「名前ー、起きなさ―い!」


どこか遠くで母の声が聞こえた。

目に入る日の光が眩しい。
…え。日の光…?

バサッ!とぬくぬく布団から飛び出して時計を確認する。


「え?え?えぇ!!?」


なんと、15分後には家を出なければならない時間だった。
とりあえず昨日かけておいた制服に着替えた。

そして階段を一段飛ばしで下りて、洗面所へ走る。
顔を洗い、歯を磨き、髪をセットし、軽くメイクをし、取り敢えず、外へ出ても恥ずかしくない状態にすると、わたしはホッと息をついた。

すごいことに、ここまで3分しか経っていない。
自分のスピードに驚きつつも、後は焼いた食パンを食べるだけだ。と思いながらリビングへと入った。




「朝ごはんどうする?食べる?」
「……」


開いた口が塞がらないとはこの事。

なんで?
お母さん……、朝はいつも食パンしか焼いてくれないのに…。

トーストにベーコンエッグ、サラダ、コーヒー


と、まるで「本日の朝食」とメニューを出されてもおかしくないほどの完璧な朝食が用意されていた。



「どうしたの…?」
「なんだか、今日は作りたくなっちゃって!」


菜ばし片手にウインクを飛ばしてくる母を一瞥し視線を朝食たちへ戻す。
あぁ…どうしよう…!時間は後10分しか…

ぎゅるるるる___


ダメだッ!


「いただきます!」


ベーコンエッグを切って口に放り込む。

お、おいしー!
思わず両頬を抑えてしまう。
夢中でご飯を掻き込んだ。

朝から準備頑張ったからかな。こんなにおいしい朝ごはん久々な気がする。


「名前、時間大丈夫?」


母の声に時計をみると、出発予定時間を5分過ぎていた。
慌ててコーヒーで流し込み鞄を持った。


「いってきます!」
「いってらっしゃい」


家から学校までの道のりは……、家から徒歩でバス停まで10分、バスで20分、バス停から徒歩で10分

計40分の道のり。もし、バスに乗り遅れたら…


「遅刻だ!」


全速力で走ったけど、運動オンチのわたしの足なんてたかがしれてるもので。

プップー

目の前に到達することもなく10m先くらいでバスは行ってしまった。
もう走れないと足が訴えている。
立ち止まって膝に手をついて息を整えた。


「うそ…ハァハァ…」


あぁ…、バスがどんどん小さくなってく…。
次のバスは15分後になるから遅刻は確定してしまう。
電車で行くとなるにも間に合うか危ういなぁ…。

いかにして学校へ行くかを小さな頭をフル回転させて考えていたところチリンチリンと自転車の音。
顔を上げるとそこには救世主がいた。


「よっ!名前ッ!」
「エース!!」


その救世主は自転車に跨って「久しぶりだなー」と言ったあと不思議そうにわたしを見下ろした。


「どうした?」
「バスに乗り遅れて…!!…だから…お願い!」


手を合わせ顔の前まで持って来ると理解してくれたらしいエースは、「乗れッ!」と後部座席を叩いてくれた。


「ありがとう!」


ニカリ。とエースが笑顔で答えてくれて、わたしも一安心だと自転車の後ろに乗せてもらう。
あ、一応注意しておくけど、わたしとエースは恋人などという甘い関係ではない。たまたま中2から高1までずっと同じクラスだったってだけだ。
まぁ、かなり心を開いている親友といったところかな。


「じゃあ出発すんぞ、しっかり掴まってろよ」
「はーい」


あ。やばい。
なんで考えなかったのわたし。わたしがバス通学で40分もかかる道のりを、なぜ、エースが自転車で間に合うのかを…。


「ぎゃー!はやすぎ!スピード緩めて!」


エースの自転車を漕ぐスピードが半端なく速い。
そこらの車よりも早いんじゃないかと思うほどで、気を抜けば振り落とされそうだ。
もう一度しっかりとエースのお腹に腕を回した。


「お願い!はやすぎる!!!」
「名前が寝坊したんだろー。これくらい我慢しろって、じゃねぇと間に合わなねェぞ」
「なっ、寝坊じゃない!あれは間に合ってた!」


スピードが速すぎてわたしの声が聞こえているのかはわからないけど精一杯反撃する。


「じゃあなんだよ」
「お母さんの気まぐれで、朝ごはんが豪華だったの!」
「マジか!さすがおばさんだな!今度俺にも食わせてくれ!」


一気に話がそれたエースに苦笑いが零れるが、この男との付き合いが長いからかそういうことにはもう慣れてしまった。


それにうちの母はエースのことをものすんごく気に入ってる。だからエースがうちでご飯を食べたいと言えばすぐにでも豪華な食卓が完成するだろう。
エースは初対面の人なんかには礼儀正しいし、顔もイケてるからね。母が気に入るには十分すぎた。


わたしの必死な願いが通じたのか少しだけスピードを落としてくれた。ほんとちょっとだけね。


「あ、そうだ名前」
「ん?」
「宿題やったか?」


エースの質問に、次の言葉が頭に浮かび、ため息が出る。
やっぱりね今年もなんだ。


「はいはい、見せてくれ。でしょ?」
「さすが名前!」


そう言ってハンドルから手を離して拍手をしだすもんだから、「ハンドルを持て!」と背中を叩いた。


「一体、何回目だろうね、もう慣れっこだよ」
「へへっ、昨日やろうとしたんだけどな、ルフィの入学式行っててよぉ。あ!当たり前だけど、あいつが一番最高だった!」


出た、エースの弟くん自慢。
てか、一番最高だったってどういうことよ。よくわかんないんだけどとりあえず適当に相槌を打つ。

この話の間だけ、スピードが緩まってることには感謝だ。


それから突然、エースが思い出したように、あ!と大きな声を上げた。


「な、なに!?」
「おれと名前また同じクラスだったぜ!A組!」
「え……」
「おーい、聞いてんのか?」
「な、なんで言うのー!?」
「え、なんで?」


クラス発表はいつも掲示板に書かれているのを自分で確認するのだけど、生徒にとってそれは受験結果発表と同じくらいドキドキするものなのだ。なのに、この空気読めないエースに先に言われてしまった。
しかも……


「また一緒かぁ…」
「中2からだから…4年目?」
「わー、すごい」


「ここまで来たら運命だろ」と冗談めかして笑うエースにわたしも笑う。


「このままずっと一緒だったりして」
「まぁ名前となら楽しそうだけどな」
「えー、宿題見せて欲しいだけでしょ」
「はは、それもある」


お互いにふははと笑いあう。今までも毎日こんなくだらない会話をしてきたな。今年もこんな感じに過ぎてくのか。まぁ悪くはないかな。


「また、ガープ先生情報?」
「おぅ!昨日聞いた!」


ニッと振り返って笑うエースに、お願いだから前見てと背中を叩いた。

エースとルフィ君のおじいさんにあたるガープ先生は、我がワンピース学園の校長先生をしている。
かなり能天気で、自由奔放なおじいさんだけど、孫たちのことを大切に思っているのはよくわかる。エースには伝わってないみたいだけど…

それには思わず苦笑いが零れた。


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