わたしとエースが学校に到着すると掲示板の前では我れ先にと自分のクラスを確認する生徒達で溢れていた。しかし、わたしたちはそこを素通りして2Aの教室に向かう。


掲示板前の生徒たちを見て楽しみが減ったなぁと肩を落とすわたしに「元気だせ!」とエースが背中を叩いてくるが、原因はお前だ。と心の中で突っこんでおいた。
能天気に笑うエースには怒ったところで笑い飛ばされるだけだ。




教室に到着すると、登校してきている人はまだ少なくて遅刻じゃないことには一安心する。黒板に座席表が貼られていて、各自自分の席に座るようにと書かれていた。

わたしの席は…

窓側から2列目の後ろから2番目。うん悪くないむしろ良い!

席へ向かう足取りが自然と軽くなる。だけどそれはわたしの前の席にエースが鞄を置いたことにより止まった。


「またエースの後ろ!?」
「そうだぜ!よろしくな!」
「う、うん…」


よりにもよってエースの後ろとは…。
今までにも何度もエースと近くの席になったことがあるのだけど、いいことがあったためしがな。エースは授業を真面目に受けるなんてことをしたことがない、早弁したり、居眠りしたり、おかげで先生たちはいつもエースに目を光らせてる。だからその近くの席の人たちまでも巻き沿いを食らって授業中に当てられたりするのだ。

暫くは授業をサボるなんてこと考えないでおこう。とひとり決意を固めたところで、教室の前の扉から先生が顔を出し、始業式だから体育館に集合と声を掛けていった。
するとすぐにみんな動き出したので、わたしも、早速眠りについているエースを引っ張って体育館に向かった。










体育館に着くとまだほとんどの生徒は揃っていなくて、わたし達が列になって座った後に他のクラスや他学年がぞろぞろと入って来た。

前に座るエースに声をかけると「んぁ?」となんとも眠そうな返答。


「ルフィくんってどこ?」


ルフィという名前に反応したエースは、パッチリと目を開き嬉しそうに「えっとな!」と1年生のところからルフィくんを探し出してくれた。


「あ!いた!ほら、あの麦わら帽子かぶってるやつ!」
「麦わら帽子?」


帽子を被っている子が結構いて麦わら帽子が見当たらない。
あの子は…ペンギンって書いてある、あの子は違うなぁ。

なかなか麦わら帽子を見つけられないわたしに痺れを切らしたらしいエース。


「ほらあいつだって!ルフィーーーー!!!!」


なんと、この体育館中に響き渡る声を上げルフィくんを呼んだ。
いやちょっと、周りの視線がものすごく痛いんだけど。

エースに気付いたらしいルフィくんもこちらを向き両手を大きく振って、返事をした。


「エースーー!!」
「お前何組だっけー?」
「A組だぞー!エースは!?」
「おれもAだァー!」


なんとこの兄弟、全校生徒が集まるこの体育館で大声で会話を始めてしまった。

でも、やっと見ることができたエース自慢の弟ルフィくん。
今こうやって大声会話をしているあたり、エースの弟なんだと実感させられる。


「麦わらァ!!静かにしろ!!」
「いてぇー!!」
「てめぇ、スモーカー!!ルフィに何しやがる!!!」


ついに落ちたスモーカー先生からの鉄槌、頭を押さえるルフィくんを助けに行こうと立ち上がったエースをわたしは必死で止めた。お願いだからこれ以上目立たないで!!!









理事長のセンゴク先生、校長のガープ先生、といろいろな先生の長くありがたいお話を聞いた。話の内容なんて頭に入っているわけがなく、わたしはただただ暑さに耐えていた。


「ねぇ、エース?」
「何だ?」
「暑い」
「あぁ、暑いな」
「ちょ、エースがこんなにくっついてくるせいだから!」
「そんなことおれに言われてもなぁ」


エースが手をパタパタさせて顔を扇いだんだけど、その手からも熱風が出てますから!!
そしてわたしに凭れかかるように背中を預けてくる。おかげでわたしは死ぬほど暑い。


「暑い!くっつかないで!離れてー!」
「もうスペースねェよ!」


わたしがエースの背中をパシパシ叩くと、エースが「おれだって暑いんだ!」と反撃してさらにくっついてきた。


「もー、いいから離れてよー」
「なんだよケチケチすんなよー」


バシンッ!

