カランコロン
扉を開けると軽快な音が鳴り、ニッと片手を上げた。
「よッ!マキノ!」
「あらエースくん!久しぶりね、ジュースでも飲む?」
「おぅ!」
ここへ来るのは二ヶ月振りくらい、子供の頃はよく来ていたけど、最近では昔ほど頻繁には来なくなった。今、客は誰1人いないらしく、店主のマキノが相変わらず綺麗な笑顔で迎えてくれた。いつものカウンター席に座ると、コト。と氷入りのオレンジジュースが置かれた。
「今日はどうしたの?」
「へへっ、待ち合わせなんだ!」
「あ、もしかして、よく話してくれる名前ちゃん?」
「ち、違ェよ…!!」
マキノの口から名前の名前が出たことには驚いてしまった。意識し始めたのは最近だけど、そういえばマキノにも名前の話してたな、と思い出す。
きっとその頃の自分は無意識だったんだろうけど
カランコロン
先程と同じ音がして、自然と顔がそちらへ向いた。
「よぉエース、久しぶりだな!」
扉の所で立っていたのは、ニッ!と笑う金髪の青年。頭には昔と変わらず黒の帽子が乗っていて、久しぶりに見たその姿におれの口角も自然と上がった。
「サボッ!久しぶりだな!!」
サボとはお互いが5歳の頃からの悪友。中学は同じで、もちろん名前の事も知っている。
高校へ進学する時、今の学校へ入ったおれと、親に従い有名な進学校へ入ったサボ。
中学卒業してもまめに連絡を取りあっているし、長期休暇なんかはたまに会っていて、今日は久しぶりにマキノの店に行こうってことになったんだ。
マキノを見れば少し驚いたようにサボを見て、いらっしゃい…!とつぶやいていた。
「お久しぶりですマキノさん!この店に来るのは中学卒業振りですね」
「えぇ…!大きくなったわね…、さ、座って!」
サボがおれの隣に腰掛けるとマキノがまたオレンジジュースの入ったグラスを持って来た。半分に減っているおれのグラスにもまた足してくれた。
「今回は久しぶりだなー」
「春休み会えなかったからな、悪ィ…」
「いいって気にすんな」
春休みはおれの成績がヤバイからってジジイに学校で補習させられた。追試の点もギリギリで本当は留年かもしれなかったらしいんだけど、ジジイがなんとか補習だけで済ませてくれたみたいだ。
「まぁ良かったじゃねェか、ルフィと同じ学年にならなくて、兄貴の面子丸潰れだぞ」
「まぁそうなんだけどよ、ルフィと同級生ってのも楽しそうだ」
「何言ってんだよ、バカ」
ゲラゲラ笑うおれとサボの話を聞いてマキノもクスクス笑ってる。なんだか懐かしくて、ここにルフィもいればなー。なんて思ったけどこんな話は聞かせられねェしな、とまた今度連れて来ることにした。
「お前はやっぱ余裕で上がれたのかよ?」
「まぁな。なんか教師に媚びてるバカばっかでさ、勉強しろっつの」
サボの通う学校の生徒は親が金持ちやら貴族やら、地位を全てだと思っててほんと胸糞悪いやつらだ。卒業までにサボがそっち側に染まらねェか心配だったけど、サボなら絶対大丈夫だ、一年経ってもサボは何も変わってねェんだもんよ
「まぁ残り2年の辛抱だしな。そういえばルフィは元気か?」
「相変わらずだ。仲間も出来たらしくて毎日楽しそうだ」
「会いてェなァ〜!!あ、名前は?」
「ッ……!お、おう、あいつも…元気だ……!!」
意識し始めてから名前と言う名前に敏感に反応してしまう。
サボはテーブルに肘を付き手に顎を乗せると、にたぁと笑っておれをジッと見た。な、なんだよ…!!と思わず言う
「お前、分かりやすい」
「なぁっ!?」
「名前のこと好きなんだろ?」
「ッ…!!」
サボのストレートな言葉に、言葉が詰まり、ゴホン。と咳払いして話を始めた。
「やっと気付いたのか」
「なんて言うか…意識はしてると……思う。最近さ、名前モテてて…おれといる時間が減ったって言うかさ…」
「なるほどな〜」
ハッと下がっていた顔を上げてマキノを探した。今、普通に話しちまったが、マキノに聞かれていたら色々と面倒だ。
ジジイやダダンにまでバレるかもしれねェ…!!
ジジイは口が軽いから名前にポロッと言っちまうかもしれねェし、ダダンは…、なんとなく知られんの嫌だ!
そう思ったが、奥で酒樽の整理をしているのかいないことにホッとした。もしかして態と外してくれたのかとも思ったが、奥から出てきた時、何?なんの話?と入って来たためそういう訳ではなさそうだ。
「で?どこまで進んだ?」
「それは…」
まぁ一応、一晩同じ布団で過ごした仲ではある、何もしてねェけど…
それを言おうとしたが今度はマキノの姿が目に入り、手で口を隠し、サボと顔を寄せ合った。
「この前泊めてもらって、一緒に寝た!何もしてねェけど」
「え、まじかよ!」
不思議そうにこちらを見るマキノを他所にコソコソとサボと話す。
「なんで何もしねェんだよ!」
「だってさ、名前雷怖がってたし!そこでするなんて最低だろ!」
「まぁそれはそうだ…」
納得したようなサボにおれもだろ!と返す
「こんなんじゃマルコに取られちまう…」
「え、マルコさんも狙ってんの!?」
「直接聞いたわけじゃねェけど、たぶんな…」
「うわぁ…、名前すげェ…」
哀れみか尊敬か、よく分からない表情をしたサボにおれも苦笑いを返す。
「とにかく頑張れよ、おれも協力するから!」
「おう!さんきゅ!」
「またさ、夏休みにでも名前誘って遊ぼうぜ!それまでに少しでも進展させとけよ?」
「それいいな!」
「何を頑張るの?」
「マキノッ…!?」
「エースが次は補習しないように勉強頑張るって話だ」
「あらそう!じゃあこれサービスね」
マキノが出してくれたチーズケーキに少し罪悪感が芽生えた。
勉強もします……
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