「おじゃまします!」
「いらっしゃい」
今日から、期末テストの一週間前に入ったということで、マルコ先輩の部屋でお勉強。
「エースはまだかよい」
「あ、エースは成績が悪すぎるから、ガープ先生に外出禁止って言われちゃったらしいです」
思わず苦笑いが溢れるとマルコ先輩も同じだったみたいで、顔を合わせて笑いあった。
とりあえずお部屋に入れてもらって、いつものローテーブルの前に座ると、お茶を持ってきてくれたマルコ先輩が隣に座った。
「にしても、勉強会でもダメだなんてあのじいさんも厳しいねい」
「あ、なんか、学校の先生達呼んで個別指導してもらうみたいですよ」
「そりゃあ…、ご愁傷様だよい…」
「ですよね…」
まぁ、今まで勉強サボったエースが悪いんだけどかわいそうだ。…がんばっ。
心の中でエールを送りわたし達も早速勉強に取り掛かった。
しーんとした空間の中、マルコ先輩の動かすペンの音だけが聞こえた。わたしのペンは…。
「手が止まってるよい、どこだ?」
「……ここです」
さっぱりわからない。数学はほとんど真面目に受けてたはずなのに…。あ、教師が真面目じゃなかった…。こんな初歩的な問題がわからないなんて恥ずかしい…ほんと。
「こことここが同じだろい?だから置き換えて…」
「…あっ、そっか!」
数学ってどんなに時間をかけて悩んでても答えを聞くと呆気ないもので自分はなんでこんな所で悩んだんだ!ってなるんだよね。でも一つの問題が解けると類似問題はスラスラ解けるから楽しいと思えるようになったのはやっぱりマルコ先輩のおかげかな。
ぎゅるるるるるるるる…
何時間か経ったころ、時計の針が12を少し越えたくらいに、わたしのおなかが盛大にッ空腹を訴えた。瞬間に顔に熱が集まるのがわかってゆっくりと先輩へと顔を向けると、彼は手で口を抑えて笑いを耐えていた。と言っても肩が震えていて耐え切れていないんだけど。
「ぷっ…!!そろそろ、サッチの所に行くかねい……」
「もうぷっって言っちゃってますよ〜」
マルコ先輩は2番と3番の扉を素通りし、4番の扉をノックもせずにガチャリと開け、中に入った。
わたしも続いて入っていくと、玄関には足の踏み場が無いくらいたくさんの靴が散らばっていて、奥からはガヤガヤと人の声が聞こえた。
「おっ!来たな〜!」
サッチ先輩がこちらへ来る前に、マルコ先輩は平気で靴の上を踏んでサンダルを脱いでいた。
「汚ねえけど上がれよい」
「お前が言うな!あ、野郎の靴だから遠慮せずに踏んでいいからな!」
ニカッと笑ったサッチ先輩の発言に曖昧に笑って小さな隙間に脱いだサンダルを置いた。
サッチ先輩とマルコ先輩について部屋の中に入ると、部屋の中にはたくさんの隊長さん達がいてみんな低めのテーブルを囲むように座っていた。こっちだよ〜。とハルタ先輩が呼んでくれてその隣へ腰を下ろす。
「し、失礼します…!」
緊張気味に座ると、ハルタ先輩とは反対隣にいたラクヨウ先輩がゲラゲラ笑った。
「わはは!んな緊張すんなって!イデッ!」
「あぁ、悪い、足が滑ったよい」
何事かと目を向けるとラクヨウ先輩がマルコ先輩に蹴り飛ばされていて、マルコ先輩がそこに座っていた。
暫くして大きなお皿を持ったサッチ先輩がキッチンからやって来た。
「はい本日の昼飯はおれのバイト先で出してる炒飯だぜ〜!」
メニューこっそり教えてもらっちゃった。と舌を出してウインクをしたサッチ先輩に誰も返さず、みんなお皿の中身を興味津々に覗き込んだ。サッチ先輩がお皿をテーブルに置いたところで「ただの炒飯じゃねぇか」と誰かが突っ込んだ。
だけど、サッチ先輩は、チッチッチー。と指を立てて左右に振った。
「お前らおれのバイト先知ってるだろ、美食の町プッチのレストランだぜ?良いから食ってみろって!」
見た目は普通の炒飯でそれなりに美味しいんであろうことは想像できる。だけど、あまりにも普通で特にたいした期待もせず小皿に取り分けた炒飯をスプーンで掬った。
「「「いただきます」」」
「おっ、おいし〜!」
「うまい…」
「うめェー」
「だろー!!」
やばい、おいしい!と、止まらないっ!!
