「暇……」


夏休みに入って早いもので一週間が経った。わたしは夏休みを満喫中…ではない。毎日お昼前に起きて、朝昼兼用のご飯を食べて、クーラーの効いた部屋でゴロゴロとする生活を続けている。宿題などを始める気にもなれないが、そんな生活にも飽きてきた。そろそろ誰かを誘ってどこかへ出かけるのもありかなと思ったその時、机の上に置いていた携帯電話が鳴り、メールの受信を知らせた。

誰かからのお誘いだと嬉しいな。
そんな風に思いつつメールを開くと、その送信者はシャンクス先輩だった。それもその内容もとても嬉しいもの。


《今夜、花火大会があるんだ
一緒に行かねぇか?》


こんなうれしい誘い断るはずがない。とわたしは女子高生の得意技、メール早打ちですぐに返信する。


《行きます!どこでやるんですか?》

《おれの地元のな、西海町なんだが、大丈夫か?》

《分かりました!わたしバスで行きますね》

《そうか、だったら6時半にこっちに来てくれバス停まで迎えに行くから》

《りょうかいです!》



西海町ならバスで30分くらいの距離だ。わたしは携帯電話を置き、自分の今の恰好を確認した。


「これは…、ダサい…」


今日も予定なんて何もなかったものだから、部屋着のままだし、髪もボサボサだし…、こんなんじゃ女捨ててると思われてしまう。あんなにイケメンのシャンクス先輩に会うんだからちゃんとしていかないと。





プップー


うぅ…苦しい…。


思わず声が漏れそうになるほどの満員バスに揺られ、西海町へ向かう。みんな花火大会に行くのか、バス停に止まる度に人が乗ってきて、きっと乗車率はすごいことになっていると思う。


「次は〜西海町、西海町です」

アナウンスが鳴り、ようやくこの息苦しさから解放される。とわたしは一人安堵の息を溢した。西海町に着くと、雪崩のように人が降りて行き、わたしも流されながら外に出る事ができた。


「ふぅ…」
「名前ッ!」
「あ、シャンクス先…!」


か、かっこいい…!!
思わず先輩の姿を見つめたまま固まってしまう。そんなわたしを先輩はどうした?なんて覗き込んできて、思わず一歩後ずさった。


「せ、先輩、甚平なんですね」
「あぁ、どうだ?似合うか?」
「はいっ!すごく…かっこいいです!」
「そっか!ありがとな」


そういってわたしの頭に手が伸びると、軽く撫でられた。シャンクス先輩の姿を見ていると、自分も浴衣を着てくればよかったな。なんて少し後悔。母に勧められたけれど、一人で着ても何浮かれてるんだなんて思われるかもと断ったのだ。母よ、あなたは正しかったよ…。


「よし!じゃ行くか!」


そう言って先輩が右手を出してくれて、少し恥ずかしいと思いながらもわたしはそこに左手を重ねた。


「わ…、出店も結構あるんですね」
「あぁ、花火は7時からだから、それまで店回ろうぜ」
「はいっ!」


お店も人もたくさんで、すごく賑わっている。何人かで来ている人達や、恋人もたくさんいた。わたし達はどう見えてるのかななんて考えると少し恥ずかしくなった。


「腹減ったな、何か食うか!」
「はい!全部の店制覇しましょう!」
「おま、太るぞ」
「もう太ってます〜」
「まだセーフだぞ。だかなぁ…、おれ的には胸がもうちょっと…」
「先輩セクハラですっ!!あ、りんご飴発見!」


セクハラしてくる先輩はほおっておいてりんご飴屋さんに走った。後ろから、逸れんなよー。なんて声が聞こえたけれど、無視だ無視!


「おじさん!いちご飴一つ!」
「あいよ!」
「お前、りんご飴!って走ってったのに、いちご飴買うのかよ」


シャンクス先輩の声が聞こえたと思えば、ポン。と頭に手を乗せられた。


「わたしいちご好きなんですもん」
「へぇ〜、じゃ今度珍しいいちご買って来てやるよ」
「わぁ!先輩大好きです!」
「現金なやつめ」


ふふと笑い合う。シャンクス先輩と会うことは少し緊張していたけれど、全然気を遣う必要なんてなかった。シャンクス先輩も単なる気まぐれでわたしを誘ったんだろう。
シャンクス先輩はたこ焼き食いたいなー。そう言ってわたしの手を取ると、近くにあったたこ焼きの屋台まで歩いて行った。


「たこ焼きくれ!」
「ニュ〜、ちょっと待ってな兄ちゃん」
「お!お前、魚人か?魚人島から来たのか?」
「ニュ〜、そうだぞ!ここの花火は毎年すげェからな!」
「魚人島は花火は出来ねェらしいからなぁ、だがおれはあの島好きだぜ」
「お前ェ魚人島に行ったことあるのか!良いところだろ〜!」


どうやら、たこ焼き屋さんは魚人島出身なようで、お2人、凄く盛り上がっている。


「ニュ!お前レイリーのとこにいたのか!」
「おぉ!レイリーさんを知ってんのか!」

どうやら2人、共通の知り合いがいたらしく、意気投合したみたい。わたしはさっぱりわからないけれど、レイリ―の知り合いなら金は取らねぇよ。とたこ焼き屋さんのハチさんはわたしたちに一船サービスしてくれた。


「ありがとな!」
「気にすんな!」
「そう言えば名前、修学旅行に魚人島だって言ってなかったか?」
「あ、はいっ」
「ニュ〜!そうなのか!だったら……ケイミー!」
「はーい!はっちんどうしたの?」


屋台の後ろで作業していたらしい女の子が出てきた。しかもとっても可愛らしい。


「この子が今度魚人島に来るらしいんだ、ケイミー案内してやってくれ」
「そうなんだぁ!いいよ〜、お名前は?」
「あ、名前です!」
「名前ちん!あたしはケイミーだよ、よろしくね〜!」


ケイミーへ人魚らしくて、今デザイナーになるため師匠のもとで勉強中なんだって。その合間にハチさんのたこ焼き屋さんを手伝ってるらしい。すごくフレンドリーで少し話しただけで仲良くなれた。


「ルフィちん達は恩人なんだよ」
「ニュ〜!お前ェら麦わらの知り合いなのか〜!?」


それにこの人たちルフィくんの知り合いでもあったみたいで、さらにシャンクス先輩も交えて盛り上がっていた。


「じゃ、おれたちはそろそろ行くよ」
「ニュ〜、また来てくれ!」
「ケイミーもまたね」
「名前ちんが魚人島に来るの楽しみにしてるね〜」


わたし達は、たこ焼きの入った袋を大量に持ち、花火の会場へ向った。



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