「ここ…どこ…!?」


最悪だ…逸れた…。迷った…。

シャボンディパークを出て、行きと同様、長い足でズンズン歩いて行くローくんに遅れまいとついて行ってたのだけど、帰りは足が疲れているというのもあって物の見事に逸れてしまった…。

辺りも暗くなって来たし、周りには誰もいない。シャボンディ諸島の一部は危ないなんて情報を今になって思い出し不安が募った。

あ、そうだ携帯!

慌てて携帯を取り出し画面を開く。だけど、すぐに希望は消えた。


「あぁ…」


画面には?充電して下さい?の文字

あんなにバシャバシャ写真撮るんじゃなかった…。1時間ほど前の自分を恨みたい気持ちでいっぱいだ。


「あら…?どうしたの、迷子?」


ガックリ肩を落とし途方に暮れていたところでかけられた声に驚いて振り向く。その声の方向にいたのは、綺麗なお姉さん。お姐さん?おばさま?


「こんな所にこんな可愛らしい子がいるなんて珍しいわね」
「あ、つ、連れと逸れてしまって…」
「あらそうなの、だったらウチに来なさい、ここももう暗くなるし、お嬢ちゃん1人でここにいるのは危険だわ」


そう優しく声をかけてくれたお姉さんはシャッキーさんという方で、とあるBARを経営しているんだとか。1人でいることが不安でいっぱいだったわたしらシャッキーさんのご厚意に甘えさせて頂いてお邪魔させてもらうことになった。


「ここよ」

?シャッキー'sぼったくりBAR?

途端に身体がが強張る。
なんか、危険な香りが…。コーヒー1杯て凄い額とか請求されるのかな。自分の財布の中身を確認したい…!
しかし今更帰るとも言えず、お店の中にお邪魔した。


「ここに座って」
「し、失礼します」


席に座り店の中を見渡してみるが、特に変わった様子はない。BARという大人びた雰囲気もなく、ちょっとしたカフェのような感じだ。


「さ、良かったらどうぞ、オレンジジュースよ」


き、来た…!喉はすっごく渇いてるけど…、大金は持ち合わせていない…!!

ゴクリ…。

喉を鳴らしてそのオレンジジュースを見つめるわたしにシャッキーさんは不思議そうな視線を送った。


「あら?もしかして嫌いだった?」
「い、いえ…」


飲みたいのは山々なんだけど…。
ジィーっと食い入るようにオレンジジュースを見つめていると、シャッキーさんがクスリと笑った。


「もしかして看板のこと気にしてる?大丈夫よ、お嬢ちゃんみたいに可愛い子からはお金取らないから」
「ほ、ほんとですか!あ、ありがとございます!」


そう言われてゴクゴクとオレンジジュースを飲みほした。ふあー。と力が抜けた声が出て、シャッキーさんがクスリと微笑んだ。


「美味しい!」
「ふふ、良かった。ところであなたお名前は?」
「あ、名前です!苗字名前」
「あぁ、ワンピース学園の子ね」
「え?わたしのこと知ってるんですか?」


びっくりだ、わたしは初対面だと思ってたんだけど、何処かで会ったことあったのかな?


「あたし結構情報通なのよ、あなた火拳や不死鳥と仲良いでしょ」
「た、確かにあってます!」


シャッキーさん曰く、情報は武器なんだとか。それにしてもこんなに離れたところでもエースやマルコ先輩の名前は轟いてるんだね…。


「もしかして、連れっていうのは、そのどちらか?」
「いえ、今日はトラファルガー・ローっていう子と来たんです」
「あぁ、噂のルーキーね」


ローくんのことも知ってるんだ…!て言うか、


「るーきー?」
「えぇ。キッドやルフィ、アプー達と同じ世代の問題児よ」


よく分かんないけど、悪い方で有名らしい。それにしてもとても聞き慣れた名前も出てきて驚いた。


「ルフィくんもなんだ…」
「あら、モンキーちゃんの知ってるのね」
「あ、はい」
「あたしモンキーちゃんのファンなのよ、最近は会ってないけど彼元気にしてる?」


またもやルフィくん関係の方。彼の交友関係には毎度毎度驚かされる。

少しシャッキーさんと話していると、お店の扉が開いて、白髪で右目に縦傷があるおじいさんが入って来た。

お客さんかな。わたしはここにいて良いのだろうか…。


「おや、誰か来ているようだね」
「あら、レイさんもう帰って来たの?今回は早かったのね」
「ただいまシャッキー、その子はお客さんかな?」
「あ、おじゃましてます」
「はは、礼儀正しいお嬢さんだ、わたしはレイリー、レイさんと呼んでくれ」


