約1ヶ月半ぶりの教室に入ると、すぐにおはよ〜と声を掛けられた。
わたしも返しながら席に向かうけど、みんな心なしか気だるそう。
夏休み終っちゃったもんねー…。
明日から平常授業が始まるかと思うと気が重くなるのも当然だ。

席に鞄を置いて、教室を見渡してエースの姿を探すけれど見つからない。
そこで、一番前の席で机に伏せる委員長に声を掛けた。


「ねぇ、エースまだ来てない?」


すると、あー。とか唸ったあと、顔をこちらに向けた。


「まだじゃね?来てたらもっと騒がしいだろ」
「だよね、ありがとう」
「おー」


そう言うとまたすぐに机に伏せてしまった。
委員長の言う通り、エースが来ていたらもっと騒がしいはずだよなぁ。
それよりもわたしの心配はエースが忘れずに問題集を持ってくるかというところにあるのだけど、正直、物凄く心配。
昨日は、エースのやつわたしの宿題終わるまで爆睡しておいて、帰り際に家で写すってわたしの努力の結晶を持って帰ってったのだ。


「絶対忘れないでよ!!」


って念は押しておいたんだけど…。
うーん、どうだろう…。

ひとり、考えながら教室の入口の前で突っ立っていると、名前はよ。と頭に手が乗せられた。


「あぁ、おは……、ってエース!」


そのまま欠伸をしながら通り過ぎようとするエースの腕を慌てて掴んだ。


「んあー?…なんだよ?」


物凄く眠そうな顔のエースは、目尻の涙を拭いながらわたしを見下げた。


「何って…、わたしの宿題ちゃんと持って来たの?」
「あー、おう。ちゃんと持ってきたぜー…、ばっちり写したし、サンキューな」


相変わらず眠そうに自分の席へ向かうエースについて行きながらわたしはホッと胸を撫で下ろした。


「良かったぁ」


なんだか気が抜けた。席につくと、エースは鞄を開けてわたしの問題集を手渡してくれた。…のだけど、さらに鞄の中を漁ったエースはみるみる顔を青くしていく…


「…やべぇ」
「どうしたの?」
「おれ、自分の忘れた…」
「……バカ」


途端にうおぉぉー!!と叫んだエースにクラス中の視線が集まる。しかし、本人はそれどころではない。


「睡眠時間削って終わらせたのにー!!!」


両手で顔を挟んで、ムンクの叫びならぬエースの叫び。
なんだかんだで終わらせてあるんだし(わたしのを写しただけだけど)きちんと言えば青雉だってわかってくれるよ。そう言おうとしたんだけど、その前にエースが何か閃いたのか顔を明るくし、わたしの顔を見た。


「…え?」
「いいこと考えた!」


そしてまぶしいほどの笑顔を見せた。
















「へェー、なるほどね。」
「おぅ!だから明日でいいだろ?」
「……」


いいのかわたし……。

職員室、青雉の前に立つエースとわたし。
座ったままの青雉はダルそうに目の上のアイマスクをずらすわたし達を見た。
青雉はわたし達に対して怒っているわけではない、実際わたしは怒られるようなことなどしていないのだから。
でも、わたしの中ではエースに対する怒りがふつふつと沸き上がっていた。


「うーん、2人で宿題して、その時問題集が入れ替わっちゃって、エースは名前のを持ってきたんだけど、名前はエースのを忘れちゃったと…」
「そうなんだよ!名前のやつドジでよー」
「……」


エースにしてはよく考えたと思う、こんな言い訳いつもなら絶対思いつかないだろう。
だけど昨日睡眠時間削ったらしいから、無駄に頭が冴えてるらしい。だけどなんでわたしを巻き込むかなぁ!?言いたい…、わたしは決して悪くないって、凄く言いたい。
キッとエースを睨みつけるが、やめてくれ。と言わんばかりに目をうるうるさせ手を握られた。


「ハァ…」
「なんで名前が溜め息つくの」
「……すみません」


わたしが謝るとふぅっと息をついて立ち上がった青雉。立ち上がるとわたしたちよりも大きいから、かなり見下ろされるかたちになり、少しビビった。
一体何を言われるのかと思いきや、青雉から出たのはただの欠伸。


「んー、もういいよ。2人とも」
「「ほんと(か)っ!?」」


わたしたちの目が輝いた。青雉、やっぱりあんたは良い先生だよ!!


