「だれだ?」
「えっ」


わたしが無我夢中で写真を漁っていたとき、突然後ろから声を掛けられた。驚いて振り返れば、開いた扉のところに人が立っていて、その人もわたしを見て驚いているようだった。

しかも、あの赤い髪のいかつい人…!いつか食堂で見た、シャンクス先輩と間違えそうになった怖そうな人。

頭の中で一気にそこまで考えたところで、その人が資料室に入ろうと一歩を踏み出した。まだわたしと彼とは距離があるのに、彼の迫力にわたしは一歩後ずさってしまい背中が棚に当たってしまった。


「おい!」


ガタッと音がして彼が慌てたようにわたしの頭上に目を向けた。わたしも釣られて見ると棚から工具箱のようなものが落ちて来ていて、すぐに屈んで頭を抑え、目を瞑った。


……しかし、いつまで経っても思っていた衝撃は来なかった。


「…え?」


見上げると、その工具箱はわたしの頭上で……う、浮いてる!!?

ポカンと口を開けたわたしをよそに、工具箱は宙を浮いたまま扉にいる彼の伸ばす掌に吸い込まれて行った。彼は工具箱をキャッチすると、それを手に持ったままスタスタとわたしの方へ歩いて来た。

ん。と手を伸ばされ、わたしが握り返すとグイッと引っ張って立たせてくれた。


「あ、ありがとうございます…」
「いや、しかし自分から来てくれるとは思ってなかったぜ」
「……はい?」


感心したように言う彼にわたしの頭にはクエスチョンマークが踊る。
そして、来い。と言われ、握ったままだった手を引かれ資料室の奥に連れて行かれた。


「えええ!ちょっ…」


わたしの抵抗にはなんの意も示さず歩き続け、ある棚の前に止まった。その棚を片手で横に移動させたかと思うと、その後ろには扉があった。

隠し扉てきな…?

驚きでポカンと口を開けているわたしの手をまた引くと、慣れたように扉を潜り抜けた。


「おうキラー、もう来てたのか」
「あぁ…、ってそいつは…!」


扉の奥の部屋にはマスクの男の人がいて、マスクをしているからよくわからないけどわたしに驚いているみたいだ。だけどそんなこと気にも留めず、赤い怖い人はわたしの肩に手を回して楽しそうに笑っていた。

とっ、とっても怖い笑みなんだけど…。


「いつか勧誘に行くつもりだったが、こいつ自分から来たんだぜ」
「はっ、はぁ…?一体なんの話なのか…!」


すんごい勢いで反抗したい気分だけど、この人の容姿があまりにも怖すぎてかなりビビってしまった。


「彼女はそんなつもりはないみたいだが」
「あぁ?」


ひぃっ!こわ!今の凄み顏こわすぎ…!!


マスクさん…いやキラーさんだっけ、その人がとりあえず話を聞こうじゃないかと提案してくれて、わたしたちはその部屋にあったソファに座った。
わたしの正面に二人が座り、ジィと見つめてくる視線に耐えられなくて、そこで初めてキョロキョロと部屋の中を見回してみた。
扉を潜るとき、わたしは異空間的なものを想像していたので、少し驚いた。
だって、赤髪グループの部屋ほどではないけど、かなり快適そうな部屋だったから。
ちょっとボロいけどソファもあるし、冷蔵庫に、キッチンらしきものもある。普通に人ひとりくらい暮らせそうだ。


「こんな部屋あったんだ…」
「この学校には教師達からも忘れられている部屋がかなりある。ここもその一つだ」


キラーくんがわかりやすく丁寧に説明してくれた。

まぁ要するに、ペローナの部屋のような感じで、教師達に忘れられたこの部屋は今やこのグループの人たちの溜まり……う、ううん。このグループの人たちが使用しているんだって。


