「名前!今日バイトか?一緒に行こうぜ!」
「うん」


なんだかんだで遅くなってしまったけれど、今日はモビーディックに出勤の日
青雉のだるい挨拶のあと、みんなに挨拶してエースに付いて教室を出た。

正門から外へ出ると、顔に当たる風がすごく冷たかった。もう夏も終わりだもんね…。


「かなり涼しくなったねー」
「だな」
「あー、緊張する……」


そう言うと、ヒヒッと笑ったあと、大丈夫だってと頭をポンポンと叩かれた。
い、いま…エースにときめいてしまった…!!!


「行こうぜ」
「…う、うん」


エースって、ああいう普通は恥ずかしがるようなこと普通にするよね、きっとなんとも思ってないからたちが悪い。あ、そういう無意識なところにモテる要素があるのかも。
そんなことを頭の中で考えていたところ、あのさー。とエースが声を出した。


「あのー、トラ男に初めて会ったときあったろ?ほら、名前が絡まれたとき…」
「あ、ローグタウンの?」


ローくん1人相手に逃げてったチャラ男達を思い出すなぁ。


「そん時にさトラ男のこと、どっかで見たことあるって言ってたじゃんか、あいつ去年のランキングさ5位だったんだな」
「あぁ、わたしも昨日パンフレット見て思った!」
「だろっ、ま、おれのが人気だけど!」


両腕を頭を後ろに回して得意げな表情のエースに、わたしの顔は歪んだ。


「うわ、なんかやだ」
「へへっ」
「抜かれても知らないよーだ」
「ま、あんなの勝手に投票してるだけだし、会ったことねェような奴らにランク付されてもな」
「はっ、ははっ…」


昨日、わたしたちそれでかなり盛り上がったんだけど…。
まぁエースの言うことも分かる気がする。だけど、そういうのはランクインする人にしかわかんないんだろうなぁ。
わたしには関係ないや。


「お前…、誰に入れんの?」


あんなこと言っときながら聞くのね…。まぁいいけど。


「ロビン!」
「ちがっ!じゃなくてだな…男のほうだよ…!」
「あー、そっちか」
「だ、誰だ…?」


何故かエースは顔を近づけてきてゴクッと喉を鳴らした。


「ベポ」
「だぁーっ!」
「なっ、何?」
「なんでおれじゃねェんだよー」


途端に肩を落としたかと思うと、今度は唇を尖らせてぶーぶー言い始めた。


「別にわたしが入れなくても、たくさん票入ってるじゃん」
「でもよー」
「エースは?誰に入れるの?」


逆に、ランキング上位の人が誰に入れるのか気になるところだ。


「サッチ!あいつの飯うめェもん!いつも食わせて貰ってるし!ホントは親父が1番だけどな!」
「なるほど…」


ご飯で選ぶんだ…。この前アルバム見てたら発見したけど、親父さん昔2位だったみたいなんだよね。すごいなぁ。


「美女の方は?」
「そ、それは秘密だ!」
「えー!わたし教えたじゃん!」
「そんなの知らねー」


なんてやつだ…!!
















オヤジさんの部屋へ行くと、そこにはすでにマルコ先輩とサッチ先輩もいた。


「今日からよろしくお願いします」


お辞儀をしてそう言うとグラララと返って来る笑い声。


「そんなに改まるこたぁねェ、マルコ」
「おぅ、名前ついて来いよい」


手でくいっとすると、マルコ先輩は部屋の扉へ向けて歩き出した。
わたしは慌ててオヤジさんにお辞儀をし、マルコ先輩を追いかけた。
わたしたちについて来ようとしたエースはなぜかオヤジさんに呼び止められていた。


「エースどうかしたんですか?」
「あぁ、次のテストで順位下がったら隊長剥奪って念押しだよい」
「そういえばそんなこと言ってましたね…」


エースよ…そろそろ自分の力で頑張ろうね……。
マルコ先輩と話しながら一階まで来ると、マルコ先輩はとある部屋の前で立ち止まった。


「ここだよい」


マルコ先輩のノックのあと、はーい。と艶やかな声が返ってきて扉が開いた。


「うっわ……」


出てきたのはここのメイドさんの一人、ナイスバディを惜しみなく見せていてわたしは失神しそうになった。

なっ!!なんというスタイルの良さ!!!


