到着しました。とメールを送ってすぐにモビーハウスの門に先輩がやって来た。


「おはようございます」
「おはよう」


わたしが挨拶すれば先輩も笑顔で返してくれたけど、先輩は何やらバイクを押して来たみたい。

「ちょっと待ってくれよい」

そう言い軽くハンドルを回すと、途端にブォンブォンッ!と音が鳴った。


「良かった、動くな」


エンジンが動くのを確認した先輩はわたしにヘルメットを渡し、代わりに荷物を取るとバイクの収納スペースへと入れた。

そしてバイクに跨ると、乗れよい。と一言そう言った。

先輩の場合ちょっと違う一文字が付いてるけど、これって女子が言われてキュンとする台詞ランキングの上位に入ると思うんだよね。先輩カッコ良いし。

でもわたし、バイクに乗った経験がないから、正直恐怖の方が勝っている…。


「バイクって、お、落ちないですよね…?」
「そんな馬鹿みたいにスピードは出さねェよい」
「で、ですよね…」


自分史上最速の乗り物と言えばエースの運転する自転車だけど…、さすがに車やバイクには負けるよね…。エースの後部座席であれだけ怖いのに大丈夫かな…。
でも先輩はスピード出さないって言ってくれてるし、大丈夫…だよね。

意を決してヘルメットを被り、バイクの後部座席に跨った。

自分でもかなりぎこちなかったと思う。それを見て先輩はフッと笑った。


「やっぱりスピード出そうかねい」
「え!?」


驚いたのもつかの間、腕を掴まれて先輩のお腹の前まで引っ張られた。


「だから、ちゃんとおれに捕まってろい」
「は、はいっ」


先輩の背中に顔がくっ付いた。
そんなさらっとそんなことができるってカッコいいなぁ。

バイクが動き出し、風が自転車とは比にならないことがわかると、思わず、先輩のお腹に回した手に力が入った。


「こっ、怖いです…」
「大丈夫だよい、おれがいる」


なんだろう…今日の先輩カッコ良くない…!?





「うわァ〜!海〜!」


バイクをとめ、浜辺へ降りてくると海特有の潮の香りや波の音がした。

でも…

「結構混んでますね…」

もう、人、人、人、家族連れや、ムキムキのお兄さん、そして、ビキニのお姉さんなどなど…、いろいろ目のやり場に困る。
なんだか、想像してた海デート的なのとは程遠いなぁ。


「まァ、夏真っ盛りだからねい」
「そうですよねぇ」


確かに、夏休みって、どこ行く?海ー!ってなるもんね。


「水着は持ってこなかったのかよい?」
「あー、はい、持ってきてないです」


悩んだんだけど、マルコ先輩は入らないって言うし、1人水着ではしゃぐっていうのも…ね…。

「まぁ……うん…、それでも良いんじゃねぇかよい」

ちょっと!人の身体上から下まで見ないで!そして残念そうな声を出さないで!今日の先輩カッコいいと思ったの取り消し!


「先輩に見せるものは何もありませんーだ。その辺にいるナイスバディなお姉さんでも見てて下さい!」


そっぽを向いて口を尖らせると、頭に手を置かれ、そう拗ねるなよい。と撫でられた。
うん…やっぱカッコいい…。


「さて、行くかねい」
「え、行くって…この海水浴場じゃないんですか?」
「名前、クジラは好きかい?」


クジラ?や、なんか話がぶっ飛んでる気がするんですが。
不思議に首を傾げるわたしに、マルコ先輩はニヤッと笑うと、着いて来い。とわたしの手を引いて歩き出した。

暫く歩き、海水浴場はもう遠く、灯台の近くまで来ると、何やら頭にお花の様なものを乗せたおじさんがいた。


「えっと、この人は…?」


マルコ先輩の知り合いかな?


「人に質問する時は、まず自分から名乗るのが、礼儀ってもんじゃないのか?」
「あ、ごめんなさい、わたしは…」
「私の名はクロッカス、この岬の灯台守をやっている、歳は71歳、双子座のAB型だ」
「自分から言うのかよっ!」


しかも凄くいらない情報まで!
なんとも不思議なクロッカスさんとわたしの会話をマルコ先輩はクツクツ笑いながら聞いていた。そんなマルコ先輩に気付いたらしいクロッカスさん。


「なんだ、お前か…白ひげの所の…」
「マルコだ、いい加減覚えてくれよい」
「今日は何の用だ?」
「この子にクジラを見せたくてねい」
「ラブーンか、構わん、こっちに来い、今呼んでやる」


クロッカスさんについて行き海の所まで行くと、ラブーン!とクロッカスさんが海に向かって呼びかけた。

するとすぐに海面がブクブクと泡立ち始め、大きな音と共に海面から出て来たのは大きなクジラ。


「うわぁ…!」


ゴオオオオオオオオ!


