キーンコーンカーンコーン


「やめ!こらそこ!ペン置く!」


今日はテスト最終日


「お、終わった〜」


白ひげの皆のおかげでこれまでにないくらいの手応え、それについこの間まで流れていたルッチさんとの件も嘘だという情報が流れ一件落着。

後は水泳大会が終わればすぐに夏休み!!

なのに…、やっぱりスッキリしない…原因は分かってる。マルコ先輩だ。
あのキスの日以降数学はなかったし、モビーディックハウスで会っても、目を逸らされてすぐに部屋に戻って行ってしまっていた。
テストもあったから無理に話そうとはしなかったけど、今日でテストは終わったし会いに行ってみようかなぁ…。そうしよう!と決意を固めたところでガバッと効果音付きでエースが振り返った。


「な、何…?」
「あのさ、8月の8と9って空いてるか?」


何もなかったよね?と心の中で確認し、空いてるよ。と答えた。すると目の前の顔がパァッと笑顔になる。


「だったらさ、おれんち泊まりに来ねェ?サボが泊まりに来んだけどな、ジジィが鍋するから名前も呼べって言ってんだよ」


この季節に鍋って…ほんと常識に囚われない一家だよなぁ…。でも、鍋好きだし、サボにも会いたいし!


「行かせていただきます!」
「よっし!」


ガッツポーズをとるエースを見てぼんやり思った。そういえばエースの家に入るの初めて…?
家に行ったことはあるけどエースを迎えに行っただけだったし…。どんなのなんだろう。男だらけの家って…、やっぱり散らかってるのかな?ちょっと楽しみになって来た!


「あ、その日母さんも帰ってくるかもしんねェけどいいか?」
「え、そうなの?」


エースのお母さんかぁ…興味ある…!!エースとは中学からの付き合いだけどお母さんには一度も会ったことがない。普段は遠くにいるらしくてなかなか会えないらしく、授業参観に来てるのも見たことがない…。エースと似てるのかな?

じーっとエースの顔を見つめる。

黒髪、そばかす、鋭い目、ムキムキ……

わたしの頭の中では凄く逞しいお母さんが出来上がってしまった。慌てて頭を振り、消し去る。


「なに人の顔見て頭振ってんだよ」
「い、いや、エースのお母さんどんな人なのかなぁって」
「どんな人ってなぁ…、おれより小さいぞ。目とかそばかすは似てるかもな!」


頭にはただのチビエースが浮かんだ。


「なんか、このエースを産んだ人だから凄い人なんだろうなって思って」
「おぅ!母さんは凄ェぞ!うちの癒しは母さんだけだ!」


その後も母さん母さんばっかり…。

普通、思春期の男の子って母親の存在が鬱陶しくなる時期なんじゃないの?

エースってただのブラコンだと思ってたけど、案外マザコン…?






しまった…。鯨さんの門まで来たのはいいのだけど。わたし暗証番号知らないし、門の側に呼び出しボタンらしきものも見当たらない。

入れないじゃん!

いつもはマルコ先輩や先輩達と来てたから問題なかったし、マルコ先輩の部屋に行く時はマルコ先輩にメールすれば中から開けてくれたから大丈夫だったけど…。今日はアポなしの訪問だからなぁ。どうしようかと1人で門の前をウロウロウロ…。その時救世主が現れた。


「名前?」
「サッチ先輩!」


振り返ればたくさんの買い物袋を抱えたサッチ先輩がいて、よっ。と笑ってくれた。


「どうした?ま、まさかおれに会いに…!?」
「あ、すみません。マルコ先輩に…」


拗ねたようにブーッと頬を膨らますサッチ先輩に苦笑を送った。一度咳払いをしたサッチ先輩は、言っとくけどな?と忠告のように切り出した。


「今のマルコ、最強に気持ち悪ィぞ!」
「そ、そうなんですか…!」
「おう、おれは近づかない事をお勧めするね」


理由は分かってるんですけどね。でも、こんな状態のまま夏休みに入る方が嫌だ、ちゃんと仲直りしたいッ!……ってあれ?
考えてみれば、喧嘩なんてしてない…。

考え込み始めたわたしに気を遣ってくれたのか、取り敢えず入れよ。とサッチ先輩はあのボタンを押し始めた。


「あの、ここって呼び出しボタン的なのないんですか?」
「ん? あー、あるぜ。ほらあそこ」


サッチ先輩の指している場所を見ると、確かにあった。大きな柱にちょこんと。完全に見落としてたなぁ…。


「でもな、あれは親父直通だから押す奴なんてそうそういないな」
「そうなんですか!?じゃあサッチ先輩に会いに来たときはどうすれば良いんですか?」
「お!名前、おれに会いに来てくれんの?じゃあ教えてやろう!」