「こいつ、今日からうちで働くからよい、いろいろ教えてやってくれ」
「あら、可愛い子ですね、マルコ隊長の彼女さんかしら?」
「かっ…!!!?」
「ちげぇよい、エースのクラスメイトだ」
「よっ、よろしくお願いしますっ!」


深々とお辞儀をすると、オヤジさんとはまた違った綺麗な笑い声がした。


「えぇ、さぁ、こちらへどうぞ、あ、マルコ隊長はダメですよ。男子禁制ですから」
「あぁ、名前、ここで待ってるよい」


マルコ先輩と離れるのは少し不安だけど、この綺麗なお姉さんに引っ張られながら中に入った。



ま、まさに!!花園…!!!

教室とかそれくらいの広さのお部屋に、たくさんの美女!!
お着換えの真っ最中だったり…、こっちが真っ赤になってしまいそうだ。


「この子、今日からの新人さんよ!名前はー…」
「あっ、名前です!」
「名前ちゃんよ!仲良くしてあげて!」


美人さん達の視線を一気に浴びることになるとは…、わたし、凄いところに来ちゃったな…。


「こちらへどうぞ、このクローゼットの中に制服が入ってるから、出勤の時はここから自分のサイズのもの選んでね」


この綺麗なお姉さんにこの部屋の勝手を一通り教えてもらった。
その部屋にはキッチンやベッドなんかもあって、ここで暮らすことも可能なんじゃないかと思えるくらい。


「まぁこんな感じかしら、またわからないことがあったら何でも聞いて」
「はっ、はいっ、ありがとうございます…!」
「ふふっ、じゃああたしはこれから仕事だから、またね名前ちゃん」
「はい!また!」


お姉さん達に見送られながら部屋を出ると、マルコ先輩は腕を組んで壁に凭れていて、わたしを見るとニコッと微笑んだ。


「大丈夫だったかい」
「はい!みなさん良い人達ばかりで!」
「そりゃ良かったよい。名前、手出してみろ」


少し、口の端を上げたマルコ先輩を不思議に思いつつ、わたしは右手を差し出した。
そこにマルコ先輩が何かを乗せて、チャリ。と音がした。


「ここの鍵だよい、モビーの門はこれで開けられるからねい」
「はい、何から何までありがとうございます」
「いいってことよい」


そのままマルコ先輩の手が頭に乗った。
やっぱりカッコいいなぁ…。


「今日は仕事はないんですか?」
「あぁ、今日は説明だけの予定だった。あ、ちゃんと給料は入れとくからよい」
「えぇ!そっ、そんなのダメです!お給料もらうなら尚更!なんでもいいんで仕事下さい!」


仕事をくれぇ!とマルコ先輩に掴みかかる勢いでお願いすると、若干引きつつもわかったよいと言ってくれた。


「じゃあ…ステファンの散歩でも行くか…」
「ステファン?」


始めて聞く名前だ、それに散歩って、ペットかな?


「犬だよい、オヤジそっくりの」
「そうなんですか!わたし、犬大好きなんです!」


犬は飼ったことはないけれど、昔から動物は好きだし、大丈夫かな。オヤジさんにそっくりってのは引っかかるけど、可愛いんだろうなぁ、抱っこなんてしちゃったり…!!


「たぶん、名前の想像よりかなりでっけーぞ」












ワンワンワン!
「ぎゃっ!!」
「おい!ステファン!」


モビーディックハウスの広いお庭に、マルコ先輩が連れて来たのはオヤジさんと同じく白いお髭を蓄えたワンちゃんだった。
それもかなりの大型。


人懐っこいのか、ワンワン吠えながらわたしに飛び付いて来たんだけど、支えられるワケもなく、芝生に押し倒され、顔をペロペロ舐められた。


ワン!
「あははっ、くすぐったいよー」
「おいステファン、いい加減にしろい」


マルコ先輩がぐいぐいとリードを引っ張っているが、全く動く気配なし。
あのマルコ先輩相手にビクともしないステファンって…、さすが親父さんのペット!


「かわいいねー、ステファン」
ワン!


わたしが笑いかけるとニコニコとしながら応えてくれる。それにモフモフ…気持ちいい…。ステファンの背中に顔を埋めて、このまま眠りたい…。


「ほらステファン、飯だよい」


その言葉にバッ!と振り返るステファン。
そんなステファンを見てニヤッと笑うと、マルコ先輩はソーセージのようなものを顔の前でユラユラ揺らし始めた。


「くぅーーん」


なっ、なんて可愛いの!?
ぜひ写真におさめたい…!

わたしが携帯電話をポケットから取り出そうとした瞬間、マルコ先輩は、ほーらよい。とか言いながらソーセージを遠くへ投げてしまった。
もちろん、ステファンはそれを追いかけて行き、わたしはマルコ先輩を睨んだ。


「先輩のバカ…!!」
「…え!?」


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