「はぁ……」


マルコ先輩、なんでわたしにキスなんか……。

昨日のこともあり、わたしは悶々と考えながら教室を目指し廊下を歩いていた。


「名前!」
「はぁ…」
「おーい、名前?」
「わっ! エ、エース…、おはよう…」
「おぅ、どうした? なんかあったか?」


ニカッて笑いながらわたしの顔を覗き込んで来るエースに何度目かのため息が出た。エースって悩み事とかなさそうで、なんか羨ましい。いろいろ詮索されても困るので、何でもない。とだけ返しておいた。


「そっか、まぁ、なんかあったら言えよ!」
「あ、ありがと…!」


突然の優しさに驚きつつ、目前に迫っていた教室に入った。何人かと挨拶を交わし、席へ鞄を下ろしたとき、あ。とエースが声を出した。


「なぁ、お前マルコと喧嘩でもした?」
「ヘッ!!?」


驚いてエースを見ると、首の裏を掻きながら、んー。と上を向いて何か考えているよう。


「なっ、なんで?」


かなり焦っているのが自分でも分かる、エースは気付いてないみたいだけど…。エースが馬鹿で良かった。


「昨日さ、おれモビー行ったんだけどな。マルコがこの世の終わりみたいな顔して、“なんであんなことしたんだよい…。”とかボソボソ言ってたんだよ。おれ声掛けたんだけど、それも気付いてなかったみたいだしさー」


なんであんなことしたんだってことはわたしの事…?マルコ先輩、気にしてくれてたんだ…。
あの後、真っ赤になって固まってたわたしに、何事もなかったように"さっさとやるぞい"って勉強始めたものだから、こんな風に思ってるのはわたしだけで先輩の中ではもうなかった事になってると思ってたんだけど…。


「その前にマルコに会ってたのは名前だろ?だからなんか知ってんじゃねェかと思ってよ」
「え、あ、いや、わたしは何も知らないよ」
「そっかぁ?ならいいんだ」


あきらかにどもってるのに…、いやホント、エースが馬鹿で良かった!


「それにしても早く戻ってくんねぇかな、サッチ達も気持ち悪くて近付けねェって言ってた」
「はは、だねー」


曖昧に笑って見せればエースは何気づかず、その後も、毎日家で教師と顔合わせるとか最悪だぁー。だの言ってた気がするんだけど、わたしはずっと昨日のことで頭がいっぱいだった。


「おい名前、聞いてんのかよ」
「あ、ご、ごめん!なんだっけ?」


気が付けばエースがぶすっとした顔でわたしを見ていた。


「呼んでる」


エースが指す方を見れば、クラスの女の子達が手招きしながらわたしを呼んでいた。

「ごめんねエース、話は後で聞くから!」

そう言い残し、わたしは立ち上がってみんなの所へ向かった。


「どうした…「ちょっと名前!これどういうこと!!?」


何の事か聞こうとしたわたしが言葉を言い終える前に、彼女達はチラシのような紙を突き出した。

そこには…

《速報!生徒会長ロブ・ルッチ!熱愛発覚!お相手は2Aの名前さん!!》


それには昨日のわたしとルッチさんのキス写真も貼られていた。ずっとマルコ先輩のこと考えててルッチさんのとのことなんてすっかり忘れてたけど…。


「なっ、な、何これー!!?」


こんなのいつ撮られてたの!?あの場には生徒会の皆さんしかいなかったし、だいたい熱愛発覚って何よ!!その場にいたんなら事故だって分かるじゃない!チラシを握り潰しそうになるほどの怒りを覚えていたら、途端に肩を掴まれた。


「ちょっと!いつから付き合ってたの!?」
「言ってくれても良かったのに〜!」
「名前ってああいうタイプが好きだったんだね〜!」


当然のごとくこのような誤解をされ、どこから説明すればいいのかと、頭が痛くなった。


「名前、どうしたの?」


声に振り向けば、ちょうど今来たらしいノジコが鞄を下ろして不思議そうにこちらを見ていた。


「ノジコ〜!!てかみんなも聞いて!」


わたしは昨日の事故を事細かく、正確に、正直に話した。


「なるほど…」
「ただの事故かぁ…」
「そんなこともあるんだね〜」
「私!事故でもいいからルッチさんとキスした〜い!」
「羨ましい〜!」

「人の不幸を楽しまないでよ〜!」

「これ学校中に配られてるのよね…?こんなの出回ったら名前可哀想じゃない!」


ここで心配してくれてるのはノジコだけだよ…!わたし一生ノジコの親友でいる!と思いきやガシッと肩を掴まれた。


「撮影料貰ったの!?」


目がベリーだ…。


「だいたいこの写真、いつ撮られたのかもわかんないんだよね…」
「うーん…、本当に誰もいなかったの?」


確かにあの場は生徒会の皆さんしかいなかった。でも、生徒会の皆さんがそんなことするはずないよね…?


