青い空、誰もいない白い砂浜、そんな素敵なところに集められたわたし達2Aの生徒たち。


青雉奢りの焼肉はバーベキューになったそうで本日、朝からこんなところによびだされたのだ。

こんな真夏の砂浜に似合わない長袖長ズボンの青雉が、コンロをセット準備が整ったのか立ち上がった。


「もう全員揃ったか〜?」
「まだエースくんが来てませーん」


青雉の問いに誰かが答えた。そこでわたしも今日エースの姿を見ていないことに気付いた。
エースのことだし、きっと寝坊だろうな。なんて思っていると青雉に名前と名前を呼ばれた。


「なに」
「呼んで来て」
「なんでわたし!?」


第一、ここからエースの家遠いし、わたしにそんな距離まで呼びに行けと!?わたしはエースの保護者じゃないんですけど…。


「もうエースほおって置いて先に始めようよ」
「そりゃ無理だ、アイツがいねェと火が起こせねぇ」
「……。電話してみる」


お願いね〜。なんて軽いノリの青雉を睨み付け、なんでこんな日にも寝坊するのよ!と心の中でエースに怒りをぶつけながら携帯電話でエースの番号を出した。

何故か女の子達ががわたしの携帯電話に耳を寄せているけど、気にせず押せばすぐに鳴る呼び出し音。


プルルルルル……ガチャ


「んぁー、もしもーし」


物凄く掠れた声で、誰だぁ?とか言ってるエース。
これは完全に寝起きだ…。
女の子達がキャーッて叫んだ。


「やっぱり寝てた!エース!」
「んー?名前?」


まだ頭がはっきりしていないのか唸るような返事を繰り返している。


「今日なんの日か分かってる?」
「んー、ダダンの誕生日?あ、それ30日か…」


ダダンさんの誕生日30日なんだ…。じゃなくて!


「クラスで焼肉の日でしょ!」
「あああぁぁぁ!!!忘れてた!」


電話越しに大声を出すから驚いて携帯を耳から離す。


「すぐ行く!!!」
「あー、ちょっと待って、エース」


突然、携帯電話を奪われた。見ると、青雉が何やらエースと話しているみたい。


「おー、じゃあ頼むわぁ。よしっと。ほい名前」
「あ、うん」


話し終えると直ぐにわたしの元に携帯電話は返ってきたけれど、通話はもう切られた後だった。


「エースが来るまで好きなように遊んでていいよ」


そう言うと、青雉はおれはちょっと寝る。とアイマスクをしてパラソルの下のビーチチェアに寝転がった。









チリンチリン

暫くして、やつがやって来た。しかもママチャリに乗って。それに前の籠も後ろのも、荷物でいっぱいになっていて、主婦か。と突っ込んでしまった。


「わりぃー!遅くなっちまった!肉まだあるか!?」


とエースは大慌てで自転車から飛び降りた。


「おー、ありがとさん、はいお金、お釣りはとっといていいから」


と青雉がエースに一万ベリー札を渡していたけど、一体何を買って来たんだろう?


