「えっ、先輩どこ行くんですか?」
「いいからついて来いって」
もうすぐ花火が始まるというのに、先輩は人混みをはずれ、林の方へと歩いて行くが、花火を見るところからは少し外れていている。わたしは手を引かれ、少し不安ながらも先輩についていった。
「ついた」
「ここ…ですか?」
「あぁ」
林を抜けた先には何もなく、場所の特徴は少し小高くなっていて人はわたし達以外誰もいなかった。
「見てろ」
先輩に並んでその視線の先、少し右側を見つめる。すると下方からひゅーーと音を立てながら光が昇ってきた。その光は空高くまで上がると、バァーーーンと音を立てて綺麗な花を空に咲かせた。
「わぁ…!」
思わずそんな声が出た。遮るものが何もないので、とっても良く見える。こんなにも何も障害なく花火を見たのは初めてかもしれない。
「綺麗…」
「ここ穴場なんだよ。まぁ、正面じゃねェけどな…」
「いや、すっごく見やすいですよ!」
「そりゃ良かった。座るか」
そう言ってシャンクス先輩が芝生に座り、その隣にわたしも座った。わたしが持っていた袋から微かにソースの良い香りがして、お腹がぐぅ。と鳴った。正直なお腹に驚いてわたしが慌てて抑えるとシャンクス先輩は大きな笑い声を上げた。
「おれ名前のそういうとこ好きだぜ」
「…どっ、どういうとこですか!」
「はっはっ、まぁ食おうぜ」
「…食べます」
わたしが袋から取り出してその蓋を開ければ、さっきまで微かだった香りがさらに強くなった。先輩もうまそ〜!とわたしの手の中にあるものを覗き込んだ。
「爪楊枝どうぞ」
「……」
「先輩?」
「おれ今手塞がってるんだよなぁ」
「はい?」
わたしが不思議に首を傾げると、先輩はわたしの手を握って見せるように上げた。離せばいいじゃないか。と思ったのだけど、こちらへ向け、あ。と口を開いたので、もう諦めることにした。
仕方ないな、全く。先輩ってたまにエースみたいなところあるよなぁ…。
わたしはたこ焼きに爪楊枝を刺し、先輩の口元に運んだ。
「お前なぁ、こんな熱いの食ったら口ん中大火傷じゃねェか。エースじゃねェんだからちゃんとフーフーしてくれ」
「もう、注文多いですね…」
今度はフーフーと冷ましてから、また先輩の口元に運ぶ。先輩はパクリと一口で食べると、途端に顔を緩ませた。
「うっめェ〜!こりゃ最高だ」
「そっ、そんなにですか…!?」
「あぁ、名前も食え食え!」
それじゃあ。とわたしはもう一つ爪楊枝で取って自分の口へ運んだ。少し熱かったけれど出汁がしっかり効いていて、何よりもソースが他と違うと素人の、わたしでもわかるくらい美味しい。
「最高…」
2人して花火を忘れるくらいこのたこ焼きに夢中になって食べ進めた。もらった分のたこ焼きがなくなったところでようやく花火へと視線を戻す。
その時繋がれていた手が離され、シャンクス先輩がごそごそとポケットの中を漁り始め、探し出したらしい何かをわたしに手渡してくれた。
「これ新世界のお土産だ」
「わっ、ありがとうございます!新世界に行ってたんですね」
「あぁ、色んな島を回ったぜ」
手渡されたのは小さな茶色の紙袋を受け取ると、そういえばここ最近はシャンクス先輩には会っていなかったな。なんて思う。1人納得していると、開けてみ。とシャンクス先輩に促された。
わたしは紙袋を留めてある可愛らしいシールを破かないようゆっくり剥がした。そして、中身を手のひらに乗せた。
「かわいい…!」
それは、青や水色といった石かビーズのような物で作られたブレスレットで、花火の光でキラキラ輝いてるみたい。
「海をイメージしてるんだそうだ。名前に似合いそうだったんで買ってみた」
「ありがとうございます…!!」
ニッ!って素敵な笑顔を見せてくれた先輩にわたしの顔も少し赤くなった気がした。
「付けてくれるか?」
「もちろんです!」
貰ったブレスレットを眺めていると先輩が口を開いた。
「8月に入ったら、またベックマン達と新世界に行こうと思ってんだ」
「そうなんですか!楽しそうですね!」
「あぁ!新世界にはたくさんの島があってさ、それぞれに特有の文化があって、いろんな経験ができる!これ以上ワクワク出来ることはねェよ」
本当に旅が好きなんだなぁ…。先輩の楽しそうな顔を見ればわかる。冒険の話をする先輩の横顔は、キラキラと輝いていて、花火なんてそっちのけで見入ってしまった。
「おれは世界中の島を回って、いろんな経験がしたいんだ」
「そ、そうなんですね」
シャンクス先輩って、学校の最上階に勝手に部屋を作って、溜まり場にしているただの不良だと思ってたけど…、ちゃんと好きなことがあって、それを堂々と語れるって、とっても素敵だなぁ…。
「名前のことも、今度連れてってやるよ」
「はいっ、楽しみです!」
「おれは本気だぜ?」
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