「まー、どうせ今日でも明日でも変わらないでしょ」
「さすがだぜ!青雉!」
「うん!生徒心をわかってらっしゃる!」


いやー、物分りの良い担任で良かったぁ!
青雉の適当さ、大好きだよ!!
エースとともに青雉を褒めちぎっていれば、青雉も乗せられて、だろ?生徒の気持ちがわかるおれすげー。的なことを言いだした。青雉にしかできないね!などと捲し立て、職員室がかなり和やかなムードに包まれた。

しかし、そんな時間も長くは続かず…


「そんなに生徒を甘やかしてもらっては困るんじゃがのぅ…クザン」


わたしとエースの身体が硬直する。後ろにいるんだね!殺気でわかるよ…!!
ギギギギと後ろを振り返ったわたしとエースの目に映ったのはやはり、この学校内で会いたくない教師ナンバーワンの赤犬だった。
青雉は全く態度を変えずダルそうなままだけど、明らかにエースの姿勢は良くなっている。背筋なんて伸ばしちゃって、わたしもなんだけど…。


「そう〜?いいんじゃない?明日持って来るって言ってるし」
「お前がそんなじゃから生徒までだらけるんじゃ」
「だっておれのモットーだらけきった教育だもん」


そんなドヤ顔で言うことじゃないよ青雉…。
ほら、赤犬の額の皺が増えたじゃん…!!


「入れ替わったにせよ、ちゃんと持って来た方はともかく、持って来なかった方には罰を与えるべきじゃろぅ」
「「え?」」


えっ、ちょちょちょ!
そ、それじゃあわたしってことになってるよね…?
エースを見るが目は合わされなかった。こいつ…!!
青雉もそうだなぁ。とか言っちゃってるし、この場にわたしの味方はいません。


「じゃあ名前、今日の放課後、資料室の掃除ね」
「えっ、ちょっとまっ…」
「忘れたやつが何か言いたいことでもあるのかのぅ?」


ギロリと光る赤犬の瞳とかち合い、ないです。とすぐに引き下がった。


「そ、掃除させていただきます…」


そう言って、すぐに、黙って突っ立ったままのエースを引っ張り職員室を出た。
もうなんか、赤犬にあんなこと言われると、本当に自分が忘れたような気がしてきた…。決してそんなことはないんだけど!




「ふー…」
「名前悪ィ…」


エースの手を引き、職員室をでたところでエースに謝られた。
頭も俯きがちで、しょんぼりしてるみたい。赤犬を前にすると、エースも可愛いもんだな。なんて思えて、いいよ。と言った。


「掃除しよっか」


いくらわたしのせいにされていても忘れたのはエースなんだし、掃除くらいは手伝ってくれるだろうと思ったんだけど、エースから返ってきたのは沈黙と気まずい表情だった。


「わりィ。おれ、今日バイトあんだわ…」
「えぇーー!!!」


な、なんでわたしが謂れのない罪で掃除なんて……!
わたしががっくり肩を落とすと、パチン!とエースが顔の前で手を合わせた。


「ほんとわりィ!今度奢るから!」
「……はぁ。焼肉ね」









あーあ、なんでわたしが掃除なんか…。
青雉も青雉だよ!なに赤犬に流されてんのさ、最後まで適当貫いてよ!
心の中で悪態をつきつつ、建付けの悪い資料室の扉を開けた。


「ほこりくさッ!」


中を見た瞬間すぐに扉を閉めた。

本当にここ…?

扉の上に掛けてある札を確認すると、“資料室lll”の文字が。
合ってるかぁ…。
よりにもよってなんでこんな部屋なの……。


「おれもあの部屋2、3年入ってないんだよねー、取り敢えず綺麗にしてきてよ」


青雉の言葉を思い出す。
というか、2、3年入ってない部屋なんて綺麗にしたところではいらねーだろ!今更になってそんな風に思えてきた。

エースめ…、焼肉にデザートもつけてやる…!