じゃじゃん!とサッチ先輩がボタンの方を向いたので、わたしも後ろからそれを覗き込んだ。


「まぁ簡単な事だけどな、この呼び出しってボタンを押して、おれの部屋番号を押すだけだ。マンションと同じだな」

そう言って004と押した。そうするとピーンポーンとお馴染みの呼び出音が鳴った。


「ってことは、エースの時は002ですね!」
「そうそう!ま、隊長達は覚えやすいよな!」


なるほど。と納得した所でサッチ先輩が開けてくれた門を並んで通った。


「やっぱさ、名前とマルコ、なんかあっただろ?」
「な、ど、どうしてですか、何もないですよ」


サッチ先輩鋭いなぁ。さすが歳上って感じがする。エースみたいに誤魔化せるか不安だ。


「いや、絶対あるな。マルコに襲われかけたとか?」
「マルコ先輩はそんなことしません!サッチ先輩じゃないんですから」
「男なんてみんなおんなじだぞ」
「それ、情報源どこですか?」
「おれ」
「えー、信用出来ない…」
「なんだとー!」


あははっ。笑いながら廊下を歩いていると前からマルコ先輩が歩いて来て、思わず固まってしまった。


「お、マルコいるじゃん」


行ってこい。と背中を押され、どうしようかとそわそわしているとマルコ先輩と目があった。…のに逸らされた。そのまま自分の部屋に入ろうとする先輩に、思わず叫んだ。


「マルコ先輩ッ!!」


マルコ先輩は動きを止めて驚いたようにこちらを見た。やばい…泣きそう…。


「じゃおれはこの辺で…。名前じゃあな」


逃げるように自分部屋へ入って行ったサッチ先輩がその扉を閉ざす音と共に、静寂が訪れた。ゆっくりマルコ先輩が近づいて来る。


「名前…」
「マルコ先輩…」


先輩が目の前に来ると、思わず顔を伏せた。泣きそうな顔をしてるのが自分でも分かる。目頭だってすごく熱くなって来た。


「と、とにかく入れよい」


わたしの手首を掴むと、引っ張るように先輩の部屋に入れられ、ソファに座らされた。


「わ、悪かったよい…急にあんな事して…本当に悪かった…」


先輩も隣に座ると、膝に拳を置いて頭を下げた。


「そんなこといいですよ。だけど、避けるなんてひどいです…」


ポロッと涙が一粒落ちた。
は。と顔を上げたマルコ先輩は不思議そうに目を見開いたかと思うと、気まずそうに、あー。と言って頭を掻いた。


「急にあんな事したから、どういう顔して会えばいいのか分からなくてよい…悪かった…」


恥ずかしそうに頬を赤らめる先輩がなんだか可笑しくて思わず吹き出してしまった。


「名前?」


先輩はポカンとわたしを見た。まるで、何が可笑しいんだとでも言いたげな。


「マルコ先輩もそんな顔するんですね!なんだか可笑しくて」
「そりゃおれだって悩んだんだからよい」
「あははっ、でも良かったです。これで仲直り、ですよね?」
「あぁ」


右手を出せば、マルコ先輩も握り返してくれた。やっと、元に戻れたんだ…!!


「で、テストはどうだったんだい?」
「もうバッチリです!」


お世話になりました。と頭を下げれば、軽く頭を撫でられた。


「後は夏休みを待つだけだねい、予定は決まってんのかよい?」
「それがね、結構あるんですよ!えーっと、ロビンとノジコと遊ぶし、エースの家泊まりに行くでしょ、あ、それから母の実家にも帰ります!」


あ、後ローくんもか、まだなんなのか教えてもらってないけど…。他の日はガラ空きだけど、大きな行事はこんなもんかな。


「楽しそうだねい、まだ空いてる日はあるかい?」
「ありますけど、何かあるんですか?」
「ただ名前と出かけたいと思っただけだよい、駄目か?」
「まさか!楽しみです!」


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