グラウンドから教室に戻ってみると、ほとんどみんな揃っていて、おはよー!と声を掛けられた。それに返していると、これ着て!と目の前に赤色のTシャツを出された。



「え…何これ…」
「クラスTシャツだよ!青雉が準備してくれてたんだって」
「……」



じろじろとそのTシャツを見てみるけど、とても着たいとは思えない…。下地は赤なんだけど背中にデカデカと「We love 青雉」と書かれてあって、青色の雉も描かれていた。


センス悪。
どんだけ自分好きなんだよあいつ…。



「青雉がね…」


“おれさ、赤あんまり好きじゃないんだよねぇ、ほらおれって青キャラじゃん?お前らだっておれのこと青雉って呼ぶしさ、だからこれいいでしょ”



だそうだ。言い分が全く理解できない。なんでこうなったの!



「だけど…今更どうにもできないし…」
「まぁ、そうだよね…」



すっごく不本意だけど、仕方なくそのTシャツを受け取って袖を通した。
うぅ…、屈辱……。



ガラガラガラッ!!



「よぉっすお前らァ!今日は優勝すんぞォ〜!!」



勢いよく扉が開いたかと思えば、現れたのはいわずもがなエース。いつもより暑い気がするのは気のせいではないはず。Tシャツを配っていた子はエースの姿を見るとすぐに駆け寄りわたしの時と同様にダサいTシャツを差し出した。



「はぁっ!?なっ…なんじゃこりゃぁ〜!!」


思いのほかまともな感覚を持っていたらしいエースは絶対に着るもんかと腕を組んでそのTシャツを睨みつけ、その子を困らせてしまった。


エースって変なとこ頑固だもんなぁ…。まぁこのTシャツが最悪なんだけど…。


1人そんな分析をしていると、1人の子がわたしの方へやって来て、こそこそと耳打ちした。



「ねぇ、名前からなんとか言ってくれない?」
「わたし?わたしなんかが言っても意味ないと思うけど」
「そんなことないよエースくん名前の言うことなら聞くでしょっ」



ほらほら、と背を押されたので、疑問に思いながらもエースの元へ向かった。


苗字だ、もう安心だな。なんて男子の声が聞こえて何がだ。と心の中で返した。



「エ、エース」
「んぁ、名前か…お前はいいのかよこれ…」



と汚いものを触るように、Tシャツを摘み上げ見せてきた。
そんな汚いものを見るような目でそのTシャツを見ないで…、わたしもうそれ着てるんだから…。



「まぁ良いとは言えないけど…折角用意してくれたんだし、みんなと一緒に着ようよ」



頑なに肯定を示さないエースに苦戦しつつも、優勝するんでしょ?と言えばピクッと反応し渋々頷いてくれた。それに周りの子達も安心したように息を吐いていて、わたしはちょっとしたヒーローのような気分だった。



エースは大人しくあのTシャツを着てくれたんだけど、さっきのようなテンションではなく、自分の席に座って、ボーッと天井を仰いでいた。



「エース?」
「……」



心配になり声を掛けてみるも返って来たのは沈黙。おーいと肩を揺らしてみても、全く反応がない。



「もう!Tシャツは最悪だけど今日は体育祭だよ?エースがクラス引っ張ってくれないと!ね?」
「あぁ…」



今絶対理解せずに返事した!感情なさすぎの返事だったよ!!もう…いつもは鬱陶しいくらい熱いのに…!!


「お弁当!!たくさん作ったけど、そんなんだったらもうあげないからね!」
「なぁっ!?」



ガバッと振り返ったエースにわたしの口角がニヤリと上がった。
机の肘を付き顎を手に乗せてふふん、とエースを見た。



「あーしょうがないか、ルフィくんに全部食べてもらおうかなっ」



ガタッという音がしたかと思うと、目の前のエースは立ち上がり
うおおおお!!と叫んだ。



「優勝するぞおぉぉぉ!!!」



単純……



「お!いいねぇ、やる気満々じゃん」



と事の元凶である青雉が入って来て全員の視線が青雉に集まるが、本人は気付いていないようで陽気に教卓の前に立った。



「赤組の優勝はほぼ確定だな。なぁエース」



とまぁいつもの調子でエースへと振るのだけど、エースは少し殺気だっていて表面からメラメラと炎が見えそうなくらい。



「え、何?どうしたの」



ガタッと席を立ったエースはゆらゆらとゆっくり青雉に近づくとバサッとTシャツを脱いで広げたと同時に叫んだ。



「これダサすぎだろっっ!!」




それに対しクラスの女の子達はキャー!!と悲鳴が上がった。そりゃあね、だってエース半裸だもん、わたしはなんか見慣れちゃってるけど……ってなんで見慣れてんの!!



「何?最高のデザインでしょうよ」
「どこがだ!なんで雉なんか描くんだよ!!」



いや、そこ!?
まず赤組なのに「We love 青雉」って書いてるのがおかしいでしょ!!



「あらら、なんでよ、雉いいじゃん」
「なんでもっとかっこ良い動物にしねぇんだよ!」



トラとか!ライオンとか!白熊とか!不死鳥とか!



え、不死鳥?それって動物なの?



「不死鳥も鳥じゃん、だったら雉でいいじゃん」
「雉はなんかダサい」
「ヒドいね」



なんたどうでも良くなかってきた…。何この2人の会話…。
クラスのみんなもエースいったれ!って感じで盛り立ててたのに、エースの突っ込みどころを聞いてなんだよ。的な感じで離れて言ってしまった。



「じゃあさ、もしこれが優秀賞とったらどうする?」



ここで説明しておきますと、ウチの学校では体育祭で作ったクラスTシャツの中から各学年1つづつデザインの優秀賞が選ばれるのです。まぁ選ばれたからって何かあるわけではないんだけど。



「ありえねぇ!もし取ったら今年一年、青雉に逆らわねェよ!その代わり取れなかったらクラス全員に焼肉おごれよ!!」



おぉぉ!なんか凄いことになってる…!!この提案にはクラス全員が戻って来て、顔をキラキラと輝かせた。

…だけど、こんな賭け事、青雉が乗るわけ…。



「おれ教師だからさ、最初から言うこと聞いてもらわないとダメなんだけど。まぁいいよ、焼肉ね」



とあっさり承諾。




「「「うおおおおおぉぉぉぉ!!」」」



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