「名前」
「はっ、はいっ」


未だに強い視線を送ってくる赤い怖い人に名前を呼ばれ、思わず声が上擦ってしまった。


「うちに入りたいんだろ?」
「はっ、はい…?」
「キッドいきなりすぎだ」


すかさずキラーさんがそう言ったけれど、赤い怖い人…キッドくんの視線はわたしから離れない。


「あ、あの…」
「なんだ!?」
「わたし…、あなた達と初対面だし…、名前も今知ったんですけど…」


そう言うとキッドさんは、嘘だろ。と驚いたように呟いた。


「おれを知らねェのか」
「…はい」


なんなのこの人、自分を有名人だとでも思ってるわけ?その似たような容姿ですでに有名な人がいるっつうの!とは思ったものの声には出さなかった。いや出せなかった。


「最近じゃ、スーパールーキーだとか言われてんのにな」
「ルーキー…」


ルーキーは少し知ってる…、ローくんやルフィくんのことでしょ?
あ、もしかしてこの人もなの?


「ローくんの友達…?」
「ロォ?」


その瞬間ギロッと睨みつけられた。


「胸くそ悪ィ名前出してんじゃねェ」
「ひっ!す、すみません!」


いやぁ、もう帰りたいー……。

チッとか舌打ちををしたキッドさんをキラーくんが宥めてくれて改めて自己紹介をしてくれた。


「おれはキラー、1年だ。こっちのキッドは2年、よろしくな名前」
「よ、よろしくお願いします」


後輩相手にぺこりと頭をさげた。自分のプライドなんてもうどうでもいい。


「あの、ひとつ聞きたいんだけど、なんでわたしの名前知ってるの…?」
「あぁ、それは前々からキッドが…「おいキラー!」


キラー君の言葉を遮ったキッドくんにわたしが視線を向けると、彼は少し頬を赤くしてキラーくんを小突いた。


「余計なこと言うんじゃねェ…」
「そうだな」


そんな2人のやり取りにわたしが小首を傾げていると、またキラーくんが続けた。


「本題に入るぞ、キッドがお前を仲間に入れたいらしいんだが」
「なんでわたしなの…?」


わたしあなたたちのように悪名高いわけじゃないし、ただの一般人なんですが。わたしをグループに入れるメリットなんてあるのかな?


「キッドがお前の事を気に入ったらしくてな」
「はい…?」


わたしのどこをどう気に入ったんだろう。
わたしにとっては今が初対面なんだけど。

キッドくんはずっと黙ったままこちらを見ていて、またもキラーくんが話し続けた。


「だから来ないか?うちに」


2人からの視線、キラー君はマスクしてるけど、多分…、いや絶対こっちを見てる…!


「うーん…わたしそういうのは…ちょっと、いいかなー…あはは」
「あ"ぁ?」
「ひっ!」


またも繰り出されたキッドくんの凄み顔に身体が縮こまる。
なにこれ…わたしの拒否権ないじゃん…!!


「やっぱお前、白ひげの人間か?」
「え?ち、違いますけど…」


疑うように見てくるキッドくんにきちんと否定はしておく、バイトも紹介してもらったり、仲は良いけど、わたしが白ひげグループに入ったなんて言ったこともないし言われたこともない。だからわたしは飽くまでお友達だ。


「そうか…なら少しだけでも考えてくれないか?」


キラーくんの言葉にわかったと言った。今更になって即拒否なんて悪かったな。なんて思えてきたから。ていうか、この場面で一番年下のはずのキラーくんが一番落ち着いているのはなぜ…。


「頼むよ」
「う、うん。じゃあわたしはこれで…」


2人に向かってお辞儀をして、立ち上がって隠し扉から資料室に出た。あまりいると押し切られそうで怖かった。

なんだか不思議な時間だったな。と思いつつ今度は資料室の出口へ向かいその直前で後ろから腕を引かれた。


「うわっ」


次に顔がゴツゴツの筋肉に当たったのに気づき、今わたしは抱きしめられているんだとわかる。頭に乗せられている右手からカチャと音がしたので、相手はおそらくキッドくん。


「あ、あの、ちょっと…!」


抵抗すれば、さらにギュッとされる。


「今だけ…」
「え…?」


頭の上から聞こえるキッドくんの声にわたしの動きが止まった。
さっきとは違った優しい声だったから。


「お前が入らねェって決めたら、おれは諦める、だから…」


「…うん」


キッド君の声があまりにも切なそうだったから、わたしも抵抗をやめた。


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