突然頭に衝撃が走った。


「「いったァー!!」」
「お前ら別室に行きたいんかのう…?」


エースよりも暑い熱気にゆっくりと顔を上げるとそこには鋭い眼光を光らせる鬼よりも怖い犬が……。


「「赤犬…」」
「あぁ?」


赤犬ことサカヅキはこの学校の教職員の中でもっとも恐いとされている生活指導の先生。
あまりの恐ろしさに一瞬にして背筋が凍りついた。
エースもピシッと背筋を伸ばし、顔からはタラタラと汗が出ている。



「「すみません…」」


二人同時に頭を下げると、次はないぞ。と言い赤犬は職員達の席へ戻って行った。


「怒られたじゃん!」
「お前のせいだろ!」


ギロ


ビクッ!


そのあとも、背中にはずっとあの鋭い眼光が感じられた。




















「はぁーーっ、長かった…」


机に顔をくっ付けて腕をのばす。そんなわたしの腕をぷにっと触ると、なっげー溜息とエースは笑った。


「だって、誰かさんのせいで死ぬほど暑かったんだもん」
「おれも赤犬が来たときは死を覚悟したぜ…」
「いやそうじゃなくて」


赤犬もだけど、ほぼお前のせいだ。とは言わなかった。もう終わったことだし、このエースと言い合うのはなんか疲れる。
未だわたしの腕をプニプニと触り続けるエースに冷めた視線を送った。自分の体から発してるあの熱気わかんないのかな。


「あんた達仲良いのね」
「え?」


声のした方を見ると左隣の席にいる薄紫髪の女の子が話しかけて来ていた。


「あたしはノジコよろしくね」
「あ、わたしは名前、よろしくね」
「あんたが噂の火拳の彼女ねェ…」


視線で下から上までジロジロと見られる。


「え、違うよ?」


取り敢えず否定しておくと、驚いたように目を見開かれる。


「今さら隠さなくたっていいのよ、みんな知ってるんだから」


思わず苦笑いが漏れてしまう
まぁ…、噂になってることは知っていた。だけど違うし…別に気にしてない。
聞かれたら否定できるんだけど、知らない人にあの噂は嘘です。なんて言い回るワケにもいかないし、噂って怖いな。とつくづく思わされる。


「ノジコ、それは噂にしかすぎないわ、本人は違うって言ってるじゃない」


ノジコの前の席の子が振り返ってニコリと微笑んだ。

うわ、美人…!


「私はロビン、よろしくね名前」
「よ、よろしくお願いします」


超美人…!!この子知ってる。美女ランキングに入ってた子だ…!!


思わず見惚れていると、そこでチャイムが鳴り、立っていた生徒達もざわざわと自分の席へと戻り始める。


始業式早々、こんな美人達と友達になれるなんて…!
感動に浸っているわたしを振り返ったエースはニヤリ。笑みを浮かべた。


「なぁ、担任誰だと思う?」
「担任かぁ…そういえば考えてなかった…赤犬だったらどうしよう…」
「シッシッシッ」


エースの不気味な笑みに苦笑いを溢しつつ、知ってるの?と聞けば、昨日ガープ先生から聞いたと返ってきた。


「だれ?」
「だれでしょう?」


正直赤犬以外なら誰でもいいけどなぁ。あ、スモーカー先生はやだな。
あわよくば美人の先生とか…!悶々と想像を膨らませるわたしをよそに、その担任は扉から入って来た。


「はーい、席ついて〜」


「…え、青雉?」
「そうだぜ」
「え…、微妙…」


やる気はないけど、一応生徒指導の先生だし…なんだかいろいろ注意されそうだ。
でも、確かに赤犬やスモーカーに比べれば…断然、いいよね…。


「名前ちゃん、ひどいねー、ちゃんと先生くらい付けてよ」
「名前ちゃんとか言わないでよ気持ち悪い」
「教師に気持ち悪いはないでしょ…」


本気で少し落ち込みながらもホームルームを始めた青雉は、今日から新学期ですね…うんんたらかんたら…と、プリントに書いてあることを素晴らしいくらいの棒読みで読み進めていく、わたしたちもそれをかなりだらけた感じで聞いていた。
そんな時に、集中なんてするはずもない目の前に座るエースがこちらを向いた。


「今日ってなんか用事あるか?」
「ん?特にはないかな」


今日は始業式と簡単なホームルームだけなので午前中に終わる。家に帰ってもだらだら過ごすだけだ。


「じゃあさ!ルフィのクラスいかねぇ?」
「行きたい!」


どうせ暇だし、一度エース自慢のルフィくんのお目にかかりたかったから、いい機会だなぁ。


「決まりだな!」


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