「こいつはアイランドクジラ、世界一デカイ種類のクジラだ。名前はラブーン、こいつは頭が良くてな、人の言葉を理解している」
「へぇ…!えっと…、ラブーン!」


わたしが呼べばギョロッと大きな目がこちらに向いた。

ちょっと怖い…、って、あれ?ラブーンの頭…


「クロッカスさん、ラブーンの頭に傷があるみたいなんですけど…?」


下から見るだけだからちゃんと確認出来ないけど、結構深そう。


「まだ頭ぶつけてるのかよい?」
「いや、今はもうしていない、ある男がやめさせてくれたのだ」
「そうかい」
「ラブーン、見せてやれ」


クロッカスさんがそう言うとラブーンは身体を沈め、頭をわたし達に見せてくれた。


「あっ!これ!」


ラブーンの頭には麦わらをかぶった骸骨のマーク、ヘタクソだけど間違いない、これルフィくんのマークだよ!


「これは麦わらとの約束の証なんだ。な、ラブーン」


ゴオオオオオオオオ!


ルフィくんとの間に何があったのかは分からないけど、ラブーンもクロッカスさんも嬉しいそうにしている。

彼の事だ、きっとまた良いことしたんだろうな。






「あ、マルコ先輩、今何時ですか?」



そう聞くと、マルコ先輩はポケットからケータイを取り出した。


「12時回ったくらいだよい」
「もうそんな時間!?」


ラブーンと戯れててすっかり時間を忘れてた…。
だってラブーン可愛いんだもん、ジャンプ!って言えばジャンプしてくれるし、おかげで跳ねた水でびしょ濡れだけど…。ま、こんなに太陽が照ってて暑いし、すぐに乾くよね。


「時間なんて気にして何かあるのかよい?」
「ふふふ…マルコ先輩お腹空きません?」
「まぁ…それなりに空いたな、腹減ったのか?おれなんか買って…」
「違いますよ!」


いや、違くないな、お腹は減った。でも違う。


「実は、わたしお弁当作って来たんです!」


エッヘン!と腰に手をあててみる。するとポカンと驚いた顔をしているマルコ先輩。


「おれの為に…?」
「もちろんです!前に作ってくれって、言ってくれたじゃないですか」


そう笑顔で言っても、マルコ先輩はさっきと変わらず驚いた顔のまま。


「あんなの…覚えててくれたのかよい…」
「当たり前じゃないですか」


ちゃんと覚えてる。体育祭の日、わたしのお弁当食べて言ってくれた。今度おれのも頼んでいいかよい?って、しかもニコッて。

クラスの女の子達みんな倒れてたなァ。


「名前」


名前を呼ばれ、何かと思えば急に抱きしめられた。


「えっ…せ、先輩…?」
「名前…」
「先輩…」


何を言っても名前を言うばかり、それにギュウギュウとキツく抱きしめられているため動けず、されるがままになってしまった。


「取り込み中悪いが、その弁当とやら私にも食わせろ」


今の状況でこれを言うなんて、クロッカスさん……。


「名前、悪ィ…」
「いえ。た、食べましょ!」


ラブーンのいる海の近くにシートを轢いて、その上に持って来たお弁当を広げた。


「どうですか…?」
「美味いよい」
「よかった…!」
「これは美味い!ラブーン!お前もいるか?」

ゴォォォォン!


クロッカスさんがラブーンの口目掛けてエビフライを投げた。

ゴォォォォン!


「美味いって言っておるぞ」
「ラブーン!」


わたし、嬉しいよ…!ラブーンにとっては米粒サイズのエビフライなのに!


「ラブーン!大好き!」

「お前ラブーンに取られるぞ」
「そんなヘマしねェよい」


足りなかったかなと思うほどの食べっぷりで、あっという間にお弁当は空になってしまった。

ラブーンもいつくか食べてくれて全部美味しいって言ってくれたし。


「美味かったよい、ありがとな」


マルコ先輩もそう言って頭を撫でてくれたし、作ってきてよかったなぁ。


「じゃあおれ達は行くかよい」
「はい!またねラブーン!クロッカスさんもまた」

ゴォォォォン!

「あぁ、またいつでも弁当を持って来なさい」


あ、 お弁当は持って来なくちゃいけないのね。



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