なんでだろう。不思議、何か違うんだけど、何が違うのかわからない、でも普通の炒飯よりもおいしいのはわかる。
感激しつつ止まらない手に従い食べ進める。
「実はな!チャーシューに見えるこれが!エレファント本マグロなんだ。店で余ったの持って帰ってきたんだ」
「エ、エレファント本マグロ!!?」
そんな高級な食材を…!!
「まぁ一番の隠し味はおれの愛だけどなぁ」
「おぇ、きも」
「変なこと言うなよい!味が変わっちまうだろ」
「お前らなぁ!!」
強い辺りに泣きそうと溢したサッチ先輩だけど、みんなサッチ先輩の炒飯を気に入ったらしく、食べる手を止めてる人なんて一人もいない。やっぱりみんなサッチ先輩の料理が好きなんだね。
大きなお皿にこんもり盛られていた炒飯はあっという間になくなってしまった。
「もう無理、お腹いっぱい…」
「名前、そろそろ戻るかよい」
「はーい」
返事をしたものの動く気はゼロ。だってまだエレファント本マグロの余韻に浸っていたい。できることならまだ食べていたい。
「名前って全教科マルコに教わってんの?」
ふと、隣にいたハルタ先輩が顔を傾げた。
「あ…はい、ほぼ全教科お世話になってますね…あはは…」
「こいつ理解は早ェのに授業聞いてねェから1から説明すんの大変なんだよい」
とわたしの額を小突きながらマルコ先輩が言った。
「授業聞く気はあるんですけど、眠気に勝てないんですよ…」
小突かれた額を摩りながら言うと、サッチ先輩がテーブルに手を付いて乗り出した。
「家庭科ならおれっちが眠気も吹き飛ぶ授業してやるぜ!」
「サッチいつも家庭科だけは満点だもんね」
「歴史なら私が教えようか」
「ぼく英語得意だよ!」
ビスタ先輩は高校生らしからぬ髭を撫でながら、ハルタ先輩はニコニコと爽やか笑顔で言ってくれた。
とまぁ、みんな得意教科を教えてくれると言うのでお言葉に甘えることになった。
だけど、一度に教えてもらうのは無理なので、テストまでの残り一週間の日程をマルコ先輩が制作してくれた。
「何から何まですいません」
「いいってことよい、こういう表作るのは慣れてるからねい」
みんなが見守る中、マルコ先輩制作の日程表が完成
「おいマルコ!なんで数学は丸1日入ってるのに家庭科は1時間だけなんだよ!」
「重要な教科を多めにしてるからだ、家庭科なんざ1時間で十分だろい」
ぶーぶー文句を言っているサッチ先輩に目もくれずマルコ先輩は淡々と説明していく。
「ここに書いてあるのは夜7時までだが家帰っても勉強するように、それから土日の昼飯は全部サッチが用意するからねい」
「おぅ!どうせなら晩飯も食ってけ!」
「マジですか!」
目が輝くのが分かる、毎日サッチ先輩のご飯が食べられるなんて…
「よろしくお願いします!…いてッ!」
「「ぷはっ!」」
すごい勢いで頭を下げたのでテーブルで思いっきり額を打ってしまった。
打った額をさすりながら顔を上げると、マルコ先輩がニコッと微笑んで頭を撫でてくれた。
「よぉーし名前!まず、五大栄養素とはなぁ!」
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