慌てて立ち上がりお辞儀をすると、レイさんは優しく微笑んでくれた。

ってあれ?レイリー…?
なんか、どこかで聞いたような…。


「ところでお嬢さんのお名前は?」
「あ、苗字名前です」
「彼女、モンキーちゃんの知り合いなのよ、同じ学校に通ってるんですって」
「おぉ、ルフィの知り合いか!彼は元気にやっているか?」
「あ、はい!今度、遊びに行くんですよ」
「そうか、元気にやっているならそれでいい」



レイさんは何かを懐かしむように優しく微笑んだ。

ルフィくんとレイさん…この2人の関係はなんだか特別なものみたいだ。エースやマルコ先輩と親父さんみたいな感じかな。


「名前ちゃん、こんな時間までいて大丈夫?ご両親が心配しない?」
「い、今何時ですか!?」
「8時過ぎくらいね…」


や、やばい…。

ウチは門限がある訳じゃないけど、家に帰るのが9時を過ぎる場合連絡しないと駄目なんだよね…。
今から帰っても確実に9時を過ぎる。連絡しようにもケータイの充電はないし…。


「おうちに連絡するなら電話貸すわよ?」
「ほんとですか!……あ」
「どうかした?」
「いえ、番号覚えてなかったです…」
「あら…」


わたしの大バカヤロウ…!!
シャッキーさんの憐れみの目がとても悲しくなってくる…。そこでレイさんが不思議そうに話に入ってきた。


「何か帰れない理由でも?」
「連れと逸れてしまいまして…ケータイの充電ないし、番号覚えてないし…それにこの島に来るのも初めてで、迷ってしまって」
「その連れというのは?」
「トラファルガー・ローですって、レイさん会わなかった?」
「あぁ、彼なら先程会ったよ」


え!?
思わず顔を上げレイさんを見た。


「誰かを探しているようだったよ。手を貸そうかと言ったんだが断られてしまってね。そうか、君の事だったのか」


良かった、探してくれてたんだ…。


「よし、なら私が送って行こう」
「え!」


レイさんは先程脱いだばかりの上着らしいものをまた羽織ると、わたしに、おいで。と言った。


「レイさんが彼の所に連れてってくれるんですって、良かったわね」
「え、でも大丈夫なんですか?」


さっき聞いたシャッキーさんの話じゃ、この辺は治安が悪くて夜になると更に危険度が増すんだとかで…


「大丈夫よ、レイさん強いから」
「あぁ、無事に彼の所まで送り届けよう」


微笑むシャッキーさんに少し不安を覚えつつも、その言葉を信じてローくんのところまで送ってもらうことにした。


「じゃあね、名前ちゃん、またいつでもいらっしゃい」
「はい!本当にありがとうございました!」
「よし、わたしから離れないようにね」
「はい!」


BARを出ると、途端に真っ暗な外の様子に身体が強張った。すると、それを察してくれたのかレイさんが腕持っていてもいいよ。と言ってくれ、わたしは遠慮なくレイさんの腕にしがみついた。


ガサガサッ!


「ひっ!」
「ははは、大丈夫、ただのくまだ」
「く、くま!?」


そんな普通にいるものなの!?
思わずレイさんの腕を掴む力を強くするとレイさんは楽しそうに笑った。


「こんな若い女の子と歩くのは久しぶりで楽しいね」
「そんな呑気なものじゃないですよ…!」
「ははは」
「ねぇ、レイさん、アテもなく歩いてますけど大丈夫なんですか?」
「あぁ、大丈夫、彼らまでもう少しだ」


もう少しって、なんで分かるんだろう?
わたしの頭にクエスチョンマークが踊る。するとその時、水の様な音が聞こえた。

もしかして海が近いのかな?


「名前!」
「わ!」


名前の呼ばれた方を向くと、必死な表情をしたローくんがこちらに向かって走って来ていた。


「ローくん!」


わたしが思いっきりローくんに飛びつくと、ローくんは細い身体でもちゃんと受け止めてくれて、どこにいたんだ!と怒鳴られた。


「良かった!置いてかれちゃうかと思った!」
「バカか、お前置いて帰るかよ」


しがみついたままのわたしの頭を、ローくんはそっと撫でてくれた。


「ははは、おじさんはフラれちゃったね」
「あんたは…」
「レイさん!本当にありがとうございました!」


ローくんはレイさんを見ると驚いていたみたいだけど、わたしはローくんから離れてレイさんに頭を下げた。


「また店に遊びにおいで、もう逸れないようにね」
「はい!」


わたしが頭を上げ、笑うとレイさんも優しく微笑んでくれた。シャッキーさんにレイさんに、すごく良い人たちに出会ったなぁ…。


「フッ。一日に二度も会うとはな…冥王シルバーズ・レイリー」


突然わたしの後ろからローくんが発した言葉をわたしは不思議に思い頭の中で反芻する。
冥王…?ナニソレ。


「その名前ではあまり呼ばんでくれるか、今はコーティング屋のレイさんで通っている」


やっぱり、レイさんは只者じゃないんだ。そんな予感はしてたけど、そう思うと凄い人に助けてもらったんだなぁ。


「シャンクスやルフィは元気にやっているか」
「赤髪屋は今や四皇、麦わら屋も大問題ルーキー」
「はは、あいつは昔から凄い奴だった。ルフィも…、そうか。あいつも凄い、君も油断は禁物だよ」
「ハッ、言われなくてもしねぇ」


2人のスケールの大きそうな会話には完全に置いてけぼり。
それに、レイさんはシャンクス先輩とも知り合いだったみたい。

……あれ?
シャンクス先輩…シャンクス先輩…。


「あぁーっ!!」


そっか!