意を決して部屋へ入ると所狭しと並んでいる棚、そして溢れんばかりに詰め込まれた資料の数々。
これ、生徒に触らせていいのかなぁ、重要資料とかないよね…。


「はぁ…」


全く、エースのやつ、自分が忘れたって言えばいいのに。


「おれだと、忘れたんじゃなくてやってないだろ!言われるじゃん、名前なら信用されてるだろー?」


などと言われて押し切られた。珍しくエースが正論を言うものだから。
わたし、そんなに信用されてる自信はないけど、エースだと忘れたと言われるのは目に見えていた。

…もー、ごちゃごちゃ考えるのはやめよう!さっさと掃除済ませて帰ろう!


とりあえず窓を開けて喚起だ!
しかし、窓までの距離はたかだか3メートルほどなのに、床が資料だらけで道がない。
まずは片付けるところからか…。

近くに落ちているものから拾っていくと、おそらく誰かに踏まれたのであろう足跡がついたものや、長年放置されてほこりが積りに積もった写真など。

一体何年前のものなんだろうとほこりを払っていると、その写真の中に見たことのある顔が…。


「んん?」


現在の特徴である大きな白い髭は付いていないけど、おそらく…


「オヤジ、さん…?」


ウチの学校の昔の制服を来て何人かのグループの中で笑ってる姿、これ絶対オヤジさんだ…!!
写真の裏側を見てみれば日付は今から50年以上も前。
日付の横には名前も書かれているみたい。


“白…… エ……ワード……ニュ…ゲ…ト”


と所々消えかかってはいるがそう書かれている。
うん、長くて全部は覚えていないけれど、オヤジさんの名前。こんな感じだった気がする!!

また別の写真を見てみると、これまたオヤジさんと、黒い髭の男の人2人が腕を組んで写っていた。


「誰だろう…?」


裏を見てみても…


“エドワ………ゲ……”
“……ル………ャー”


としかわかる部分がない。

気になる……。

そうだ!アルバムないかなぁ?
ここは資料室だし、こんな写真があるってことはこの時代のアルバムがあるかもしれない!!
とりあえず近くの棚を順番に見ていくと、昔のアルバムが並べられているところがあったので、写真の裏と同じ年度のものを引っ張り出してみた。


「あった!」


生徒の個別写真の中にオヤジさんを発見。そしてさっきの写真と比較しながらオヤジさんと写っていた人を探してみる。
この人かな…。


「ゴール・D・ロジャー…」


うん、写真の裏の名前とも合う!

……そういえば、ゴールド・ロジャーって人が、昔、この学校のトップだったって噂だけどこの人なのかな…?
でも少し名前が違うよなぁ…。
不思議に思いながらも、次々とページを捲ってみた。


「えっ!?」


なんと、写真の中につい最近会ったばかりのエースのお母さん、ルージュさんがいた。
ロジャーさんの隣でルージュさんは頬を染めて微笑えんでいて、ロジャーさんも照れくさそうに笑っている。この2人、絶対ただならぬ関係だったに違いない…!!!

あっ!!

そういえば…


「私も今度?ロジャー?に連れてって貰おうかしら」


って、言ってた…!!

じゃあやっぱりこれはあのロジャーさんだよね…。

ということはロジャーさんとルージュさんは現在は夫婦ってことになるのかぁ。
高校生から付き合って結婚なんて羨ましいなぁ…。


ん?あれ……!?

ルージュさんとロジャーさんは夫婦で…
ルージュさんはエースのお母さんで…

ってことは…

ロジャーさんはエースのお父さん!!?


「うそ…!」


エースのお父さんあのゴールド・ロジャーだったの!?

もう一度写真をよく見てみる。

黒い髪と笑い方…。

確かに、どことなーく似ている気がする…。


他にもオヤジさんやロジャーさんの写真がたくさん出てきて、わたしは夢中になって見てしまった。
その中にロジャーさんと仲間たち!って感じの写真が出てきたんだけど、そのロジャーさんの隣にいる人…。

も、もしかしてこれ、レイさん!!?

すっごく若い、それにレイさんの隣にいる人はおそらくシャッキーさん。この人は今とほとんど変わってないみたい。
この頃が大人すぎるのか、現在が若すぎるのかはわからないけど…。

さらに、シャッキーさんに抱っこされている小さな子供タコさん、これは…、ハチさんだ…!!
こ、この辺りの関係図、どうなってんの…!!?



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