ピピピピッピピピ…
「ふっ、うーーん…!!」
鳴り続ける目覚まし時計を止め、ベッドの上でぐいっと伸びをした。
今日から修学旅行!
集合時間がいつもよりも早いから、わたしも早めの起床。それにわたしには大事な任務があるのだ。
「エース起こさなきゃ」
実は昨日の夜、ちょうど荷物の最終チェックしていた時、携帯に電話がかかってきたのだ。
《名前ーー!!明日、電話でいいから起こしてくれ!自分で起きられる自信ねェー!》
電話越しにでもエースの必死さが伝わってきて、つい承諾してしまったのだ。早速エースの番号を出した。
プルルルルルル…
プルルルルルル…
プルルルルルル…
「……」
出ない…。
いっ、家にかけてみよう!
それなら誰か気付いてくれる!…はず。
プルルルルル…
プルルルルル…
プルルルルル…
「…出ない…!!」
これはマズイ!起こしに行かないと…!!
わたしはベッドから飛び起き、昨夜準備しておいた服に着替えた。
荷物も昨日までに纏めておいたので、おの大きなカバンを持って家を飛び出した。
必死の思いでエースの家の前まで来たわたしは息を整えながらインターホンを押した。
ピーンポーンと軽快な音が鳴り響くも、家の中きらは何も返って来ない。これは全員寝てるなぁ…。
「もー」
ご近所迷惑覚悟でインターホンを連打した、自分の腕も腱鞘炎になるんじゃないかってくらい。
「誰じゃあ!」
わたしの思いは通じたのか、扉を蹴破る勢いでガープ先生が飛び出して来た。わたしはパァッと顔を明るくさせて叫んだ。
「よかった!エース!修学旅行!遅刻!」
自分でもよくわからないけど、この単語だけの叫びをガープ先生は理解してくれたらしく、力強く頷いて家の中へと戻って行った。
コラァーーー!!起きんかァーーー!!
カンカンカンッ!!
凄まじい効果音のあと、投げられたのか、エースが外へ飛んできた。
んあぁ〜。とか言いながら腰を摩っているエースだが、目が半分も開いていない。
「先生!自転車借ります!」
エースの自転車を取り跨ると、ガープ先生がエースを後ろへ乗せてくれた。
「頼んだぞい名前!」
そう言ったガープ先生に敬礼のポーズを取って自転車を進めた。
「んんーっ!!おもっ…!!」
さすがに、エースを乗せてこの坂はキツイ。それに修学旅行とあって大きな荷物2人分まである。
エースはというと、後部座席でわたしの腰に腕を回して爆睡中。
「ふぬぬぬぬ!」
「ふわぁ〜あ、ん?え?あれ?」
後ろから呆けた声が聞こえるが、今のわたしはそれどころではない、今、力を抜いたらここまで登ってきたわたしの努力が…!!
「名前〜?何してんだ?」
「ちょっ…今、話しかけないで…」
もっ、もうこれ以上は…
「も…っ、無理…」
ガクンと力が抜けてしまい、この坂道を登り直しかと思いきや、エースが足で支えてくれて一歩たりとも後退ることはなかった。
「う、うそー…」
わたしが頑張った意味、あったの…?
「急いで急いでー!!」
「分かってる!」
エースとバトンタッチし、かなりスピードアップした自転車はあっという間に学校に辿り着いた。
だけど、クラスメイトはすでにバスに乗り終わったようで、最後に担任である青雉が乗りかかろうとしていた。
「あらら、エースと名前来てないじゃん、もうバス出ちゃうのに」
「「ちょっと待ったァー!!」」
キキィィィー!
