…」


なっ何か言わなきゃ…!だけど、わたし自身そんな事実が信じられなくて何と言ったらいいのか全くわからない…。
そんなわたしの心を察してくれたのか、マルコ先輩が先に口を開いた。


「返事は…、今じゃなくていいよい」
「えっ、でも…」
「頼む…」


今、おれ、振られる気しかしねェ。そう言われわたしは静かに頷いた。決してマルコ先輩を振ろうとか思ってたわけじゃないけど、付き合うなんて思考にもならなかった。


「きちんと整理できたら、返事くれ…」
「うっ、うん…」


少し視線を下げて目を泳がせながらそう言った。だけど、グイッと顔を上げられると、そこにはいつもの笑顔のマルコ先輩がいて、そろそろ学校行くかよい。って笑ってくれた。


すごい切り替えに驚きつつも、わたしたちは学校への道を急いだ。



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