海水浴場へ行くのかと思いきや、そこを素通りし、人気の少ない浜辺へと着いた。


「折角海に来たんだ、ちょっとくらい水に触れたいだろい?」
「はい!」


わたしはサンダルを脱ぎ足を水につけた。


「気持ち良い!ほら、マルコ先輩も!」
「あっ、おい!」


近くで突っ立っている先輩を無理矢理引っ張り水の所へ連れて、丁度足首程度まで浸かった。


「いくらマルコ先輩でもこれくらいじゃ溺れませんね」
「喧嘩売ってるのかよい?」


先輩は複雑にわたしを見ると、すぐにニヤリと口端を上げた。え?と聞く間もなく、先輩はわたしの脇腹を狙って擽り出した。


「ちょ、せ、先輩っ!こ、コケます!」
「転んでもこのくらいじゃ溺れねぇだろい?」


く、くそぉ…!

こうなったら道連れに…

バシャン!


転ぶ寸前、マルコ先輩の服の裾を引っ張り2人仲良く水の中へ。
直前でマルコ先輩が庇ってくれたのでわたしは先輩のお腹の上に着地した。


「「ぷっ」」


2人で顔を合わせ同時に吹き出した。


「あっはははは!マルコ先輩ビチョビチョ!」
「名前こそ、髪が昆布みたいだよい!」
「な!ひどーい!」


ひとしきり笑った後は取り敢えず日の当たる所へ行って服を乾かした。


「おれ、何か飲み物買って来るからよい、ここで待ってろい」
「はーい」


砂浜に座ってマルコ先輩の帰りを待っていると、とてもチャラそうな軍団が近づいて来た。


「お姉さん1人?」


なんか…これ前にもあったような…。
一応、キョロキョロと周りを見回してみるが、お姉さんと呼ばれるような人はどうやらわたし1人のようだ。


「君だよ君」
「暇ならさおれたちとどう?」
「…」


どうしよう…変に刺激すればまた前みたいになっちゃうかもしれないし…、先輩まだかな…


「無視?傷付くよ俺達」
「ねェ、返事くらいしようよ?」


そう言って顔を覗き込んでくる。


「つ、連れがいます…」


走って逃げようかとも思ったけど、四方を囲まれて逃げ場がない。
視線を合わせないようにしていると、突然顎を掴まれ無理やり視線を合わされた。


「いっ…」
「話す時は相手の目を見て話すんだよ、学校で習わなかった?」


目を細めて静かな声でそう言う男の人に背筋が寒くなった。


「その手を離せよい…」
「あぁ!?」


わたしの顎を掴んでいる男の後ろを見ると、ジュースの缶を二つ手に持ったマルコ先輩が立っていた。

なんだか、雰囲気が違う。


先輩は無言で男達に近付き、振り返った男を脚で蹴り上げた。


「グァッ!」


一瞬、その人が宙に浮いた。そのくらいの威力。
蹴られた男がドサリと地面に落ちると、周りの男たちも一歩引いた。


「こ、こいつやべぇ!」
「いくぞ!」


蹴られた男のことも2人で肩に担ぎ、男達はさっさと去って行ってしまった。するとすぐに駆け寄ってくれるマルコ先輩。


「名前大丈夫かよい?」
「だ、大丈夫、です…」
「お前…震えてる…」
「えっ…」


知らないうちに手が震えてしまっていた。前にも似たようなことがあったし、いろいろ思い出しちゃったみたいだ。
慌てて手を摩ろうとしたけど、そ手も震えていて大きくなった気がする。


「名前」


先輩はしゃがんで膝を着くと、わたしの頭を胸に押し付けて背中を叩いてくれた。


「もう…大丈夫だからねい」



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