「早く!!肉食おうぜ!肉!」


遅れて来ておいて一番盛り上がってるなぁ…。


「エース!火点けてくれ!」
「任せろっ!」


エースが炭に点火すると一気に燃え出した。


「早く焼こう!」
「今焼いたら焦げちまうよ、団扇で仰いで火の調節しねェと」
「そんなもんおれがやってやるって!」


男子たちが火の用意をしてくれるということでわたしたち女子は、食材の準備をしようということになったんだけど…。


「「「え?」」」


青雉が持ってきたクーラーボックスの中は、肉も野菜もぜーんぶカッチコチに凍っていた。


「冷たい…」
「これ凍りすぎでしょ…!!」


こんなことができるのは勿論…


「青雉ー!!なんでこんなに凍らしてるの!?切れないじゃない!」


ノジコがビーチチェアで寝転んでいる青雉にカチコチの玉ねぎを見せつけ、大激怒。しかし、青雉はアイマスクを少しズラしただけ。


「あー、だって腐ったりしちゃマズいでしょ」


とのんびり言った。
だからってこんなにカチコチにしなくてもいいじゃん…。


「どうやって切るのよ!?」
「まー、エースにでも溶かしてもらいなさいや」


そう言うとおれの仕事は終った。とでも言うようにまたアイマスクを装着し、眠りに入ってしまった。


「それもそうね。ひけーん!溶かしてー!」
「えー!!おれ今火の調節…「はやく!」…はい」








エースのおかげで無事切ることが出来た野菜やお肉達を、これまたエースが火の調節をする金網の上で焼いていく。


「今日はエース大活躍だね」
「へへっ、だろ?」


得意気に火の調節をしながらお肉をひっくり返すエース。
額の汗を拭いてあげると、サンキュと笑顔が返って来た。


「あいつらどこ行ったんだ?」


周りが静かなことに気付いたらしいエースが辺りをキョロキョロと見回している。


「ほらあそこ、みんなお肉が焼けるまで海で遊ぶって」


海の方を見れば、皆、波打ち際でビーチバレーをしたり、泳いだり、いろいろ楽しそうだ。


というかそもそも、なぜこの砂浜には誰もいないのかっていうのは、青雉が貸し切ったからだそうだ。

どんだけお金持ってんだか。


「えー、ずりィおれも海行きてェ!」
「エース泳げないじゃん」
「うっせー」
「ふふっ」


また汗が出てきたエースの額を拭く。そう言えば。とさっき浮かんだ疑問を口に出してみた。

「何買ってきたの?」
「あー。青雉に頼まれてさ、かき氷の蜜と花火!面白そうなの選んで来たぜ!」
「そっか!」


エースがそろそろか?とお肉を持ち上げたところで、前方からおーい!と声がかけられた。


「2人こっち向いて!撮るぞ!」


そこにはカメラを構えた委員長の姿が。今日は青雉にカメラマンにも任命されたらしい。
てか、あんなに適当に選ばれたのにちゃんと委員長業をしているのが偉いと思う。


「名前撮ってもらおうぜ!」
「あっ、うん!」


エースの声で引き戻され、返事をする。

すると、委員長のハイチーズ!と共に鳴ったシャッター音。


「じゃあまた現像して渡すから!」
「うん!ありがとう!」
「じゃあおれ向こうでみんな撮って来るわ!」
「あっ!もう焼けるから戻って来るよう言っといてくれ!」


エースがそう言うと了解!と、委員長は走って行ってしまった。


「おれも海行きてェな…」
「後で行こうね」
「おぅ!」








「おいし〜」
「外で食べるから尚更おいしいね〜」


エースが焼いたお肉をみんなで戴くことに。
男子は青雉をからかいに行ったりしているけど、わたし達女子はシートの上で完全に女子会モード。


「ねぇ、名前とエースくんっていつからあんなに仲良いの?」


1人の子が不思議そうに聞いて来て、それに便乗するように他の子達もわたしも聞きたーい!と乗って来た。
エースと仲良くなった経緯かぁ…。


「同じクラスになったのは中学2年から、エースのことは1年の頃から知ってたけどね」
「知ってたってことは…、やっぱり好きだったから…とか!?」
「ちっ、違う違う!1年の頃のエースって凄い荒れてたの。毎日のように悪い噂ばかり聞くし…、絶対関わりたくない!って思ってた」


エースとサボ、猛獣でも咬み殺すやつらだみたいに言われてて、2人が何か事件を起こすたびにすぐに学校中に広まっていた。


「なんか意外だねー、じゃあなんで仲良くなったの?」
「2年に上がって同じクラスになってもあまり話したりしなかったの、1年の頃の印象が強すぎて、あまり好きになれなかった。
でも、ある日…