「レイさんはあのレイリーさんなんだ!」
「そんな当然のこと言ってどうした」
「はは、やっぱり君はおもしろい子だね」














ガチャ…


現在の時刻23:48
あれからレイさんと別れてロー君に超特急で送ってもらったのだけど、9時どころか日付が変わるギリギリに家に到着した。家まで送ってくとローくんは言ってくれたけど、もし親にローくんと会ってたなんてバレたら、ローくんが悪者になっちゃう気がした。それにローくんのご両親だって心配してるかもしれない、だから丁重にお断りした。

ゆっくりゆっくりドアを開け家の中を覗いてみても、家中の電気は消されているらしく真っ暗だった。
お母さんもお父さんももう寝たんだろうな。

このまま気付かれないように…

そっと玄関のドアを閉めた。

カッ……チャンッ……


任務は成功したとでも言うようにふぅ。と一息吐く。するとパチンと音が鳴り、途端に視界が明るくなった。


「おかえり」
「ひいっ!」


振り向いて見ればまず目に入ったのは満面の笑みを浮かべた母。途端に血の気が引いた。


「問題です、今何時でしょうか」
「じゅ、11時…ご、50分です…」
「では、何時を過ぎるときに連絡しなければならないでしょうか」
「く、9時ですっ」
「まったく!あんたって子は!」


パチン!
頬に痛みが走り咄嗟に手で抑える。


「痛っ!だ、だって、ケータイの充電切れちゃったんだもん!」
「言い訳は聞きません!次出かける約束があるのいつだっけ?」
「8日からエースの家に泊まるけど…」


う、嫌な予感…!!


「それまで外出禁止!家で大人しく宿題でもやってなさい!」
「そんなぁ!!」


必死で反論するも、うるさい近所迷惑!と取り合えってもらえず、母は寝室へと入っていった。
ハァとため息を吐き、わたしは部屋に戻って、すぐにケータイを充電した。

ポァンと音が鳴り電源が入れられたことがわかった。画面を見ると、着信38件の文字。

「おっ…つ」

その内訳は、母から18件で残りは全てエース。
親より多いってどゆこと。思わず顔を引き攣らせると、タイミング良くケータイが鳴り着信を知らせた。
表示された名前はポートガス・D・エース。


「もしもし…」
《名前ッ!?無事かァ!?》


あまりの大声に思わずケータイを耳から離す。
なんか、エースとの電話って毎回耳から離してる気がする…。

電話の向こうでは「名前が出たぞ!」「名前大丈夫なのか!?」「おいエース!わしにも代われ!」

などなどエース、ルフィくん、ガープ先生の話し声が


「無事だけど、どうしたの?」
《お前、今日外科医と出かけるっつってただろ?心配で電話したら出ねェから、なんかされてんじゃねェかと思ってよ》


心配性の父親か…!!
うちの父でも娘の帰りを待たず爆睡していたというのに。
でも、心配をかけた手前この状況を説明しないというのも失礼な話だよね。


「ケータイの充電切れちゃってたの、ごめんね」
《そっか!無事ならいいんだけどよ》


きっと電話の向こうで笑ってくれているのだろうエースが浮かんで笑みが浮かんだ。


「なんかホントごめんね、心配してくれてありがとう」
《えーんじゃぞぉ〜!名前にはエースの嫁になってもらわんといけんからのぉ〜!》
「はい?」


いきなり声が変わったかと思えば聞こえたガープ先生の声。というか突然何を言いだすんだ。するとすぐに電話越しにエースの声が聞こえた。


《おいジジィ!人のケータイとんな!あー、名前気にすんな!いつもあんなだから》
「え、いつも!?」
《おー、結構前からだぞ》


いつのまにガープ先生の中でわたしはエースの花嫁候補に挙がったんだろうか。
特にわたしアピールしたつもりないんだけど?


《あ、名前、明日ひまか?》
「ううん、ごめん、今日遅くなったからお母さんに外出禁止って言われちゃった」
《えー!まじかよ!》


おばさん厳しいな!!
他人事だから、少し可笑しそうに笑うエースには、わたしも笑い返すしかできなかった。


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