凄まじいブレーキ音と共にバスの前で急停車した自転車、その反動でエースの背中に鼻をおもいっきりぶつけてしまった。
「いたーい…」
「間に合ったねェ〜、早く乗りなよぉ〜」
「まったく…こんな日にまで遅刻とは…」
鼻を押さえつつ、見送りに来ていた黄猿と赤犬の視線を感じながらバスに乗りこんだ。
もちろん、席は2つ以外埋まっていて、そこにエースと並んで座った。
「ふぅー…、なんでこんな日にまで寝坊するかな」
「へへっ、わりぃわりぃ」
「もー」
ジトッとした目でエースを見るも、奴は鼻唄交じりに鞄を漁っていた。
「腹減ったー」
ついに目当てのものが見つかったのか、そんな声と共にエースは鞄から手を引き抜いた。
「えぇっ!?」
ちょっ、ちょっと待て!その手にあるものって……
「さっ、サンドイッチ!?」
「おぅ!昨日母さんが作ってくれてよー!」
もう帰っちまったんだけどな。少し寂しそうに言うエースだが、わたしは口を開け呆然。
「エースのせいでわたし朝ご飯食べられなかったのに!」
一つ頂戴!と手を伸ばしたけれどすかさず避けられた。
「せっかく母さんが作ってくれたんだぞ!それに腹減った!」
「わたしもだよ!」
エースの腕を掴み、ギギギとお互いに睨み合う。
すると、折れてくれたらしく、しょうがねぇなー。とサンドイッチの一つを渡してくれた。
「ま、おれが起きらんなかったのがいけねェしなぁ。やるよ」
「わかってるじゃん、ありがとう!」
掌に乗せられたサンドイッチを見つめてふふっ、と笑みが溢れた。
ルージュさんのサンドイッチ!
具は…玉子とハムだ!
「おいしー」
「あたりめェだろ」
得意げな表情をするエースだが、それもわかる気がする。なんだか懐かしい感じがして、シンプルに美味しいんだもん。
一口一口を味わいながら、ルージュさんのサンドイッチを堪能していたところ、前の席に座っていたノジコが椅子から乗り出し、わたしたちの方へ向いた。
「間に合って良かったわね」
「うん!なんとかね…!」
「こんな日にまで寝坊なんて、さすが火拳」
「ほんとだよ…」
隣のエースを見ればサンドイッチはとっくになくなったようで、鞄からお菓子を出して食べ始めていた。
まさかその鞄の中、全部お菓子なんじゃ…。
いやいや、そんなわけないそんなわけない。
わたしは頭を振り、気を紛らわせるために修学旅行のしおりを見た。
えっと、この後は…
バスから船に乗り換えて、シャボンディ諸島にてまた船を乗り換え、そして魚人島へ
「なんで船から船に乗り換えるんだろう?」
「コーティング船に乗り換えるんだよ」
ふと浮かんだ疑問を口に出してみれば、エースがすぐに返してくれた。しかし、わたしにはわからない言葉だ。
「コーティングせん?」
「名前、なんも知らねェんだな」
ポテチをボリボリ食べながら言ってくるエースにムッとしてしまう。
でも、何も知らないのは事実だ…。
エースは袋から3枚ほど取り出して口に放り込むと、説明を始めてくれた。
「あのな、魚人島ってのはめっちゃくちゃ深ェとこにあるんだよ、そんなとこ普通の船じゃ行けねェだろ?」
魚人島が深い海の底にあるっていうのは知ってる、潜水艦に乗り換えるってことなのかな。
「普通の潜水艦だと水圧で壊れちまうぞ。だからな、シャボンディ諸島のシャボンで船をコーティングするんだ、そしたら船は壊れねェし、ちゃんと魚人島まで行けるってワケだ」
ばっちり、ドヤ顔を決めたエースだけど、わたしの頭はまだ納得出来ていない。
「え、なんで?」
シャボンでコーティングしたら船が壊れないし、海の中を進めるって…、なんで?
「なんでって…!そうなってんだ!」
さっきまでの余裕はどこに行ったのか、途端に声の大きくなったエース。
つまり、よく知らないわけね。
でも、シャボンディ諸島の自然現象のシャボンにそんな用途があったなんて驚きだなぁ。
「船のコーティングってのは3日かかるんだぜ」
「えっ、3日も!?」
3日間何するんだろ?シャボンディパーク満喫…?
ふとケータイに付けてあるストラップを見てみる。
「また行きたいなぁ…」
「どこにだよ?」
「えっ、あっ、ううん。3日間シャボンディパーク満喫でもいいなって」
「まー、コーティング船は準備してあるだろ」
「だよね」
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