「これはきっと写真部のアブサロムね」
「ロビン!あぶさろむ?」
「えぇ、彼はとても潜入が得意なのよ、人目を掻い潜って写真を撮るプロよ」


そ、そんな人がいたんだ…。でもこんなの盗撮だよ、犯罪だよ…!!写真部訴えてやるー!!


「名前、写真部の部長ってモリアよ、ゲッコー・モリア」
「ゲッ!あの人なの…」


この学校には七武海と呼ばれる7人の生徒がいる。それはもう多額の寄付金を学校へ渡しているらしくて、その人たちの校内での悪事は黙認されている。その七武海の1人が写真部部長のゲッコー・モリア。

悔しいけど、あんな人に関わりなくないや…


やがて、廊下にも人が集まり始め、いろんな声がこちらまで届いた。


「あの子じゃない?」
「あんなのがルッチさんの!?」
「ありえなーい」


こっ、心が痛い……。


「さっきからうるせぇな。どしうしたんだよ?」
「エース」


わたし達の騒ぎようが気になったのかいつのまにやらエースがこちらに来ていた。エースはわたしの手からひょいっとチラシを奪うとそれを見るなり、ものすんごい顔で固まった。


「ちょ、エース!?」
「エースくん固まっちゃった!」


腕をバシバシ叩くと、ハッと我に返ったようで両肩をガシッと掴まれた。どうしてそんなに泣きそうな顔してるの。


「これ…本当なのか……?」


怒ってるような…悲しそうな…。
なのでまた、わたしは1から説明した。これ一体何回説明しなきゃいけないのやら。


「なるほど…、でも名前、キスはしたんだろ?」
「ま、まぁ…でも事故だから!ね!」
「ちゃんと洗ったのかよ?」
「え?お風呂入ったけど…」
「そんなんじゃダメだ!」
「へっ?…ぶわっ!」


そう言うなりいつもボタン全開の制服のシャツの端でわたしの唇をゴシゴシ拭き始めた…、すごく荒いものでわたしは痛い痛い!と訴えるが止めてくれない。諦めてされるがままになっていると、突然エースがわたしを背中に隠すようにすると、周りをキョロキョロ見始めた。

エースの変わりようにわたしも女の子達もキョトン。


「どうしたの?」
「なんかいる…!」
「えぇっ!?な、何が…?」
「なんか…獣みたいな…」


クラス中が静まり返ってエースに注目してる。エースはスンスン鼻をきかせてるみたいだけど、どこをどう見ても獣なんていない。エースの勘違いじゃない?と言おうとしたその時、わたしの身体が何かに拘束された。


「えっ!…か、身体が…!!」
「名前ッ!」


両腕が全く上がらない…というか、後ろから鼻息みたいなのが聞こえる…!でも、誰もいない…!


「ガルルルル…」
「え!!?」
「お前をおいらの花嫁にしてやる」

ペロッ

「ひゃぁっ!」
「どうした名前ッ!!」
「み、み、みみみ!!耳舐められたぁっ!!」
「そこかぁーっ!!」


エースが脚を振り上げた。でもその狙いが!わたしの背中…!!


「ちょ!ちょっと待って!!」


エースの蹴りなんて喰らったら一瞬でお陀仏だから…!!死ぬ!!わたしの訴えは虚しく、エースは躊躇なく脚を振り下ろした。


「いやぁぁぁーーっ!!」

ゲフーッ


叫んだものの、軽くつんのめるほどの衝撃だけで、それもエースが受け止めてくれた。


「お前か!名前に何してんだよ!」


エースがわたしの足元に倒れている人を掴み上げ凄い睨みをきかせた。


「アブサロム!」


そう言うロビンの声が聞こえてわたしもその人物を確認した。


「こ、この人がアブサロム!?」
「お前…、名前の耳舐めたのか!ゴラァ!」

バキッ!ドゴッ!バコッ!
エースの攻撃は止まらず、わたしや女の子たちも少々引き気味だ。


「なんかさエースくん名前の事になるとすごいね…」
「ほんとに…」

「エース、名前の耳を舐めた事に関しては私も関節技を決めたい所だけど、聞きたいことがあるのよ」


ロビンの一言にエースはそうだな。と殴るのをやめアブサロムを掴み上げた。


「これくらいにしといてやる!」
「ハァッ…、な、なんでだ…。おいらの身体は動物の厚い皮を移植してるっていうのに…こいつの攻撃、めちゃくちゃ痛い!!」
「白ひげの2番隊隊長なめんな!」