___________



担任に頼まれごとをされて、たまたま通りかかった体育館裏。声に反応して見てみれば、例のエースくんの姿が目に入った。


慌てて校舎の影に隠れる。
そこから覗き見ると、3年生の軍団と対峙しているみたい。


「2年の火拳だな、たった1人でおれたちになんのようだ」


3年生の軍団のリーダーであろう男が馬鹿にしたように言うが、エースくんはいたって真面目に返した。


「お前らだろ?1年の奴らから金取ってんの、返せよ」


エースくんがそう言った途端に笑い出す軍団。自然とわたしの眉も寄った。


「ハハハッ!返せ?なんで?あれはおれたちにくれたもんだろ」
「お前らが無理やり出させたんだろうが」
「ケッ、だったらなんだっていうんだ?あぁ?」
「別にどうもしねぇよ、返す気ねぇなら奪い返す」
「お前1人に何ができんだよ」


いけ!リーダーの合図の後、1人、2人とどんどんエースくんに殴りかかっていくんだけれど、エースくんは1人で全員をあっという間に倒してしまった。


「すごい…」


最後に残ったのはリーダーただ1人


「ひっ、ひっ、ひぃぃ!」
「金返せば何もしねェよ」


エースくんがそう言うと男は金を投げ捨てて逃げて行った。


「あーあ、金投げんなよな…」


エースくんは辺りに散らばったお金を拾い集め始めた。わたしも近くに飛んできたお金を拾ってエースくんに手渡そうと近付いた。


「あっ!お前!いたのかよ!」
「うん、はいこれ」
「おぉ、サンキューな」


この時、エースのニッて笑顔を見て、この人は本当は良い人なんだって思った。わたし、噂に流されてたなんて馬鹿みたい。







___________


それから印象が変わって、仲良くなったの、まさか今まで同じクラスだとは思わなかったけど…」
「「エースくんカッコいい〜!!」」


話し終えるとみんな声を揃えてそう言った。
その時エースがわたしを呼ぶ声が聞こえた。


「青雉がかき氷作ってくれるって!!早く来いよー!」
「あ、うん!」








「はい!名前はエース起こしてくれたからサービス〜」
「あ、ありがと…」


青雉の訳のわからないサービスで器に氷を山程入れられた。それを蜜を掛けているエースへと渡す。


「名前はイチゴだろ?」
「うん!」
「さすがエースくん!名前のことよく分かってるのね〜」
「当たり前ェだ!何年の付き合いだと思ってんだ、ほら」
「ありがと…」


エースからイチゴ味へと変化したかき氷を受け取るとまたも女子会へ引っ張られた。
みんな様々な色のかき氷を手にし、わたしへと視線を向けている。


「で!エースくんと仲が良かったっていう、サボくんってどんな人だったの?超カッコいい!って噂だけど!」


みんなサボのことも知ってるのかぁ。すごいな。


「サボはね…、エースとは反対で頭も良くて、紳士って感じだったな…でも悪さもしてた、顔は……うん、すっごくいいほうだと思う」


この間会った時は髪が伸びててびっくりしたけど、ちゃんと似合ってて相変わらずモテてるみたいだったし。


「今はどこにいるの?」
「本人はウチに来たかったみたいだけどね…サボの親厳しくて、卒業したら自由にしていいって約束で、今はゴア学園高校って進学校に通ってる」


サボも相当悩んだらしいけど、たった3年間の高校生活よりその後の長い人生を自由に過ごしたいから今は辛抱するって言ってた。そんな大人なサボの考えを聞いても、エースはウチに来い!って必死に説得してたけどね。


「エースくんとはまた違ったいい男か…」
「会ってみたいなぁ…」
「あ、文化祭来るって言ってたよ」

「「ほんとに!?」」


みんな一斉に身を乗り出してわたしの顔を見た。う、うん。と返すとやーん!とまた上がる声。


「あたしダイエットする!!」
「わたしも!」
「サボくん…!」


みんな頭の中で好き勝手にサボを想像してる。
ごめんサボ!物凄くハードル上がっちゃった!その時、青雉がかき氷の入った器を腕いっぱいに持ってきた。


「おかわりいるでしょ〜?持ってき…「「いらない!」」……あらら、どうしちゃったの」
「はは…」
「しかたない、これエースにやるか」


珍しくみんなの為にやる気だった青雉はしょんぼり肩を落としてエースの元へ去って行ってしまった。



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