体育祭当日、体育委員であるわたしは、誰もいない教室に荷物を置き、準備があるため急いでグラウンドへと向かった。
「おはようございます!」
「おはよう、ちゃんと早起きできたんだねい」
一番に見つけたマルコ先輩に挨拶すれば、ちょっとびっくりしたように見られた。
失礼なっ!わたしだってやる時はやるのだ。
「当然ですよ、お弁当も作ったんですから!」
少し頬を膨らませて言えば、よくできました。と頭を撫でられた。ぷすぅと空気の抜けていった頬を見てマルコ先輩はクスりと笑った。
なんだか良い雰囲気だなぁとか思っているところへドスのきいた声が。
「おいてめえら!!イチャついてねぇでさっさと準備しやがれ!!」
げ。スモーカー…!!
てか聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど!!
「イチャついてないし!!」
先輩はモテるんだよ!わたしなんかとイチャついてる。なんて噂が流れたら迷惑だろうしこれは全面否定だ。
「本当に違うから、ありえないから」
仲の良い先輩後輩がいたっていいじゃないか、こんなブサイクでも仲良くしてくれる先輩がいたっていいじゃないか…!!
スモーカーの誤解を必死で解きながらチラっと先輩を見上げると少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
やっぱ怒ってる…そうだよね、わたしなんかと噂になったらやだよね、ここはなんとしても誤解を解かなければ。
「スモーカーやめてよ!?変な噂流さないでね!!」
「まず先生を付けろ」
う。
「先生!!」
「名前」
「もし変な噂流したら先生のこと一生ケムリンって呼んでやるんだからぁ!!」
「名前!」
「え?」
気が付けば今にもスモーカーを押し倒さん勢いで、さっきの位置から5メートルほど前進していた。
わたし、どれだけ必死だ…。
「早く準備するぞ」
わたしの手首を掴んでスタスタと歩き始めた先輩に慌ててついて行く。振り返ってスモーカーを睨んでやろうとしたら、そいつもそいつでほら見ろ、みたいな顔をしていた。
「あの…先輩、すいません…わたしのせいで…」
すると先輩はピタ。と足を止めた。少し後ろの位置なのでここから表情は見えないけれど、顔が少し下がっていた。
「…おれじゃだめかい?」
「えっ…?」
今なんと…?
聞き返すわたしに、先輩はなんでもねぇよい。と振り返ってニッといつもの笑顔を見せた。
コースのラインなどは昨日の内に引き終わっており、朝からすることはバトンや玉入れに使うカゴなどの準備のみ、あっと言う間に終わって、また集められる。
「朝から準備ご苦労だったな、始まってからも色々と忙しいが…各組優勝目指して頑張れよ、まぁ優勝するのは黄組だかな」
ちゃっかり何言ってんのよ。
「とりあえず一旦自分の教室に戻れ、競技が始まったら自分の仕事に忘れずに行くようにな」
じゃあ解散。の言葉にみんなぞろぞろと動き出す。
「名前、また後でな"玉入れ"頑張れよい」
なんだか、嫌味っぽく玉入れを強調された気がした…。
「先輩も頑張ってくださいね!ふん!」
だって走るの遅いもん!
それ以上の理由はないよ。
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