エースは得意気に鼻を鳴らした。


「キャー!エースくんかっこ良いー!」そんな声も聞こえたけれど今は置いといてと…。


「なーんであんな写真ばら撒いたのよぉーっ!!」


アブサロムの首根っこに掴みかかり、ブンブン揺らした。


「あの場にいたんなら事故だって知ってるでしょ〜!」
「ぐっ…ぐえぇ」
「名前、この人息できてないわ」


わたしが手を離すと息を思いっきり吸ったアブサロムが一度ふぅと息をつき話し始めた。


「この情報を流せば、お前を狙う奴らが諦めると思ったんだ…」
「はぁっ!?」


意味が分からない。
わたしを狙う奴らって何!?わたし狙われてるの!?
頭の上にハテナを踊らせていると、なるほど!とエースが手を叩いた。


「名前を好きな奴らが、名前がルッチと付き合ってるって知れば諦めると思ったんだろ?」
「そうだ」
「お前、そこはおれだろ!」
「いや、なんでよ!」


だいたいわたし、今まで人に好きになられたことなんてないし、生まれてこのかた彼氏もいたこと無いし…。って言ってて悲しくなってきた…。


「こんな情報流されたら、ますます彼氏出来なくなるじゃん…」
「彼氏なんて必要ない!お前はおいらの花嫁にしてやる!」
「「はぁっ!?」」
「お前やっぱここで死んどくか?」


エースが指をポキポキ鳴らしながらアブサロムに笑いかけた。アブサロムはエースにビビって数歩後ずさった。


「と、とにかく!わたしはあんたと結婚なんてしないから!」


だいたいまだ16歳だし、やりたいことがたくさんあるの!


「お前なんかに名前はやらねェ!」


あんたはわたしの父親か!エースに突っ込みを入れると、冷静に考え事をしていたらしいロビンが口を開き、わたしとエースもその言葉に耳を傾けた。


「でも、何故あの場にいたの?名前とルッチの件は偶然起きた事故でしょう?」


ロビンの言うことはもっともだ、あの事故が起こったのは偶然であって、こんな写真が撮れる保証なんてないのに、どうしてあの場にいたんだろう…?


「ギャサリンって女の依頼でルッチの写真を撮ってた、そしたらあの場面に遭遇したんだよ!」
「依頼ってそんなのあるの?」
「金さえ払えば依頼に応じて写真を撮って来る、写真部の裏の稼業だ」


その瞬間、目をキラーンと光らせた者たちがいた。途端にアブサロムの周りを囲む。


「それって依頼すれば本ッ当に誰の写真でも撮って来てくれるの!?」
「当たり前だ!おいらに潜入できない場所はねェ!」
「じゃあ私シャンクス先輩撮ってきてほしい!」
「あっ!私マルコ先輩!」
「私、ロー君!」
「私はハルタ先輩!」


彼女達の口から出てくるイケメン達の名前…。わたし、全員と面識ある…。

わたしとエースはポカンとその様子を見ていた。ロビンも、もう興味がなくなったのかさっさと自分の席に戻ってるし…。


「全部おいらに任せろ!」
「キャー!アブサロム最高!」
「もっと早く出会いたかったぁー!」
「よ、よせ!名前が嫉妬するだろ!」

「いやいや、しないから」


顔の前で手を振るが奴は全く気にせず。女の子達からの依頼をメモっている。


「悪いがおいらはこれから忙しくなる、だからおいらとの結婚はもう少し待っててくれ!」
「や!だから結婚しないから!」
「そうだぞ!おれが許さん!」


や、ホント、あんたはわたしのなんなんだ。


「それと!あのチラシの情報はデマだって流してよ!流さないとまたエースが殴るからね!」
「なっ!わ、わかった…!一旦嘘だと流してやる、次のスクープはおいらとの結婚報告だ!」
「だから、しないからー!」
「じゃあおいらは仕事がある!じゃあな!」


アブサロムは颯爽と去っていってしまった。なんだかすごく複雑だけど。


「暫くはなんもして来ねェらしいからいいんじゃね?」
「そうだね…何かあったら守ってね」
「おぅ!任せろ!」


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